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インターネット小説家、共同快楽店を利用する

――午前8時12分――


 狭い部屋の中で、一人のフーマン男性が壁に背を預けながら上の空でいた。

彼は三十代前半の容姿に見え、黒髪短髪だ。


 部屋の壁には、窓が一つ取り付けられていて、別の壁際には収納棚が置かれており、その上には薬品類が散乱している。


『チンポーン』


 上の空だった男性は建物内から鳴り響く音を聞くとすぐに立ち上がり、扉を勢いよく開けていく。

そして、建物内の通路を駆けていき、玄関の扉を開ける。


「はい、こちらエッフィル家でございます。何か御用でしょうか?」


 玄関の前には、青い制服で身を包んだ男性が佇んでいた。


「お届け物です」


彼は持っていた封書を上の空だった男性に手渡す。

上の空だった男性は届け物を受け取ると、作り笑顔を浮かべながら頭を深く下げた。


「ありがとうございます。お疲れさまでした」


配達員は言葉を受け止めると、軽く会釈をした後、エッフィル家を後にする。


 上の空だった男性は封書を裏返して確かめながら、元居た部屋に戻っていく。

彼は封書を開き、中を覗いた。


 封書の中には、三枚の紙が入っている。

三枚とも手のひらの半分ほどの大きさの長方形をしていた。

彼は封書の中から、すべて取り出す。

上の空だった男性は、折り畳まれた紙を開いていき、書かれている文字に目を通した。


『指定の場所に行けば、気持ちが良くなる体験を味わうことができます(深夜利用不可)

