戦士長
# 第八章 戦士長
王の間は静まり返っていた。
兵士たちも。
ガルダも。
誰も喋らない。
ただ一人。
扉から現れた男だけがゆっくり歩いてくる。
黒い衣。
長い髪。
年齢が分からない。
若くも見えるし。
老人にも見える。
でも。
ただ一つだけ。
普通じゃないことがある。
**空気が重い。**
この男が一歩進むだけで。
部屋の空気が変わる。
俺はレベリーンを肩に乗せたまま言った。
「……あんたが戦士長?」
男は止まる。
俺を見る。
そして言う。
「そう呼ばれている」
声は静かだ。
でも。
なぜか響く。
男の目がレベリーンを見る。
「その剣」
「まだ動くんだな」
俺は聞いた。
「知ってるのか?」
男は少し笑った。
「作ったからな」
俺は眉を上げる。
「……剣を?」
男は首を振る。
「違う」
「訪問者をだ」
部屋の空気がさらに重くなる。
王は黙って見ている。
俺は少し笑った。
「なるほど」
「本人か」
男は言った。
「名前は必要ない」
「だが」
少しだけ考える。
「皆はこう呼ぶ」
「戦士長」
俺は聞いた。
「どうやって作った」
戦士長は天井を見上げた。
高い天井。
その向こうにある空。
そして言う。
「空を見たことはあるか」
俺は答える。
「毎日見てる」
戦士長は続ける。
「この星には膜がある」
「すべてを守る膜」
俺は言う。
「大気圏」
戦士長はうなずいた。
「そうだ」
「何も通さない力」
「隕石も」
「宇宙線も」
「ほとんどすべてを防ぐ」
俺は思い出す。
訪問者が落ちるとき。
空で止まる。
一瞬だけ。
戦士長が言う。
「その力を」
「形にした」
俺は言った。
「訪問者」
戦士長は答える。
「そうだ」
王がそこで口を開いた。
「この星を守る兵士」
俺は少し笑った。
「守る兵士が」
「街を壊してるけどな」
戦士長は静かに言った。
「紫外線」
「それに弱い」
俺は言った。
「聞いた」
戦士長は続ける。
「長く地表にいると」
「形が崩れる」
「理性も壊れる」
俺は腕を組んだ。
「じゃあ」
「地下のやつは?」
戦士長の目が少し動く。
俺は言った。
「喋った」
王の目が少し鋭くなる。
戦士長は少しだけ考えた。
そして言う。
「完全に壊れていない個体もいる」
「地下なら紫外線を浴びない」
俺は言った。
「つまり」
「理性が残る?」
戦士長は小さくうなずいた。
沈黙が流れる。
そのとき。
王が言った。
「だから」
「すべて破壊してほしい」
俺は王を見る。
「守る兵器なんだろ」
王は答える。
「もう必要ない」
その言い方。
少し引っかかる。
俺は聞く。
「なんで?」
王はゆっくり言った。
「新しい守りがある」
俺は少し笑った。
「便利だな」
「どこから?」
王は答えない。
そのとき。
戦士長が言った。
「アユト」
俺はそっちを見る。
戦士長の目は静かだ。
でも。
どこか。
遠くを見ているような目。
戦士長は言う。
「レベリーンは」
「訪問者を壊すための剣だ」
俺は肩をすくめた。
「知ってる」
戦士長は続ける。
「訪問者の核を壊す」
「唯一の武器」
俺は聞いた。
「その核ってどこ」
戦士長は言う。
「胸」
「だが」
少し間を置く。
「巨大個体は首にもある」
俺は笑った。
「さっき首斬ったぞ」
戦士長は少しだけ笑う。
「正しい判断だ」
王がそこで言う。
「アユト」
「訪問者をすべて破壊しろ」
「報酬は好きなだけやる」
俺は少し考える。
そのとき。
窓の外で。
空が少し光った。
一瞬。
何かが動いた気がした。
でも。
誰も気づいていない。
俺は王を見る。
そして言った。
「まあ」
レベリーンを肩に乗せる。
「暇だし」
「やってやるよ」
王は満足そうに笑う。
でも。
戦士長だけは。
笑っていなかった。
戦士長は小さく言った。
「……遅すぎるかもしれない」
俺は聞く。
「何が?」
戦士長は空を見る。
窓の向こう。
青い空。
そして。
小さく言った。
「もう」
「気づかれている」
俺は眉を上げる。
「誰に?」
戦士長は答えない。
そのとき。
王城の外から。
兵士の叫び声が聞こえた。
「報告!!」
扉が開く。
兵士が駆け込む。
息が荒い。
「王!」
「空に……」
言葉が詰まる。
王が言う。
「言え」
兵士は震えながら言った。
「空に」
「巨大な影が現れました」
俺は笑った。
「また訪問者か?」
兵士は首を振る。
顔が青い。
「違います」
兵士は言った。
「訪問者より」
「……速い」
その瞬間。
戦士長の目が変わった。
初めて。
焦りの表情が出る。
戦士長は言った。
「……来たか」
俺は聞いた。
「何が」
戦士長はゆっくり言った。
「外部だ」
その言葉を聞いた瞬間。
王の顔に。
一瞬だけ。
**笑みが浮かんだ。**




