序章 何でも叶う街
序章 何でも叶う街
時は近未来。
ディシスシティ。
AIが支配の一端を担い、全てが数値化された街。
善悪、性自認、能力の適正。
その他、本人の無意識の事。
これらがAIによって数値化され、適切な場所へと人材が配置される。
そしてひとつだけ、本人が希望した物が貰える。
金銭、健康、或いは超能力。
故にこの街はこう呼ばれる。
死人を蘇らせる以外は叶う街、と。
●
ファストアンガー事件。
とある健康食品が引き起こした事件である。
ファストアンガーと呼ばれる健康食品を摂取した人間が健康被害を訴え、
調査の結果、摂取が原因の死者が出ている事が発覚した。
癌が治る、免疫力を上げる、障害が治る等との触れ込みで売られていたそれは、
内容の悪質さから健康被害だけでなく、詐欺の方面でも捜査が始まる。
被害者120名。
死者20名。
現在、捜査停止中。
ディシスシティ総管理AI、タナトスより、ヒーロー、メメントモリに原因究明と解決を求める。
●
「……」
それなりの家賃のマンションの5階。
ベランダの外からディシスシティの夜景が見える。
サイレンの音が遠くに響いている。
サーチライトがゴテゴテと様々な広告を映し出している。
細身の男が1人、暗い部屋の中で座っていた。
黒い髪、黒いスーツ、ホワイトシャツ、黒ネクタイの、20代後半程だろうか。
電気もつけずに宙に浮いた青い画面を見つめている。
ファストアンガー事件の概要と、それに関する資料である。
死人を蘇らせる以外は何でも叶う街。
それは願いの善悪を問わない。
正義の味方をやりたい者、悪党をやりたい者。
そのどちらも叶える。
故に警察だけでは手が足りず、男の様な者にも権限と仕事が回ってくる。
ヒーロー協会所属。
メメントモリ。
それが男の名だ。
『ヒーローメメントモリ、お客様です』
部屋にアナウンスが流れる。
入室を許可するとベランダに青い光の柱が立った。
メメントモリは立ち上がる。
「……」
光の柱が消え、現れたのは10代前半程の少年だ。
何の変哲も無い少年である。
メメントモリは先程の資料を横目で見た。
そして再び少年を見る。
「何か御用で」
「僕はエピタフ。お願いがあります」
雑踏の光を背に少年が告げる。
――僕をディシスシティ教会墓地まで連れて行ってくれませんか。
少年の言葉に、メメントモリは目を見開いた。