付属の無料券を使えば、何も準備することなく体験できますので、どうぞお楽しみください。


追伸:体験することができなかったら、謝罪ということで切腹させてください。

良い体験ができましたら、今取り組んでいる作業に全力を注いでいただければと思います』


 上の空だった男性は怪訝な表情を浮かべながら別の紙片を眺める。

表面には、『慰安癒館 無料利用券』と書かれていた。

また、彼は別のもう一枚の紙に目を向ける。

紙にはシャリッグ地方を上空から見た地図が書かれていて、エッフィル家の場所と、『目的地 慰安癒館』という文字と丸い囲みが地図の端に描かれていた。


 上の空だった男性は小さなため息をつくと、持っていた紙片を両手で潰していく。

くしゃくしゃという軽い音を鳴らしながら、紙片は丸い形状に姿を変える。

そして、彼は部屋の隅に置かれたゴミ箱に向けて、持っていた丸い物を放り投げようとした。

しかし、上の空だった男性は数秒ほどその姿勢を保ち続け、徐々に上げていた腕を下ろしていく。

それから、彼は丸まった紙片をもう一度元の形状に戻そうと試みる。

そして、不規則な折り目が付いた長方形の紙片を、再び凝視し続けた。




――翌日、午前9時21分――


 上の空だった男性はエッフィル家の玄関に鍵をかけ、日中の町中を進んでいた。

彼は風通しがとても良すぎる腰巻きと胸巻きを身に着けている。

また、肘から手の半分ほどの長さをした経口補水液の容器が十個入れられるほどの大きさの鞄を背負っていた。

そして、彼は町から遠くの山々に続く街道に沿って歩き出す。




――午前10時03分――


 彼が移動し続けると、いつの間にか周囲の景色に緑色が多くなっている。

また、上の空だった男性の前方には、木造の建物が一戸建てられていて、玄関の上部壁には、『慰安癒館』という店名が書かれた装飾が施されていた。


 上の空だった男性は目的地を見つけると、しばらく建物の入り口前で立ち往生し続ける。

だけど、大きく深呼吸をした後、恐る恐る建物の中に足を踏み入れていく。


 彼が店内に入ると、玄関口で受付と思われるフーマンの男性が上の空だった男性に声を掛ける。


「いらっしゃいませ、奥の席へどうぞ」

「え、あ、はい」


受付の男性に促され、上の空だった男性は店の奥に足を進めた。


 店の奥には、椅子が何個も並べられている空間が広がっている。

また、他の来店者と思われるフーマンの男性が二人、距離を離して腰を下ろしてくつろいでいた。


 上の空だった男性は、他の来店者にならい、他の来店者から距離を離して椅子に着く。


 そこに、店員と思われるフーマンの男性が大きい冊子を携えて上の空だった男性に近づいていった。

そして、冊子を手渡しながら笑みを浮かべる。


「いらっしゃいませ。ご注文は決まっておられますでしょうか? まだでしたら、こちらを参考にどうぞ」


上の空だった男性は固い笑みを返し、店員男性から冊子を受け取った。

そして、上の空だった男性が冊子を開くと、中のページにはフーマンだけでなく様々な種族の女性の写し絵が描かれている。

また、それぞれの写し絵の傍に、数字が並んでいた。

上の空だった男性が頁をめくると、同じような内容が続いている。


 彼の様子を眺めていた店員男性がにっこり笑いながら口を開いた。


「その女性、ナデシコエノレフという種族となっております」

「えーっと、ナデシコエノレフ?」

「本大陸の北端や南端出身で、非常に希少な種族なので、オススメですよ。体形はフーマンと殆ど変わらず魅力的な物を持ちながらも、内面はとてもおしとやかです。外見も、内面を反映しているかのように、薄橙色うすだいだいいろをしておりまして、まるでフーマンの様な姿に親近感を持つはずです。素晴らしい女性ということなので、料金の方が追加されてしまいますが、その分楽しめることを保証しますよ」


男性店員はやや興奮気味に言葉を並べていく。

上の空だった男性は若干戸惑いの様子を見せると、頁を戻していった。

そして、三角形状の耳と、薄毛で覆われた尻尾が腰から伸びている女性の写し絵に目を止める。


「えー、えーっと、この中から選べばよろしいのでしょうか?」

「もしかして、お客様はこういうたぐいのお店は初めてでしょうか?」

「あ、はい……」

「楽しいひと時を共にする相手を、そちらの女性たちの中から選んでください」

「は、はぁ……それなら、このキャトの女性で」

「……かしこまりました。総額、18,000モネーターになります」


上の空だった男性は、目を見開きながら言葉を詰まらせた。

しかし、しばらくした後、慌てて鞄の中から長方形の紙片を取り出す。


「あの、これって、使えるのでしょうか?」


店員男性は彼の持っている紙片を凝視する。


「お客様、無料利用券をお持ちでしたか。頂戴してもよろしいですか?」

「あ、はい」


上の空だった男性は小さく頷くと、持っていた無料券を男性店員に手渡す。

男性店員は無料券を受け取ると同時に、店の奥に姿を消していく。


 数十秒ほどすると、男性店員は、物が数個載せられた盆を持って上の空だった男性の元に近づいた。


「お客様、準備ができましたら番号札の番号をお呼びしますので、それまで少々お待ちください。それと、こちらの薬はセロトニンで、長くお楽しみいただけるようになりますので、よかったらどうぞ」


