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【番外編】サタン~緋心の名になる前の話~後編

花音はその美貌から、

毎日のように告白されていた。


同級生だけではなく、


高学年の子や、中学生。



更には、教師にまで。





興味がない男が頬を赤く染めながら

思いを伝えてくる。




花音は心底気持ち悪いと思っていた。


その赤は、花音の好きな

赤ではない。




ただ、好きという感情は

想像以上に人の心を動かすもの。



自分も彼らと同じように

父を愛し、想っているため、

痛いほどその気持ちが理解できる。




もし何かあった時

こいつらは私の為に力になろうとする。



そう考え、気持ちには応えないが、


断った後も優しく接し

その気にさせる態度をして、


彼らの心を離さなかった。





誰かに想いを告げられる度、


花音の頭には笑顔の父が現れる。




優しくて、怒ったことがない。


どんな時も花音を最優先にしてくれる。



何より、


自分にそっくりな父の顔は

とても美しい。




鏡に映る自分以外で美しいと思う人は


自分にそっくりな父だけだった。





そして、


真っ直ぐに『愛してる』と

伝える父には、誰も敵わなかった。







***







花音は、漫画やドラマを見て


恋愛への知識と興味を高めている。




この日は一人、湯船に浸かりながら

物思いにふけていた。



パパともっと一緒にいたい。


二人だけで。



…ママがいつも邪魔をする。

いらない。




父への想いが膨らむたびに

母の存在が邪魔に思えてきた。



脈が速まる左腕を

ぎゅっと掴みながら考える。




パパだって本当はそう思ってる。


でも全てを口にしてしまったら



『家族』が終わってしまう。



私とパパは切ない恋をしている。



私が大人になればきっと…一緒に…





花音は胸がぎゅっと締め付けられるような

苦しい感覚を覚えた。





そして、お風呂を上がると


リビングで両親が仲良く会話をしながら

お酒を飲んでいた。




花音がお風呂から出たことに気付かず


抱きしめ合いながら、キスをした。




その後、父が




父「葉子、愛してるよ。」と言った。






花音は髪も乾かさずに

自分の部屋へと逃げ込んだ。



その時、やっと


父の言う『愛してる』の意味がわかった。




私に対して言う『愛してる』は、

娘を想う父としての愛情表現だった。




父が恋愛の意味で本当に『愛してる』のは

母だけだった事に気付く。





花音の左腕は今までで1番

脈が速く、凄まじい動悸がした。





数時間後、父は

何事もなかったかのようにやってきて


いつものように花音の頭を撫で、

『愛してる』といい、寝室を出た。




ドアが閉まる音がして、

花音は目を大きく見開いた。




何としてでもパパの気持ちを

手に入れてみせる



そう決心した。



怒りや悲しみなど、色んな感情が

押し寄せてきて、一睡も出来なかった。




何故か目を閉じる事すら出来ない。




眠れないまま朝を迎えた花音の目は、

瞳孔が開いていた。






***






翌日から約1ヶ月間、花音は


クラスメイトや先生、近所のおばさん達に

積極的に接して、自分をいい子だと

印象つける事に徹するようになる。




普段は行かない親戚の家へも

友人を連れて遊びに行くようにした。



学校では、


困っている人には手を貸したり、

孤立している子に声をかけたりして


とにかく分け隔てなく親切を売った。








そして、信用させたところで、

暗い顔をしながら


「パパがお酒飲んで暴れるの」


「私、パパの事で悩んでるんだ」と


話したり、



わざと左腕に包帯やリストバンドを

付けて、不自然に腕を握る仕草をした。






こうして、自分の闇の部分が強く

周囲の頭に植えつけられるように

仕向けたのだ。







もし何かあった時

こいつらは私の為に力になる



以前から誰かに告白される度に

このように考え、手玉に取ってきた。




それが今、


誰これ構わず媚びを売っている。





