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死神さんと学校

死神に出くわし、執拗な追走の後、車に轢かれかけ、挙句には死神に恋慕の感情を向けられる。

高校生福良幸也にとって、昨日八月三十一日ほどの荒々しく不運な一日はなかった。

だが、この数奇な一日はこれから巻き起こる愉快で、不穏で、奇妙な日常の始まりに過ぎなかった。

そして、そんな日常が巻き起こされることを幸也は知るはずもなかった。

東京二十三区内にある日本家屋の一軒家に幸也は住んでいる。両親は共に実業家で海外を転々としているので、幸也は莫大な資金を有しながら一人暮らしをしている。

だが、今日ばかりはどういう訳か朝早くにもかかわらず一人ではなかった。

「おい」

朝食を食べ終えて、学校への身支度を整えている幸也が、怪訝な声で呼びかける。

「如何しましたか?ご主人様」

呼び止められたのは、華奢でメイド服とドス黒いオーラを纏った少女だった。そう、それはなぜかメイド服を着ている件の死神であった。

幸也は寝起き故にこれは悪い夢だと思い込みたかったようだが、それは悪夢のような現実だった。

「色々聞きたいんだが、まず⋯なぜお前がここに居るんだ?」

「愛する人のためなら、私はどこへでも行けます。行きます」

「来るな。理由になってねえんじゃボケ。というか、ちゃっちゃとどっかいかんかい」

「いいんですか?」

「いいって⋯なにが?」

「私は幸也さんのあんなことやこんなことを知ってますよ?」

「あ?あんなことやこんなことって⋯何知ってるってんだよ?」

「福良幸也。十五歳。高校一年生。誕生日三月二十日。身長百六十八センチ。体重五十五キロ。AB型。生まれも育ちも港区高輪。相棒ポケモンはラプラス。特技は運が絡むこと全般と料理と楽器全般。苦手事項は目立ったものは無いが初対面とのコミュニケーションには若干難あり。好きな物はデジタルアナログ全般のゲームと漫画、甘いもの。苦手なものは虫と雑踏と私。仕事はまじめにそつなくこなすが今一つ情熱のない男。コーヒーカップは持ち手に薬指をかける独特の持ち方をするクセがある」

「怖い」

「好きなベイブレードはユグドラシルで、スタミナタイプを好む傾向に⋯」

「分かった!もう分かった、もういい⋯。え?どこ情報?俺っていつの間にかウィキペディア作られてた?」

「いやぁ、私の情報収集能力を発揮したまでですよ。まぁ死神ですからね。人間にできないことが出来るということで」

「なるほど、人智を超えた存在に執着されるとこんなにも立場が不利になるのか。最悪だ」

「そして、これだけの情報量を有す私ですから、幸也さんの恥ずかしいことをバラすことなど造作もない訳ですよ」

「なんて害悪な⋯。まあ、百歩譲って来たとして、その格好はなんだ?」

「日本の男子高校生はメイドが好きだと聞いたので⋯」

「日本家屋とのミスマッチハンパねえよ」

「和装が良かったですか旦那様」

「そうは言ってねえよ。そもそもメイド趣味じゃねえよ」

「幼馴染とかの方が良かった⋯かな?」

「だからそうは言ってねえって言ってんだろ。かな?じゃねえよ。ならねえよ?既成事実ねえんだから」

「じゃあ年上の方g」

「お前じゃ無理だロリっ子が。あと当てずっぽうで人の女の趣味当てにいこうとすんな。あぁ、お前に無駄な時間を割いたせいで俺のゆったりする時間がもうねえな。クソが」

幸也は淡々とボケを処理すると、カバンを持って充電器からスマホを外す。

「じゃあ、この家に居ることを百歩⋯いや、一億歩譲って一旦許しといてやる。ただ、絶対にこの家から出るなよ?外で問題起こしたらろくな事にならんからな。絶対だぞ」

「分かってますよォ〜心配性だなぁ〜」

「俺の心配性を主張するならまず信頼を得てから言え」

そうして幸也は家を出発する。

しかし、その時の死神の表情は間違いなく不敵な笑みであった。


「よ、ユッキー久しぶり〜」

「ああ、久しぶりだな、類」

教室に着いた幸也に真っ先に話しかけた男子生徒がいた。彼の名は明石類(あかしるい)

幸也の幼なじみで、小学校の頃から鼻持ちならないやつだった幸也に積極的に話しかけて仲良くなる程のコミュ強。そして、恐らく彼のラプラスに最も泣かされた男でもあるだろう。