上の空だった男性は盆から、『39』と描かれた番号札を受け取る。

それから、錠剤をじっと見つめた後、指でつまみ、もう一度鋭く睨みつける。

彼がしばらく沈黙した後、そのまま口の中に運んでいく。

そして、水が入った食器を手に取り、口の中に中身を流し込んでいった。

男性店員は彼の服薬を見届けると、笑みを浮かべながら小さく会釈えしゃくをして再び店奥に姿を消していく。


 数十秒後、男性店員が大きな声で数字を口に出す。

すると、上の空だった男性以外の乗客が席を立ち、男性店員に促されて店奥に消えていった。

また、新しい来客の姿も見え、広場の椅子に座る人が二人増える。


――午前10時22分――


 上の空だった男性が深呼吸をして静寂を保っている所に、男性店員が恒例の数字読み上げが始まった。


「39番のお客様、準備ができましたので奥に進んでください」


上の空だった男性はもう一度、手に持っている番号札を確認し終えたら、席を立つ。

そして、店奥に立っている男性店員に向かって歩みを進める。

男性店員は通路奥にある扉に向けて手で移動を促す。


「あちらの扉から外に出てください」


上の空だった男性は不安そうにしながら小さく頭を下げ、その場を後にして扉に向かって歩き出す。

それから、扉を開けると、彼の前方にはキャトの女性が一名立っていた。


 キャトの女性は身長は165センチあるかないか、容姿はフーマンの外見を基準にしたら二十代前半に見えるけど、実際はもう少し長い年月を過ごしている雰囲気が漂っている。

また、胸部を隠している胸巻きと腰回りの露出を隠している腰巻きを着けていて、それ以外の肌はすべて開放的だ。

そして、胸巻きの中には大きくて弾力がありそうな球体があり、内側から反発して腰巻きの生地を伸ばしている。

薄黄色の頭髪が肩甲骨付近まで伸びていて、頭側部にはキャトの特徴的な三角形状の動物の耳が生えていて、とても愛らしい。

耳の内側には薄い毛で覆われていて、耳の穴は周囲の音を敏感に聞き取りそうだ。

腰下部分からも毛で覆われた手首ほどの太さの尻尾が膝裏まで伸びている。

また、彼女の眼は琥珀色をしていて、一本の縦線が刻まれていた。


 キャトの女性は軽く手を上げながら笑みを上の空だった男性に向ける。


「こんにちは、ご指名していただきました、アバロニカです」

「あ、こんにちは」


上の空だった男性は軽くお辞儀をした。

アバロニカは背後に広がる大自然の風景を腕で指し示す。


「さ、お兄さん、一緒に行こう?」

「え、と?」


上の空だった男性は呆けた顔で首をかしげる。

アバロニカは彼の腕を掴み、緑の風景に引き込んだ。


「ほらほら、出発ー!」

「あぁ、はい」


上の空だった男性はアバロニカが進む方向に身を任せた。

アバロニカは所々草で覆われた土の歩道を歩きながら言う。


「お兄さん、緊張してるのかな? あ、お兄さん、もしよかったら、お名前を聞いてもいいですか?」

「あ、はい。えーっと、俺は、俺の名前は、ドゥッテイです。ドゥッテイ・ソロウです」

「教えてくれてありがとう。ドゥッテイさん」


アバロニカはドゥッテイの腕にしがみつく様に抱きつきながら歩く。

ドゥッテイは彼女を困惑した様子で観察した。


「えっと、どこに向かってるんですか?」

「んー? それは、わたしたちが安心できる場所だよ」


アバロニカは尻尾をくねらせながら笑みを浮かべる。


「もしかして、初めてのご利用ですか?」

「あ、はい。そうなんですよ」


ドゥッテイたちは緑の木々で覆われた空間をただひたすらに進み続ける。


「木々で覆われているからか、涼しいですね」

「でしょー? 直射日光は少ないし、近くに川が流れてるから冷たい風も運ばれてくるし。あ、川っていっても、小さい川だから水害も無いし安全だよ。あと、『慰安癒館』周辺に小生物に対して居心地が悪くなる結界を張っているから、わたしたちみたいな存在しか居ないから気を緩めても大丈夫だからね」

「へぇー、そうなんですね」


彼は彼女の説明を受けると、心なしか耳を立てながらキョロキョロと大自然の様子を観察した。

歩道脇の木々の中に、所々に木造の小屋が建てられている。

また、小屋の壁には遠目からでも確認できるほどの数字が描かれていた。


「小さいけど、川のせせらぎが聞こえますね。とても落ち着きます」

「いいところでしょー? 空気も美味しいから、いっぱい深呼吸もしてくださいね」


ドゥッテイは彼女に促されると、大きく深呼吸を繰り返す。


「大地の香りが身体に染み渡りますね。体の中から良くないものが消えていく感覚があります」

「ドゥッテイさん、良くないものを体にため込んでるんですか?」


アバロニカは上目遣いで、ドゥッテイの顔を覗き込むように見上げた。

ドゥッテイは一瞬言葉を詰まらせ、しばらく大自然の声に順番を譲る。


「……アバロニカさんは、インターネット――マジックインターネットワークって知っていますか?」

「うんっ。休憩時間とか暇だから、よく利用してるよ」

「俺はインターネットで、文章を連ねて大きな物語を作った物を公開しているんですけど、他の公開者と比べてなかなかインターネット利用者からの反応が無く、自分の活動に自信が無くなってて……」

