02-11.
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〈side ナオ〉
「あぁぁ、もう……難しいぃぃ……」
俺は何か間違えたらしい。
ナツミに置いていかれたショックで項垂れていると、一部始終を見ていた久我さんがポツリと呟く。
「ナオさんでも苦戦することがあるんですね」
「クセン?」
「Struggle」
「ああ……。なーに、 Sarcasm?(皮肉?) どうせ俺は、ちょっとピアノが上手い年下男にしか見られてないよ」
「それはまた……大変だ」
そういって久我さんがクスクス笑うのがちょっと悔しい。
「でも久我さん、もしかして、だけど……My feelings resonated with her a little, didn't they?(俺の気持ちが少しだけナツミに響いていたよね?)」
「そうでしょうね。少なくとも One blow(一撃)は入ったと思います」
「That's what I thought!(やっぱりそうか!) ……俺、何を間違えた?」
「間違えたというか、相手を知らなければどうしようもないことかと。僕も全部を知ってるわけではありませんが、夏海さんにも色々あるので」
色々。
あぁもう、本当に悔しいな……。
久我さんは知ってるのに、俺はその『色々』を何一つ知らないなんて。
でもどこまで踏み込んでいいのかがわからないから、探り探りで行くしか……と嘆いていても始まらない。
俺は席を立って財布を取り出す。
「俺も帰る。ナツミのこと追いかける」
「ナオさん、だいぶ酔っていた様子なので、夏海さんのことを――」
「久我さんにお願いされなくてもわかってるよ」
苛立ちを滲ませてそう告げると、久我さんがフフッと楽しげに笑う。
「野暮なことを申し上げましたね。すみません」
「やぼ?」
「あぁ……ダサい、ということです」
「ダサいのは俺だよ。何だっけ……8回怒るみたいな言葉。久我さんにしちゃった」
久我さんは顎に手を当てて考え込み、「あぁ」と笑う。
「八つ当たり、ですか?」
「あぁそれかも。トゲトゲな言い方してごめん。また来る。じゃあね」
トンッとカウンターに代金を置くと、俺は夏海を追いかけるため、急いで店の出口に向かう。
「ナオさん、ちょっと待ってください! 二人とも支払い額が多過ぎます!」
「今度そのぶん飲むから取っといて」
そんなシステムありませんよ、と久我さんの声が聞こえたけど、俺は今、ナツミを追いかけるのに忙しいんだ。
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〈side バンドメンバー〉
居酒屋で解散後、バンドメンバーたちは早々に帰宅……ではなく、密かにナグさんのワゴンに集合していた。
「異常に早い解散だったけど、怪しまれなかったかな?」
ミキが苦笑いしてナグさんに問うと、ナグさんも苦笑いする。
「まぁ問題ないだろう。怪しまれたところで、目的は達成してるし、あとは二人次第だ」
「それにしても……ナツミさんとナオ、いい感じだったね。ナツミさん、ナオ好みの年上だし」
ミキがその話題の口火を切ると、メンバーたちは一様に頷く。
「ナオってあんな顔すんだな……。すっげぇ笑ってて嬉しそうだった。あの二人、うまくいくかな……」
タカノが呟くと、シンタニは「うーん」と首を捻った。
「ナツミさん次第じゃないかな。ナオはどう考えてもド真ん中だよ」
するとミキがニヤリと笑ってシンタニに告げる。
「だよね。『好みだわ』って思わず言っちゃった」
「『ナオの好み』って意味だったんでしょ? ちょっとびっくりしたよ。ナツミさんも変な顔してた」
「いやぁ、失敗失敗。だってあの時ね、5年くらい前に聞いたナオの好みのタイプを思い出したの。私が『どうして年上の人がいいの?』ってナオに聞いたら、『年下の子がかわいく思えるのは普通のことだよ。でも年上のしっかりした感じの人が、俺にだけ甘えてくれて、俺の前でだけ泣いてくれたら最高』って、しみじみとした顔で言ってた」
「ナオって独占欲強いのかな」
「そうかもね」
するとナグさんがボソッと呟く。
「ナオって、ナツミさんと今回が初対面なのかなぁ……」
「え、どうして? そうなんじゃないの? まさかの知り合い!?」
ミキが目を見開いて問うと、ナグさんは顎に手を当てて考え込む。
「どう考えても昨日は偶然会ったんだろうけど……でもいくら好みのタイプっていっても、ナオって基本的に警戒心が強いだろう? 初対面の人にあんなに距離感近くならないと思うんだ。でも妙にナツミさんに近い感じだったんだよな。『日本語おかしかったら恥ずかしいから、秘密で教えて』なんて初めて言われたし……何かある気がする」
「へーえー、何だろう」
「それに、ミキがナツミさんの年齢を『同じくらい』って言った時、ナオが小声で『違うよ』って言ってたんだ」
「わぁ、確かに何か引っかかる」
「ナツミさんはナオのことを知らないみたいだったけど……ナオは知ってるかもな」
するとシンタニがポツリと呟く。
「ナオの好みのタイプって、不特定の誰かじゃなくて……もしかしてナツミさんを指してたりして」
ワゴン内はシーンと静まる。
そして最初に口を開いたのはタカノだ。
「うわっ、何かゾワッとした。えっ!? だって、言ってたのって5年も前だろ!? まさかそんなわけ……」
真っ先に頷いたのはミキだ。
「そうだよ、まさか……。……時に、マサヤは考え込んでどうした?」
「うーん……俺、昨日からずっと気になってるんだけど……どこかでナツミさんを見たことある気がするんだよ」
「それで昨日から変だったんだ。どこか思い出せないの? ナオと一緒にいる時に会ってるとか」
ミキが問うと、マサヤは「うーん」と唸って首を傾げる。
「ナオと一緒にいる時というより……ナツミさん、自然に『皮下出血』とか『炎症』とか言ってたんだよ。医療関係者かもな……うーん」
「マサヤ、惚れるなよ。ナオがお冠だ」
「だから惚れませんって。妻一筋」
「お、惚気た。ごち」
「ごちって何だよ」
ミキとマサヤが笑っていると、ナグさんが遠くを見て微笑む。
「ナオもようやく、かな。だといいな」
「ナグさん、父親のようだね」
ミキの突っ込みに、タカノ・シンタニ・マサヤも笑いながら頷いた。
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これにて第二楽章終了。
明日からは第三楽章に入ります♪
夏海を追いかけたナオ。
二人が急接近の第三楽章をお楽しみに( •◡-)♡