花音の行動は



皆に味方につけなければならない、



何か特別に悪いことをするつもりなのだと

思わざるを得ないものだった。









その日の夜、


花音は父の翌日に着る服を準備した。





父「花音、ありがとう。明日着る服を

用意してくれたんだね」




父は花音の頭を撫で、微笑んだ。


花音も父に褒められた事が嬉しくて

にっこりと笑った。





着替えを置く棚には、


真っ白なトレーナーが

置かれていた。






***







6月6日。



今日は花音の10歳の誕生日だ。



家へ帰ると、壁中に誕生日の

装飾が施されていた。





テーブルには沢山のご馳走が並ぶ。



娘の成長に、両親はお酒が進んだ。


父は悪酔いは一切しない酒豪体質だった。




両親は誕生日には定番の曲を歌い、

花音はそれに応えるかのように

10本のろうそくに息を吹きかけた。




母「さ、ケーキを切りましょうね!」





花音「あ、待って!私が取ってくる!」





包丁を取りに行く母を止め、

自ら取りに行く。




父「危ないから気をつけなさい。」



花音「はーい!」




台所の戸棚を開け、1番長い

包丁を取り出して手に持った。



リビングに戻ると、

父がトイレで席を外していた。




花音は包丁をテーブルに置き、

グラスを握りしめた。



そして、


スマホを眺めている母の顔に


2.3回グラスで殴り、

包丁を持ち直した。





母「きゃあー!!!」




母の悲鳴を聞き、父が駆けつけた。



状況を見て動揺するも、


娘をとにかく落ち着かせようと

優しく語りかける。




父「花音、大丈夫。大丈夫だから

その包丁を離しなさい。」





花音「嫌だ。この世にママはいらない。

ママを刺してからパパを刺す。


パパ言ってたでしょ?

名前の由来の通りになりたいって。


子福桜ってね、散り始める頃に

芯が赤くなるんだって。


ほら、今日の服!白にしたんだよ。

お腹を刺したら子福桜になれるから。


パパの願いを叶えたら、ママより

私を好きになってくれるよね?」





そう言い終えると、


しゃがみこんだ母親に向かって

包丁を振り落とした。







花音の手元には、何かを刺した、

確かな手応えがあった。



だが、手元を見てみると、

その背景は白かった。




父が床をスライディングするようにして

母の前に行き、庇ったのだ。





父の白いトレーナーは

見る見るうちに赤く染まっていく。




花音は計画の順番が変わった事と、


刺してからようやく自分がした事の

重大さに気付き、パニックを起こしている。




母は手を震わせながらスマホを操作し、

119に電話をかけようとしていた。


たった3つの簡単な数字が、

手の震えと恐怖で打てないでいる。





父は喋るのもやっとな状態でありながら

それを感じさせないように優しく、

ゆっくりと二人に語りかける




花音「パパ……パパ………!」






父「花音。大丈夫だよ。落ち着いて。

ママも落ち着いて。僕の話を聞いて。


いいか、二人とも。今起きたことは

絶対に誰にも言ってはいけないよ。


パパがお酒を飲んで暴れてママを

殴って、次は花音を襲おうとした。


花音は自分を守ろうと思って

テーブルにあった包丁を手に取り、


襲いかかろうとして足を滑らせ、

転んだパパを刺した。


何があってもこう話しなさい。


ママ、正当防衛だと言うんだよ。」






母「あなた…私には出来ない。無理よ。

もうこの子を愛すことは出来ないわ。


やっぱりおかしかったのよ…

あの時のまま何にも変わってなかった。

何しても無駄だったのよ!!


こんな化け物に育つとわかってたら私、

産んでなかった。」







花音「パパ…ごめんなさい。ごめんなさい。」





父「葉子、この子がどんな子だろうと

僕達の子供だ。産まれた以上、見守る

責任があるんだよ。見捨てちゃダメだ。


夫の最後の願いだと思って聞いてくれ。」



母はその言葉を聞き、号泣しながら

懸命に震える手を落ち着かせ、

やっと119にかけることができた。




そして



父「花音。今何を思っている?

