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夜桜  作者: kazuha
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第2“少女”

 産まれた理由なんてどうでもよかった。ただ、こんな詰まらない世界に落とした、神と呼ばれる存在を恨みたい。なんで思うままに殺させてくれないのか。

 病院の不味いメシを食べながら、スプーンでどうすればあの新人看護師に気づかれずに死ねるかを考えていた。毎日のようにスプーンじゃなく、ナイフやフォークなら多少は楽だなぁと思うが。まぁホントにナイフが出てきたら病院の体制を疑うが。

 食べ終わり、また失敗したことに気づく。食べず飲まずなら死ねる。

 しかし、点滴とか打たれたら面倒だし、今までの苦労が無駄になるのはイヤだ。しかも長期戦になるしな。死ぬならさっさと死にたい。

 だからメシだけはしっかりと食べてるんだが。

 スプーンをトレーに置き、ドジ看護師の桃にトレーごと食器どもをつきだす。

「おそまつさま。なにかあったら呼んでね。それで」

 桃はベットの左側にあるナースコールを指差して言った。

「なにかあっても呼ぶわけないだろうがアホ」

「それもそうね。死にたいヤツがメシ平らげるわけないわよね。ってあら綺麗なこと。とても自殺願望者のトレーとは誰も思わないわよね」

 軽くムカつく。

「看護師のクセにそんな口調でいいのかよ」

「いいのよ。アンタには」

 薄ら笑いを浮かべて病室から出ていった。

 ………。

 する事が無くなった。だったらやることは一つだ。



 寝る。



 食後だからか、すぐに安眠出来そうだ。

 その時、春一番なのか、さっきまで静かだった風が窓ガラスに強く当たり、窓は悲鳴をあげた。

 咄嗟の事に驚き、布団も毛布もないベットから起き上がった。

 ただそれだけの事になぜ驚いたのかと真剣に悩んだ。

 その時だ。また少女が、あの赤い表紙の黄色いしおりが挟んである本を持って、あの桜の木に近づいていっていた。名前は、確か明日香。なんかその名前、古い感じがするな。気のせいか?

 少女が気になって窓に近づいていった。

 少女の回りには病気なのだろうが、元気な少年少女が冒険して楽しんでいる。未来には挫折と絶望と悲しみしかないのにまったく楽しそうだ。

 その少年少女はなぜか明日香の方には近付いていかない。なぜか避けている気がした。

 むしろ、明日香は一人であんなところで本を読んで、寂しくはないのだろうか。

 そうか、明日香もあの歳にしてオレと同じ境遇なのか。なんなら一緒に練炭で逝こうじゃないか。

 しかし、ここでどうやって練炭を購入するのか。

 すぐさま諦めた。早く退院してぇ。

 そんなこと思っていたら明日香はなにかを思い出したかのように院内に走り込んできた。

 トイレか?

 そう思うと急にトイレに行きたくなった。

 無造作にナースコールを押した。

 アイツはここに来るのに三分かかる。今一時四十五分だから、四十八分に来るな。

 待つこと三分。いつも通りにヤツがやってきた。

「なによ」

 看護師長のババァに叱られたのか、多少不機嫌のような口調だ。

「トイレ。行ってくる」

 オレは桃を無視して病室から出て行く。桃は後から追いかけてきた。

「大?小?」

「女がそんなこと聞いて恥ずかしくないのか?」

「うるさいわね。どっちなのよ!」

 老いぼれのジジイや、看護師を困らせる少年少女や、心配そうな顔をしながら病室から出てきた女性などを横目に、もしかしたら少女を見つけられるかもしれないと歩みを早め、桃をまく。

 そんな期待も虚しくトイレについてしまったが。オレは中に入り小をし、手を念入りに洗って、濡れたまま出る。

 出た瞬間に目付きが悪いあれと目をあわせてしまった。

「先に行くなっつってんだろ! ガキじゃねぇんだから言うことを聞け!」

 怒られた。オレはアイツに向けられる視線が痛くてつい笑ってしまった。

「笑うんじゃねぇよ! 怒られてんだぞテメェは!」

 顔を真っ赤にして怒鳴る怒鳴る。オレは人指し指で耳を塞いだ。

「人の話し聞いてんのかテメェ!」

「それはこっちの台詞です。桃井さん!」

 さっきっから後ろにいた看護師長のババァが痺れを切らして桃の右肩に手を乗せた。桃の顔から血の気が引いていくのが面白いぐらいにわかった。

「あなたは何回同じことを言えばわかるんですか? 病院内には他の患者さんがいるのだから静かにしなさい」

 これが笑わずにいられるか。あの気が強い桃が全身を小さくしてペコペコと頭を下げているではないか。

「後で私の所に来なさい。わかったわね」

「はい」

「それから亀山さん。あまり騒がしくすると一生病院から出しませんからね」

 急に飛んできた火の粉に驚き変な声で返事をした。

 説教タイムは終わり、オレは桃のことを、本人に聞こえるよう嫌味をぐじぐじと言いながら病室に戻った。

 病室に入ってすぐに外を見るとそこにはあの子がいた。何となく溜め息をついた。

「どうした? まだ私の愚痴が言い足りないか?」

 そんなんじゃねぇよ。呟いてベットに座った。

「じゃぁなに? そんなに外ばかり気にして?」

 オレは時計をまじまじと見詰めた。秒針が一定のテンポで時を刻み、短針と長針はただそいつのバトンを待っているだけで自らは動こうとしていなかった。

 四時。日が沈み始め、いつの間にか遊んでいた少年少女はいなくなっていた。

 まだ咲かない桜の蕾の下で、無表情で、悲しそうで、楽しそうで、苦しそうで、暇そうで、そんな表情でただ本を読んでいるだけの少女。

「それしかやることないんだからいいだろ?」

 桜の木の影はこの病室にまで伸びていた。

「外を見ることはいいわ。アンタに似合わないってだけで。ただ、」

 開けていた窓から風が入り、桃の肩までしかない髪をイタズラに揺らした。

 嫌に冷たい表情をして、嫌に冷静な口調で、オレはどんな感情をその言葉に覚えたか記憶にない。また、昔の感覚に体全体を被いついただけだった。

「明日香ちゃんには絶対に喋りかけたり近付いたりして欲しくない。それだけよ」

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