「えーっ、すごいじゃないですか! それ、わたしも読めたりできるんですか?」

「まぁ、はい。でも、誰からも興味を持たれてないということは、そういう物語なので……」


アバロニカは頭を掻きながら苦笑いを浮かべた。


「そっかそっか」


ドゥッテイはどこか気まずそうに沈黙を再開させる。

アバロニカは彼の様子を見て、慌てて言う。


「あぁ、落ち込まないで。あー、うん、わたしに任せて」


彼女は腕を組みながら大きく頷く。




――午前10時38分――


 アバロニカとドゥッテイがしばらく丁寧に歩道に沿って歩き続けていく。

そして、彼女は歩道から外れて歩き出し、『39』と書かれた壁の小屋に向かって進む。

それから、アバロニカはドゥッテイに手間をかけさせない心意気を見せるかの如く、率先して玄関口を開けた。


「ささ、ドゥッテイさん、こちらの中へどうぞ」

「あっ、はい」


ドゥッテイは彼女に言われるまま、アバロニカと同じ進路を辿る。

そして、玄関を通ると、アバロニカも一緒に室内に入ってきて、扉の鍵を閉めた。

ドゥッテイは背後を振り向き、扉を凝視する。


「えっ」


アバロニカは微笑みながら言葉を漏らす。


「あぁ、他の人が間違って入ってこないようにね。そんなことが起きないように徹底してるけど、万が一があったら困るからね」

「なるほど」


 部屋は、部屋の中心から四方八方に前転を一回できる広さがあった。

天井の隅に透明な硝子が張られていて、陽光がそこから入り室内を照らしている。

部屋の隅にはタンスが一個置かれていて、その上に小物が散乱していた。

小屋の中心部には、一人用の椅子が二個設置されていて、座ったまま相手に接触できない程の間隔が空けられている。

また、会話を促すかのように互いに向き合うように並べられていた。


 アバロニカは中央の椅子に片腕を伸ばしながらほほ笑む。


「ドゥッテイさん、椅子におかけになってください」

「あ、はい。えっと、どっちの椅子に?」

「どちらでも大丈夫だよ」


ドゥッテイは彼女の言葉に従い、椅子に腰を下ろす。

一方、アバロニカはタンスの棚からペンダントを二つ取り出し、それを持ってドゥッテイのそばに寄る。


「はい、これはドゥッテイさんの分です。首にかけてね」


ドゥッテイは彼女から渡されたペンダントを見つめた。

アバロニカはドゥッテイと反対側の椅子に座ると、すぐにペンダントを身に着ける。

ドゥッテイは彼女と同じ丸い装飾が付いたペンダントを恐る恐る首に通していく。


「これは、何ですか?」

「んー? ソウゾウ魔法が使えるようになるペンダントだよ。一緒に美味しいチョッコバママを作ろう」

「え、魔法ですか? 俺、今まで使ったことないですよ」

「それじゃあ、今回が初めての経験だね」


アバロニカはにっこりと笑みを浮かべた。

ドゥッテイは苦笑を彼女に返す。


「魔法を使わないといけないんですか? 俺、やり方分からないですよ?」

「大丈夫大丈夫、とーっても簡単だから。ペンダントを身に着けたら、意識を集中させて頭の中で生み出したい物を思い浮かべるの。ドゥッテイさんは、バママをお願いね」

「え、あのバママですか? 食べ物の?」

「うん。わたしはチョッコロネを生み出すね」


 アバロニカはニコッと笑った後、前方の一点を無表情で見つめる。

すると、何もなかった宙に、腕半分ないくらいの大きさをした巻き貝に似た何かが出現した。

薄茶色の巻き貝の後ろで、アバロニカがドゥッテイに微笑む。


「ふぅ、チョッコロネ無事に作成完了! わたしの方は準備完了! ドゥッテイさんは大丈夫そう?」

「え、あ」


 ドゥッテイは戸惑いの様子を見せた後、表情を無にしながら前方のどこかを凝視する。

しばらく静寂が小屋の中を支配した後、ドゥッテイの目の前に、固くはなさそうな棒状の物体が出現した。