しかし、彼にとってはそれも思い出。今なお、幸也の良き友として日常を過ごしている。

実際幸也も満更でもなく、特に取っ付きにくい雰囲気と態度をしている彼は自分にフランクに話しかけてくれる、ある意味気心の知れた相手は希少だったのだ。

「気心の知れた相手なら、あたしが居るでしょ?幸也さん」

後ろから突然聞こえた聞きたくない声。

気づけば幸也の背後から漂ったのは、既視感のある邪悪なドス黒いオーラ。死神がこの学校の制服を着てそこに佇んでいた。

「おいてめぇ!家出てくんなって言っだだろぉ!」

「なんですか?幸也さん。クラスメイトに向かってぇ⋯」

「何言ってんだおめぇは?てめぇなんかとクラスメイトになった覚えなんて一度も⋯」

その時だった。

「へぇ、ユッキーって御ヶ西(みがにし)さんと仲良いんだね〜」

類が意外そうに話しかける。

「みが⋯なんて?」

幸也が慌てて聞き返す。

「いや、御ヶ西さんだよ。他人に興味無いからって、ちゃんとクラスメイトの名前くらい⋯ん、あれ?なんで仲良いのに名前知らないの?ユッキー」

類は混乱してしまい、そのまま考え込んでしまった。

「ふっふっふ、幸也さん。私はこのクラスの一員なんですよ?ここに居ることに何も問題は無いでしょう?」

「どういう勝手か知らんが、お前がこのクラスの一員だったなんて、そんなデタラメな記憶は無い!」

「ふっふっふ⋯あれ?なんでだろう」

突然死神が動揺し出す。

「おっかしいなぁ。あのクラスメイトには効いたからちゃんと発動はしてるはずなのに⋯」

死神は手元から例えるならテレビのリモコンに似た何かを取り出し様子を確認し始める。

「なぁ⋯おい?発動って⋯なにがだ?」

「決まってるじゃないですか!精神操作ですよ!」

「そっかぁ、精神操作かぁ⋯は?」

「あっ⋯」

死神は自分がうっかり口を滑らせてしまったことに気がつくと、しまったとばかりに口元を手で覆う。

「お前⋯ほんまお前⋯」

「⋯っ!そ、そもそも!幸也さんに精神操作が発動しないのがおかしいんですよぉ!じゃなきゃ、私の思い通りだったのにぃ!」

「しばくぞ。まず、なんでそんな物騒なことできんの?お前」

「そりゃあ、私は死神ですからね。いとも容易く行えますよ。えげつない行為の一つや二つくらい。それより!なんで幸也さんには精神操作が効かないんですか?見たところ、能力に異常は起きてないんで、間違いなく幸也さんがおかしいです!」

「んな事言われたってなぁ⋯。俺も知らないし⋯そもそも人生で精神操作を受けたことなんぞなかったからなぁ⋯」

「強者の余裕ウザいぃ⋯」

「ま、気にすんなよ死神。本当に怖いのはこれからだぞ?」

左手をぽんと死神の肩に置くと、幸也は邪悪なほほ笑みを浮かべた。そして右手は力強く、何か強い感情を持って拳を握っている。

「歯ァ食いしばれゴラァ!」

感情の籠った渾身のストレートが死神の顔面にヒットする。

「ぎゃあああああ!!!」

断末魔をあげながら死神は伸される。


「⋯おーい、大丈夫か?」

「もう!女の子殴るなんて最低だよ福良くん!」

「DV系だったんだ⋯」

「法廷で会おう」

「なんで俺が責められてんだ!」

死神が再び目を開けると、眼前には自分を見つめる人と女子からのヘイトを一身に受ける幸也の姿があった。

「あっ、おい!目ぇ覚ましたぞ!」

一人の男子生徒が声をあげる。すると、周りの生徒が彼女の周りに集まる。

「ねえ、殴られたところ大丈夫?」

「他のところ打ったりしてない?」

「安心してね。DVカス男は法が裁くから」

「ちげえっていってんだろ!お前ら、こいつがお前らを精神操作してたんたぞ!分かってんのか?」

幸也は常に弁明を続ける。

「え?精神操作?福良くん、そういうキャラだっけ?」

「男の人っていつもそうですよね!私たちのことなんだと思ってるんですか?」

「はいはい、話は法廷で聞くから」

「さっきから法法うるせえんだよ!フクロウかてめえわ!」

そして、再び女子と幸也の言い争いが始まる。

その時だった。

「ご、ごめんなさい!私が⋯私が、あなた達を精神操作しようとしたのは事実なんです!」

死神が幸也の誤解を払うためか、はたまた罪悪感からか自らの罪を告白した。

「なにィィィッ!」

「幸也の戯言は事実だったのか!」

「じゃあ刑務所送りにできないじゃない!」

教室はより一層ざわめく。

「でも⋯でも、私は⋯幸也さんとクラスメイトになりたくて⋯それで⋯既成事実が欲しくて⋯あなた達に酷いことをしてしまったのは分かってるでも、それでも⋯私は⋯ずっとこの場所に⋯」

「馬鹿野郎!」

「!」

声をあげたのは類だった。

「俺達、一瞬でもクラスメイトだったじゃねえか!だったら、もう友達だし⋯クラスメイトじゃないのか?」

類が突然熱弁を振るう。

「そうだ!俺達はもうクラスメイトだ!」

「間違いないよ!」

「ふざけんな類!何言ってるか分かってんのか!俺の学園生活にこいつが居続けるんだぞ!馬鹿野郎はてめぇだバーカ!」

「空気読めよ福良てめぇ!法が許さねえぞ!」

「さっきから法の守備範囲過信しすぎだろ!」

「福良の言う通りだ。私も反対。というかこの話題は議論にすらならん」

クラスの雰囲気が幸也を除いて一致団結したその時横槍を入れる人物がもう一人。

「あ、あなたは⋯鎌倉(かまくら)先生!」

そう、その人物はこのクラスの担任鎌倉義経。日本史担当。御歳五十八歳の学年主任。

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