01-04.
必死な叫びも無駄骨。私は運搬され続ける。
そしてしばらく走った白馬の人は、駅の外に出て紺色の大きなワゴン車の前に立つ。
すると後部座席のドアが自動ドアのようにサッと開く。
白馬の人は私を車内に下ろすと、自分もそそくさと乗り込んだ。
「嘘……ちょっと!」
騒ぐ間もなくあっという間にドアがバタンと閉められると、外からは見えないスモークガラスの貼られた車内。閉鎖空間だ。
すぐそばに私を見つめる複数の男性の姿が見えて、ゾワッと背筋に寒気が走る。
これはまさか……拉致監禁!?
「なっ、何よ……」
情けなく声が震え、身を固くする。
金目のものでもゆすり盗られるのだろうか。
おとなしく渡す?
いや、そんなことより早く逃げなくちゃ!
「降りる!」
私は半狂乱になって暴れた。
「ん? ちょっ、ちょっと待っ――」
「放しなさいよ!」
「イタタタッ。ちょっと落ち着――」
「無いわよ! 金目のものとか大して持ってないから!」
「えっ? カネメ?」
ジタバタと抵抗して、ドアの前を塞ぐ白馬の人にパンチを繰り出す。
だが、なかなか強固な白馬の被り物。叩いてもポコポコと音がするだけで、いまいち手応えがない。
ならばとボディーを狙う。
「そこを避けなさい!」
よし、右ストレートが入った。なかなか硬くていい腹直筋だったが、効いたらしくて中の人からゴホゴホと咳が聞こえる。
「待ッ……待って! お願いだから……ちょっとストップ! ねぇ、何もしないから落ち着いて?」
そう聞いて、私は疑いつつも暴れるのをピタリとやめる。
ゼェハァと息を乱しながら、じーっと白馬の顔を見つめていると、中の人から「ケアするだけ」と聞こえてきた。
「……本当に?」
訝しんでギロリと睨むと、白馬の顔からフッと息の漏れる音が聞こえる。
「うん、本当だよ。怖がらせてごめんね」
そう言われたものの、「はいそうですか」と安心はできない。
私はチラチラと車内を見回す。
白馬の人のほかに、後部座席に男性3名、そして運転席に男性、助手席に女性が乗っていた。
白馬の人以外は被り物をしていなくて、普通に顔が見える。
皆、30歳くらい。私よりずいぶん年下ではないだろうかという見た目だ。
私はゴクリと唾を飲み込むと、震える手でバッグを探ってスマホを取り出す。
「変なことをしたら、すぐに警察を呼ぶから」
「警察? いるよ?」
「……は?」
目をぱちくりさせる私に、白馬の人が親指で後ろを示す。
「タカノ。警察」
まさかの、後ろの座席にいるタカノと呼ばれる男性は警察官らしい。
これは果たして幸なのか不幸なのか混乱してわからなくなってきた。
するとその警察官の男性は、伺うように私に一度目を合わせ、次に白馬にじっとりとした視線を向ける。
「おいナオ、なに無理矢理お持ち帰りしてきてんだよ。すっげぇ嫌がってんじゃん」
逮捕すんぞ、と呆れたように眉尻を下げる。
タカノという人は、どうやらまともな人らしい。
もっと言ってやってくれ警察官、と応援したい気分だ。
「前が見えにくくて、間違えて思いっきりぶつかっちゃったんだ」
「お前何やってんだよ。……で、なんで連れてきたの?」
「怪我が心配だったんだ。それに周りが騒いでたから一緒に逃げてきた」
「……そりゃあ置いてはこれねぇな」
「うん。――あぁ、それでマサヤ、この人を診てあげてくれない? 左の肩を怪我してるかも。壁に思い切りぶつかったんだ。『元気だ』って言ってるけど、無理してるかも」
すると奥の席に座るマサヤという男性が「ふぅん」とぬるく返事をして、私の左肩に手を伸ばす。
私はその手をすぐさまバシッと払った。
「ちょっと! 勝手に触らないで!」
威嚇するように睨むと、マサヤという男性が苦笑いを向ける。
「あぁ失礼。そう怒らないで。俺、医師だから」
「え?」
「さすがに医師免許証はデカくて持ち歩けないから証明できるものは持ってないけど、本当に歴とした現役の医師なんだ。……あぁ、はいこれ、どうぞ」
渡されたのは名刺だ。
見てみると、見知ったロゴマークが見える。
母校の大学病院のものだった。
(後輩……?)
見たことのない人物だが、整形外科医らしい。
見た目はコミュ力高めのスポーツマンという印象。確かに整形外科にいそうな外見だ。
そして同じ医師と聞くだけでちょっとホッとする自分がいる。
とは言っても、母校の名刺を悪用する偽物かもしれないけれど。
するとマサヤという自称医師が私に告げる。
「レントゲンとか撮らないと詳しくはわからないけど、とりあえず怪我の状態を見せてよ」
そう言われて私は内心ニヤリと笑う。
(ほぉ? いい度胸ね。偽物なら簡単に暴けるわよ?)
診察の仕方一つでそんなのすぐにわかる。
警戒しつつも、現役医師を舐めるんじゃないわよとばかりに腕を差し出す。
(さぁ、やってごらんなさいよ。正体を暴いてあげるわ)
よし、夜にもう一話更新。がんばる。