白い棒状の物体は、手首から指先までの長さほどの全長をしている。


 ドゥッテイは自分で作り上げたバママを不思議そうに見つめた。


「うゎっ、本当に作れた」

「おめでとう! 無事にソウゾウ魔法使えたね、お疲れさま。でもでも、気を緩めたらバママが消失しちゃうから、意識を集中し続けてね! 油断しないように!」

「あ、う、分かりました」


 チョッコロネが宙でゆっくりと回転していき、縦向きから横向きに変わっていく。

すると、チョッコロネの底がドゥッテイの方に向けられる。

チョッコロネの底には穴が空けられていた。


 アバロニカは笑みを浮かべながら告げる。


「ふぅ。それじゃ、ドゥッテイさん、チョッコバママ作りを始めよう? バママを穴に入れてね」

「えっ、えっ!?」

「んーっと、バママを作った時みたいに、意識を集中させて、バママが動くように念じてみて。そうすればきっと動かすことができるから」

「は、はぁ……」


ドゥッテイは自信が無さそうに答えると、表情を消してバママを見つめる。

すると、縦に浮いていたバママが、次第に横向きに倒れていく。


アバロニカはバママの向きが変わる様子を微笑ましく見つめた。


「うんうん、上手上手。そのまま、バママをチョッコロネの穴に入れてみて」

「や、やってみます」


ドゥッテイは小さく頷くと、再び真剣な表情を作っていく。

そして、横向きのバママがゆったりした速度でチョッコロネに接近していった。

それから、チョッコロネの穴の前に移動し終えると、ドゥッテイは不安そうに言う。


「えと、えっと、チョッコロネの穴に入れればいいんですね?」

「うん。来て」


アバロニカは口角を上げながら頷く。


『ニュッグ……ニュッグ』


ドゥッテイが彼女の許諾を確認すると、バママは薄茶色の洞窟の中に身を潜めていった。

それと同時に、アバロニカは手を口の下に当てながら言葉を漏らす。


「んぁっ」

「えっ」

「ああ、気にしないでね」


アバロニカは照れ笑いを浮かべた。

ドゥッテイは一瞬戸惑うけど、すぐにバママをチョッコロネに入れる作業に戻る。


「なんか、体全体が柔らかいものに包まれてる感覚がします」

「んぁっ、ソウゾウ魔法で作り上げたものは、作成者の分身。感覚が通じているんだよ」

「な、なるほど……。あ、あの、バママが突き当りまで入りましたけど、この後は?」

「そのあとは、バママを後退させて、もう一度奥まで突いてね。あ、バママが穴から抜けないように気を付けてね」

「やってみます」


『ニュップ……ニュップ』


本体のほとんどがチョッコロネに飲み込まれたバママが、再び元気そうな姿を見せた。

すると、アバロニカがそれに反応する。


「んぁんっ」


ドゥッテイは彼女の説明通り、引いたバママをもう一度チョッコロネの奥に突いていく。

一方、アバロニカはこれに呼応するかのように言葉をこぼす。


「あぁんっ」

「あ、あの、大丈夫ですか? さっきから辛そうな声が……」

「ああ、大丈夫だから気にしないで。気持ちよくてつい声が出ちゃうの」


アバロニカは照れ笑いを浮かべながら頭を撫でた。


 ドゥッテイがバママをチョッコロネの中で出し入れをしていると、バママの白色だった表面が、徐々に茶色く染まっていく。


『ニュッポ……ニュッポ』


「あ、あれ、バママの色が変わってる」

「んぁっ、えへへ、チョッコロネの内側に、チョッコが分泌し始めたね、んんっ」


彼女は鳴き声を織り交ぜながら言葉を告げる。

ドゥッテイは大きく息を飲みこむと、バママの操作に意識を集中させた。


「あれ、何だかチョッコロネの中がヌルヌルしているような。バママを移動させ易いです」

「うんぅん。チョッコのおかげで、摩擦が減ったんだねぇぁぁあっ」


ドゥッテイがしばらくバママを出し入れを続けると、彼の緩んだ表情が徐々に硬くなっていく。


