太陽を持った闇
月明かりに照らされて、窓辺に座り、紫煙を吹かしながら考える。
自分の産まれた意味はなんだろうと。
サンレシアン王国
古くは魔法の力を持って栄えた歴史を持つ国。
曰くつきの歴史を持ちながら今は王族も魔法の力は持たないが数百余年繁栄してきた国。
人々は穏やかで賑やか。数年に一度の不作時期を除けば気候も安定しており作物豊かな国。
レシア歴515年4の月5日
執務中の国王シアンの元に一報が齎された。
王妃マリア、王女の無事の出産
誰もが吉報だと喜びすぐに民にも知らせる準備が始まろうとしていた。
シアンもすぐに王妃の私室へと駆けつけ王妃の無事と出産を喜んだ。
王女の2歳上の兄王子も吉報に駆けつけていた。
しかしすぐに喜びは絶望へと変わる。産湯を終えて王妃の手元に戻った王女は産まれながらでもはっきりした言い伝えの禁忌の黄金を持ち産まれたのだ。
王妃は発狂し、王女を抱かなくなった
王は涙し、王女を見なくなった
幼くとも賢い王子は両親を見、幼い妹を見、そして顔を背けた
その日のうちに産まれたばかりの王女は乳母と極数人の使用人と共に静かに離宮に移り太陽の様な輝かしい容姿とは正反対の夜闇の中で生活することになった。
王女にとって幸いなのはこの乳母があまり容姿や伝説に頓着する様な人間でなく夫と共に王女の未成年後見人となり最低限の教養を身につけ、多少の悪さを教えてくれたことだろう。
凡そ未来ある未成年には教えるべきでない飲酒や喫煙といった良い子は絶対真似しちゃいけない諸々は乳母の夫が乳母の目の前で堂々と教えてくれた。
本当の家族である国王一家とは生を受けたその日以来一度も会ったことはない。
年に一度王女が産まれた日に乳母夫妻経由で形式上の祝いの言葉は聞くがそれも本人達からのものかどうかは信用していない。
気を利かせたらしい乳母が面会の希望を王妃に入れたが丁重にお断りされたそうだ。
丁重にとはまたご丁寧に。戻ってきた乳母の頬が赤くなってたのを忘れることはないだろう。
「またそうやって隠れて吸って」
人が寝静まる月が高い場所にある時間、つまり夜中。
こんな夜中に自室に来る人は育ての親である乳母1人しかいない。
「堂々と喫煙教えといて隠れても何もなくね?」
「私ではなく夫ですわ。」
「止めなかったじゃん」
「明日のことですか?」
「毎日変わり映えしねぇのにまた1年歳食ったなぁって嘆いてた」
「明日はこちらにいらっしゃいますかね?」
「来るわけねぇよ。今までだって来たこと無かっただろ。」
話ているうちに日が変わる
闇に埋もれた太陽を纏う少女は16歳になった。
「そういえば、ダレンは?」
「旦那様でしたら夜更け前まで姫様と酒盛りして今は酔いつぶれておりますわ」
笑いながら夫の不出来を話す乳母をこちらも笑いながら見つめる。
「まさか姫様がお酒にもタバコにもここまでお強いとは思いませんでした」
自分でもそう思う。
初めて酒とタバコをダレンから教わったのが15の誕生日だった。
それから今日までたった丸1年しかた経っていないが教えてくれた相手を潰せるほど飲んでしかもまだシラフのまんま飲んでる自分がいる。
「世の中にはこれくらい普通な人もいるだろう?」
「それはもちろんですわ?姫様が今お考えのような禁忌などという戯言のせいではありません。こういうのは体質ですわよ。」
そう言いながら乳母は灰皿の横に置かれたグラスを回収し、紅茶を置いた。
「さて姫様?お酒とタバコなんて可愛らしい姫様のお身体を悪くするようなものはもうやめて私と新しい1年の抱負でもお話しませんか?」
慣れ親しんだ様に椅子に座り王女が座るのを待つ乳母。
王女と乳母は朝まで紅茶を飲みながら時に笑い、時に乳母からの小言を受け、ゆっくりと朝を迎えた。
そうやって親しい養親と話ていてもこの日だけは考えざるを得ないのだ。
何故?どうして禁忌と呼ばれてまで生まれてきて、嫌厭されながら今もまだこうして自分は生きているのかを。




