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漬物石、蜂蜜沼に溺れる。~輝きを失った外科医と、光を見失ったピアニストが奏でる再生のコンチェルト~  作者: 暁 美雲(あかつき・みくも)
第二楽章 ふわふわゆらゆら

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02-11.


*-*-*-*-*-*


〈side ナオ〉



「あぁぁ、もう……難しいぃぃ……」


俺は何か間違えたらしい。

ナツミに置いていかれたショックで項垂れていると、一部始終を見ていた久我さんがポツリと呟く。


「ナオさんでも苦戦することがあるんですね」

「クセン?」

「Struggle」

「ああ……。なーに、 Sarcasm?(皮肉?) どうせ俺は、ちょっとピアノが上手い年下男にしか見られてないよ」

「それはまた……大変だ」


そういって久我さんがクスクス笑うのがちょっと悔しい。


「でも久我さん、もしかして、だけど……My feelings resonated with her a little, didn't they?(俺の気持ちが少しだけナツミに響いていたよね?)」

「そうでしょうね。少なくとも One blow(一撃)は入ったと思います」

「That's what I thought!(やっぱりそうか!) ……俺、何を間違えた?」

「間違えたというか、相手を知らなければどうしようもないことかと。僕も全部を知ってるわけではありませんが、夏海さんにも色々あるので」


色々。

あぁもう、本当に悔しいな……。

久我さんは知ってるのに、俺はその『色々』を何一つ知らないなんて。

でもどこまで踏み込んでいいのかがわからないから、探り探りで行くしか……と嘆いていても始まらない。

俺は席を立って財布を取り出す。


「俺も帰る。ナツミのこと追いかける」

「ナオさん、だいぶ酔っていた様子なので、夏海さんのことを――」

「久我さんにお願いされなくてもわかってるよ」


苛立ちを滲ませてそう告げると、久我さんがフフッと楽しげに笑う。


「野暮なことを申し上げましたね。すみません」

「やぼ?」

「あぁ……ダサい、ということです」

「ダサいのは俺だよ。何だっけ……8回怒るみたいな言葉。久我さんにしちゃった」


久我さんは顎に手を当てて考え込み、「あぁ」と笑う。


「八つ当たり、ですか?」

「あぁそれかも。トゲトゲな言い方してごめん。また来る。じゃあね」


トンッとカウンターに代金を置くと、俺は夏海を追いかけるため、急いで店の出口に向かう。


「ナオさん、ちょっと待ってください! 二人とも支払い額が多過ぎます!」

「今度そのぶん飲むから取っといて」


そんなシステムありませんよ、と久我さんの声が聞こえたけど、俺は今、ナツミを追いかけるのに忙しいんだ。



*-*-*-*-*-*


〈side バンドメンバー〉



居酒屋で解散後、バンドメンバーたちは早々に帰宅……ではなく、密かにナグさんのワゴンに集合していた。


「異常に早い解散だったけど、怪しまれなかったかな?」


ミキが苦笑いしてナグさんに問うと、ナグさんも苦笑いする。


「まぁ問題ないだろう。怪しまれたところで、目的は達成してるし、あとは二人次第だ」

「それにしても……ナツミさんとナオ、いい感じだったね。ナツミさん、ナオ好みの年上だし」


ミキがその話題の口火を切ると、メンバーたちは一様に頷く。


「ナオってあんな顔すんだな……。すっげぇ笑ってて嬉しそうだった。あの二人、うまくいくかな……」


タカノが呟くと、シンタニは「うーん」と首を捻った。


「ナツミさん次第じゃないかな。ナオはどう考えてもド真ん中だよ」


するとミキがニヤリと笑ってシンタニに告げる。


「だよね。『好みだわ』って思わず言っちゃった」

「『ナオの好み』って意味だったんでしょ? ちょっとびっくりしたよ。ナツミさんも変な顔してた」

「いやぁ、失敗失敗。だってあの時ね、5年くらい前に聞いたナオの好みのタイプを思い出したの。私が『どうして年上の人がいいの?』ってナオに聞いたら、『年下の子がかわいく思えるのは普通のことだよ。でも年上のしっかりした感じの人が、俺にだけ甘えてくれて、俺の前でだけ泣いてくれたら最高』って、しみじみとした顔で言ってた」

「ナオって独占欲強いのかな」

「そうかもね」


するとナグさんがボソッと呟く。


「ナオって、ナツミさんと今回が初対面なのかなぁ……」

「え、どうして? そうなんじゃないの? まさかの知り合い!?」


ミキが目を見開いて問うと、ナグさんは顎に手を当てて考え込む。


「どう考えても昨日は偶然会ったんだろうけど……でもいくら好みのタイプっていっても、ナオって基本的に警戒心が強いだろう? 初対面の人にあんなに距離感近くならないと思うんだ。でも妙にナツミさんに近い感じだったんだよな。『日本語おかしかったら恥ずかしいから、秘密で教えて』なんて初めて言われたし……何かある気がする」

「へーえー、何だろう」

「それに、ミキがナツミさんの年齢を『同じくらい』って言った時、ナオが小声で『違うよ』って言ってたんだ」

「わぁ、確かに何か引っかかる」

「ナツミさんはナオのことを知らないみたいだったけど……ナオは知ってるかもな」


するとシンタニがポツリと呟く。


「ナオの好みのタイプって、不特定の誰かじゃなくて……もしかしてナツミさんを指してたりして」


ワゴン内はシーンと静まる。

そして最初に口を開いたのはタカノだ。


「うわっ、何かゾワッとした。えっ!? だって、言ってたのって5年も前だろ!? まさかそんなわけ……」


真っ先に頷いたのはミキだ。


「そうだよ、まさか……。……時に、マサヤは考え込んでどうした?」

「うーん……俺、昨日からずっと気になってるんだけど……どこかでナツミさんを見たことある気がするんだよ」

「それで昨日から変だったんだ。どこか思い出せないの? ナオと一緒にいる時に会ってるとか」


ミキが問うと、マサヤは「うーん」と唸って首を傾げる。


「ナオと一緒にいる時というより……ナツミさん、自然に『皮下出血』とか『炎症』とか言ってたんだよ。医療関係者かもな……うーん」

「マサヤ、惚れるなよ。ナオがお冠だ」

「だから惚れませんって。妻一筋」

「お、惚気(のろけ)た。ごち」

「ごちって何だよ」


ミキとマサヤが笑っていると、ナグさんが遠くを見て微笑む。


「ナオもようやく、かな。だといいな」

「ナグさん、父親のようだね」


ミキの突っ込みに、タカノ・シンタニ・マサヤも笑いながら頷いた。


*-*-*-*-*-*


これにて第二楽章終了。

明日からは第三楽章に入ります♪

夏海を追いかけたナオ。

二人が急接近の第三楽章をお楽しみに( •◡-)♡

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