「あ、あの、アバロニカさんっ。な、なんだかバママから違和感を感じます」

「んぁ? 痛い?」

「うぅ、どちらかというと、快感寄りの感覚です」

「あっ、待って、ダメダメダメ、止まって! バママの出し入れ止めて! あ、バママを消さないようにね!」


アバロニカは目を見開き、慌てて訴えた。

ドゥッテイは彼女の様子を見て、慎重に頷いて答える。


「え、あ、はい。やってみます」

「そうそう。それで、ゆーっくり、チョッコロネから全部抜いてみて」


ドゥッテイはもう一度頷き、バママを彼女に言われた通り繊細なものを扱うかのように引き抜いた。

バママの表面は、若干粘り気のある茶色い濁り液で覆われている。


 アバロニカは優しいほほえみを彼に向けた。


「今度は、バママを縦にしよっか。えーっと、最初に作った時の向きだよ」

「え、あぁ、はい……」


ドゥッテイは呆けた顔を作りながら、バママを操作し、彼女の指示に従いバママをゆっくりと立てる。

アバロニカはバママの様子を見届けると、微笑みながら呟く。


「うんうん、上手上手。それじゃ、そのままの向きをずっと維持しててね。我慢してね?」

「え、痛かったりします?」


ドゥッテイは目を見開いて不安そうに聞いた。

しかし、アバロニカは穏やかな表情で首をゆっくりと左右に振る。


「全然痛くないよ」


彼女はチョッコロネを軽やかに宙で移動させ、ドゥッテイのバママの上に持っていく。

そして、チョッコロネの底穴が下になるように向きを調整していった。


「それじゃ、チョッコバママ作成の続き、しよっか。バママが消えないようにしっかり意識を保っててね?」

「えっ、えっ」


アバロニカは優しく微笑むと、チョッコロネをゆっくり下げていく。


『ニュプププ』


チョッコロネはバママの先端を飲み込んでいき、自身の中に取り込んでいった。

ドゥッテイは両手で自身の身体を抑え、一瞬身震いをする。


「あぅぁっ」

「大丈夫?」

「なんだか、暖かい物に包まれてる心地よさと、漏らしてはいけない何かが溢れる感覚に襲われて……」


アバロニカは切羽詰まった声音で話す。


「だめっ、だめ! もうちょっと、もう少しだけ我慢してほしい」

「が、頑張ってみます。……我慢って、どうすればいいんですか?」


ドゥッテイは真顔で質問した。

アバロニカは無表情でしばらく黙り込んだ後、笑みを浮かべながら言う。


「バママが消えないように、バママに意識を集中させてみて」

「はぁ」


アバロニカはドゥッテイのはっきりしていない様子を心配そうに見つめながら、チョッコロネを上に持ち上げていく。


『ヌォッポ』


ドゥッテイは体を硬直させる。


「あぅぁ」


アバロニカは彼の態度を見て、笑みを作りながら再びチョッコロネを下ろしていく。

そして、もう一度上に上げて、更にまた下げていき、バママを茶色く染めるのを続行した。


『パチュンパチュン』


「どうですか、ドゥッテイさん」

「うぅぅ、刺激が」


アバロニカは何かに耐え続けている彼の表情を見て、妖艶ようえん且優しい笑みを浮かべる。

さらに、チョッコロネを上下に移動させる速度を徐々に速めていき、彼女の献身が速度に表れていく。


『クチュックチュッ』


「気持ちいいですか?」

「たぶん、気持ちいいです」


『ニュッチュニュッチュ』


「多分って?」

「初めての感覚が身体中から溢れています」


『ニュップニュップ』


「それが、気持ちいいってことだよ」

「あぁぁっ、アバロニカさん、身体が変です。チョッコロネ止めてくれませんか?」


『パンパンパン』


アバロニカは尻尾をピンと立てて答える。


「あぁぁんっ、だめ、わたしも気持ちいいから、にゃっ、このまま続けさせてっ」

「このまま続けたら、バママを維持できなさそうです」


『パンッパンッパンッ』


