第12“退院”
退院の日。オレは、行く宛もなく、どうしようか悩んでいた。家には帰れない。
そう考えていたら、病院側の人が数人、見送り来てくれた。
「退院おめでとう。あなたには一生来てほしくないわ」
相変わらずの看護師長の言葉に苦笑いを浮かべた。
「明日香さんの件については気にするな。死期が早まっただけだ」
陣内がそう言い放つ。
「でも、やっぱり気分が優れねぇよ」
「君が殺したんじゃない」
「わかってるよ。原因は桜自信だったんだろ。何度も聞いたよ」
明日香の発作の原因、それは、桜の木と朝日と空、綺麗だと思っていた、あの風景が原因だとわかった。
なぜか。
母だ。
白骨死体が見つかった。明日香の死んだ日と一緒に。身元もわかり、白骨死体が明日香の母だとわかった。
悲しい話だ。母が死ぬのを見ていたなんて。
樹海、母と入り、首を吊るところを見た。明日香は泣き叫んでいた。そこに、父が来た。偶然だったのだ。桜の花が満開だった。
父は母を確認したが、無視をした。邪魔だったから。
明日香を家に連れて帰る。あそぼ、そう言われても、仕事で遊んであげてなかった。
そして、虐待。
明日香の父は全てを認めて、今は刑務所だろう。
「気を付けろよ」
「お前もな」
オレは病院に背を向け、無意味に歩き始めた。
「あ、そうだわ、桃井さん。今日は休みにしてあげるんだったわね」
看護師長がわざとっぽく大きな声で言う。
「え? そうでした?」
「そうなの。早く帰りなさい」
「でも、患者……」
「私たちがなんとかするわよ」
「や、やめてくだ!」
身構えていないオレの背中にぶつかるものがあり、そのまま、地面に突っ込んだ。
倒れたオレに重い物質が乗っていて、苦しいし、起き上がれない。
「いったー」
「じゃま」
「ご、ごめん!」
桃はすぐに立ち上がり、オレを立たせる。
「大丈夫?」
「いてぇ」
「ホントにごめん!」
「ったく。謝る気あんなら、オレに行く場所くれよ」
そう言うと、俯き、恥ずかしそうに口を開いた。
「じゃぁ、さぁ、私ん家、来る?」
体が一気に熱くなる。
「ば、バカ野郎! オレ、男だぞ!」
「亀山さんなら、別に大丈夫だよ」
「いやいやいや」
「いやなの?」
「そういう訳じゃないけど」
「じゃぁ、いいじゃん」
「まぁ、」
「男は襲って南保だぞ!」
後ろから宇治金時先生が叫ぶ。
「うるせぇ!」
オレは、病院の反対を向く。
「どこだよ」
「え?」
「桃ん家、どこだよ」
オレは桃の手を掴み、引きながら歩き出す。
「なぁ、オレでいいのか?」
「バカ。あんたが、バカみたいに、ずっと鬱になってたから、気になっちゃったんじゃない。好きなの」
その言葉を言う桃の顔は真っ赤だった。
「ありがとう」
オレたちは、まっすぐ続いている道を進む。
満開の桜が退院を見送ってくれた。
悲しい桜、優しい桜。
あの桜はどっちだろう。
「きっと優しいよ」
桃がオレの疑問を答えてくれた。
桜の木の下で座っている、赤い本を読んでいる、間違いなく幻覚の、妖精が手を振っていた。
手を振り返す。
サッと、消えていった。
時が止まっていた。オレは、なにをしてあげたのか。一生をかけてもわからないだろう。
時が止まっていた。ホントに止めてしまった。動かしてあげるつもりだったのに。
時が止まっていた。はじめっからだ。
はじめっから、動かないデジタル時計だったのだ。
電池を変えても、中の線を取り替えても、1秒も動かないデジタル時計。使い物にならないから捨てるのか、使い物にならなくしてしまった自分を責めるのか、無理矢理動かそうとするのか、人それぞれだろう。
ただ、そのデジタル時計は、変わらずその時間だけを示し続けるだろう。
赤い本がそこにあり続けるように、オレが生き続ける限り、地球があり続ける限り、なにも変わらない。
その時間に、その子がいたのだから。
「なに手を振ってんの?」
「お別れだよ。また遊ぼうなって」
きっと、変なやつに見えたんだろう。でも、優しく見守ってくれた。
デジタルの時計は、また動き出すのかもしれない。その時計の持ち主は変わってしまったのだが。
「行こうか」
「うん」
歩み始めるオレたちを、桜は花が包んだ。
「また、遊ぼうな」
桜はただ、オレたちを見ているだけだった。いや、しっかりと見守っているのかもしれない。明日香が好んだあの桜は、桃が言ったように優しい。
明日香があの木の妖精となり、名前の通りに、オレたちの明日に甘い香りを巻いてくれる。
昼なのに、桜が夜桜に見える。月光が道を拓き、瑠璃色に色付く未来は、きっと今の桜のように、綺麗に咲き誇っているのだろう。まだ、蕾でも。花を咲かせるまで、この手は離さない。オレは、あの桜に誓った。
ご愛読ありがとうございました。
少し短いお話でした。途中道を外してしまったりしまして、内容が上手くまとまらなくなってしまい、少し後半無理矢理……。大変読みづらい作品だと思います。申し訳ないです。
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