どんな気持ちだい?」



と、花音に尋ねる。





花音「私、大変な事をしちゃった…


ただパパに私だけを見て欲しかった、

それだけなのに…どうしよう。


このままじゃパパが死んじゃう。」



花音の感情とは裏腹に

左腕の脈拍が速まる。



花音は血だらけの手でぎゅっと掴んだ。





父「花音。今のその気持ち、絶対に

忘れちゃだめだ。やってからでは

もう取り返しがつかないんだよ。


パパが死んだら悲しいと思うように、

他の誰かを刺したらその家族は悲しむ。


だからもう、絶対にこんな事するな。


その腕、そうだ…その腕が悪いな。

パパの腕時計を肌身離さず付けなさい。

花音が悪いことを考えた時、

パパがその邪念を抑えてやる。


いつもパパがそばにいる。

その事を忘れるな。約束だぞ。


花音、葉子。愛してる。」





父はその言葉を最後に、

息を引き取った。





救急車のサイレンと、

母の泣き叫ぶ声が響き渡る。




花音は耳を塞ぎ、座り込んだ。








***








二人は父との約束を守り、


正当防衛だったと主張した。





母は最愛の夫を娘の手によって

失ったショックと、


事実を話せないストレスで

記憶喪失になってしまった。





記憶喪失の母は、


夜になると

「誰か化け物を殺して…」と


毎日泣きながら言うらしい。






花音は適切な過程を経て、


児童自立支援施設に行く事になった。




支援施設へ向かう車内で、

窓の外を眺めながら

父の最期を思い出していた。



左手につけたパパの腕時計の文字盤を

ゆっくりと、何度も撫でる。





花音「パパ…私、頑張るね。」と




小さく決意を呟くと、



花音を乗せた車は

真っ白な紫陽花がうんと咲き誇る

寺を通過した。





花音「真っ白な紫陽花…初めて見た。」





そう言うと、花音の右耳から


『白は真っ赤に染めないと。』と


恐ろしく低い、知らない男の声がした。




花音は思わず右耳を抑える。



その声は


『本当はあの時、赤く染まっていくのを

綺麗だと思っていたくせに。』




と、花音に言い放った。







花音「違う!思ってないもん!パパに

ごめんなさいって思ってるもん!」





『だったらその左腕はなんだ?

白い花を見て染めたいと思ったんだろ?


パパは確か、桜佑だったよな。

次はどの白い花を染めようか。』



右耳の男は、花音の頭を邪念で

包み込もうとする。





左腕の脈拍は速まる。




すると左耳から、パパの声がした。



父「花音、だめだ。落ち着きなさい。

大丈夫、大丈夫だから。」




その声を聞き、右耳の男の声は止んだ。




花音は左腕をぎゅっと掴んで、

再び窓の外を眺める。








私は変われる。



今だってほら、

パパが止めてくれた。




パパが傍に居てくれるから

もう繰り返したりしないよね。










ねぇ、パパ。




大丈夫だよね、私。





白い花は

白のままで綺麗なんだって


いつか心から思える日がくるよね?







何でかな、パパ。



施設で過ごすようになって、



右耳から聞こえる声が

どんどん大きくなっていくの。








あのね、パパ。




パパとの約束、守らなくても

いいやって思っちゃうの。








どうしよう、パパ。


パパが抑えてくれてるのに

我慢出来なそう。







お願い、パパ。


この手を止めて。









答えて、パパ




私はいつになったら


人を殺すのをやめられるの?


















_終_
















最後の部分…ねえ、パパ、と

声の届かぬ父へ問う部分は



施設→社会復帰→殺人


上のように、問う度に花音から

緋心に成長していくイメージです。



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