アバロニカは丸めた拳を口元に当てながら呼吸を荒くさせた。


「もう少し、うぅんぁっ、もう少しでわたしも準備完了しそうっ、みゃっ、一緒に、一緒に!」

「一緒に!? ど、どうすれば!?」

「あんっ、あぁっ! 今、今だよ! ドゥッテイさん、我慢しないで! あぁぁっ! 本能に任せてっ!」

「えっ、くぅっ、うぇ!? うぅぅっ」


ドゥッテイは苦渋の表情を続ける。

しかし、すぐに何かから解放された様子を見せた。

アバロニカも背中を少し反らせながら、恍惚の表情を浮かべている。

彼女の尻尾も連動して天に向かって嬉しさを主張していた。


 一方、バママとチョッコロネは二人が解き放たれた様子を見せると同時に、形状を変化させていく。

そして、宙にはバママに黒茶色の固い皮が付着している物が浮かんでいた。

また、バママの方端には、木製の棒が取っ手のように突き刺さっている。


 アバロニカは黒茶色のバママの取っ手棒を握ると、ドゥッテイに近づいていく。


「ドゥッテイさん、お疲れさまでした。はい、これ、わたしとドゥッテイさんが一緒に作ったチョッコバママだよ」


彼女は満面の笑みを浮かべながら、ドゥッテイに渡そうとチョッコバママを前に差し出す。

ドゥッテイは呆けた顔を目の間のチョッコバママに向ける。


「これがチョッコバママ……」

「うん。今、食べる?」


ドゥッテイはしばらく呆然とし、チョッコバママを受け取ると首をゆっくり左右に振った。


「いえ、後で食べます」

「そっか。じゃあ、わたしたちのチョッコバママ、あとでじっくり味わってね」


ドゥッテイは小さく頷く。

それと同時に、彼はアバロニカの腰巻きの、粘質性がある何かで濡れている部分を凝視する。


「あ、あれ、アバロニカさん、腰巻きが……」

「ああ、これ? チョッコロネをいっぱい動かしたから、汗かいちゃった」


アバロニカはにっこりと笑うと、ドゥッテイの首からペンダントを外していく。

そして、自分の分のと一緒にペンダントをタンスの上に置いた。

それから入り口に軽やかに移動し終えると、扉の鍵を外す。


「ささ、長居しちゃうと怒られちゃうよ。ドゥッテイさん、帰りましょう」

「あ、ああ。はい」


ドゥッテイは小さく頷くと、彼女に促されて小屋を後にした。




――午前11時31分――


 ドゥッテイはアバロニカに森の中を案内され、自然あふれる地域と平坦な大地の境目まで移動した。


 アバロニカは脱力気味のドゥッテイに優しく微笑む。


「それじゃ、ドゥッテイさん、ありがとうございました」

「ああ、はい、こちらこそありがとうございました。いい経験になりました」

「わたしも良い経験ができてよかったよ。できたら、またわたしに会いに来てほしいな。また一緒にチョッコバママ作ろう?」


彼女は尻尾をくねらせながら、柔らかい表情を作り出す。

ドゥッテイは頭を掻きながら答える。


「あー、まぁ、考えておきます」

「本当に? 約束だよ!」

「はい。それでは、失礼します」

「うん、またね!」


アバロニカは深くお辞儀をした後、彼に向けて手を横に小さく振り続けた。

ドゥッテイも彼女に軽くお辞儀をした後、その場を後にする。




――午前11時37分――


 ドゥッテイがアバロニカの姿が見えなくなるまで歩いた時。

彼は手に持っていたチョッコバママを不思議そうに見つめる。

そして、口を大きく開いたら、中にチョッコバママの先端を突っ込んだ。

それから小さく口を動かし続けると、彼の口角が少し上がっていく。

ドゥッテイは名残惜しそうに背後を振り向く。

しかし、その視線の先には緑が生い茂る景色だけしか残っていない。

彼は正面を向き直すと、どこか穏やかな表情を浮かべ、またかすかに好奇心や意欲を感じ取れる顔を作り出した。

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