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変化の前触れ

前回の続きです。

⚠️注意書き⚠️

・一部流血表現があります

・死についての話があります

・ヴァンパイアについて独自の設定があります


以上のことをご了承のほどよろしくお願いします。

いつも通りアラームで目を覚ます。それからは身支度を整えご飯を食べる。今日も頑張って出勤…いや頑張りたくはない程々にやろうと思い直し、玄関のドアを開ける。そんなありふれた朝のはずだった。



「来たぞ」


「来ないで全身黒尽くめ野郎」



目の前に立つ男(ジークと言ったか?)によって平穏な日常は突如として終わりを告げた。昨夜なんの前触れもなく現れ、魂の伴侶?だとか血を吸わせろと言われて混乱したのは夢じゃなかったのか。



「血を吸わせてもらいに来た」


「断る」


「そうか…なら待っている」


「待っててもそんな日一生来ないから安心して。じゃあいってきます…ごめん忘れて。癖なの」


「ふっ『いってらっしゃい』」


「忘れろ!!!いってきます!!!」



今日ほど自分の癖を恨んだことはない。毎日誰もいない部屋に向かって言うんじゃなかった!普段よりも歩みを速める。一刻も早くあの男から離れたかった。本当調子が狂う。




ふむ。困ったな。やっと見つけたというのにまた断られてしまった。昨日の今日だから無理はないが、にしても。



「腹が減ったな」



生憎俺はもう他の者の血を吸う気にはなれない。目の前に極上の食事があれば誰だってそちらを選ぶだろう。まぁお預けをくらっているんだが。人間の食事には興味がないしどうしたものか。



「中で帰りを待つとするか。」



ドアノブに手をかけ、少量の魔力を注ぐ。魔法陣を起動するよりも遥かに容易い鍵の施錠に一抹の不安を覚えた。ここのセキュリティとやらは大丈夫なのかと。


昨夜も入った時に思ったが、意外と物が少ないな。女の部屋は皆ごちゃごちゃとしたイメージだった。というか実際そうだったしな。今までの食事が如何に不味い物だったかを思い出し、溜息をついた。


俺は本能の赴くまま目についたベッドに横になった。狭い。女のベッドはどうしてこんなにも小さいんだ。仕方なく足を折り畳んで眠りについたのだった。



やっと仕事が片付いた。時刻は午後八時をまわったところで、急いで帰り支度をする。会社を出てすぐ、不意に後ろから同僚の男から声をかけられた。



「白月、お疲れ」


「お疲れ様です。そちらも今終わったところですか?」


「そうそう。それで偶々この部署の前通りかかったら白月が居たから声掛けたんだ。」


「そうでしたか。じゃあ私はこれで失礼します」


「えっもう?」


「仕事は終わったので帰ります。お疲れ様でした。」



会釈をしてその場を去ろうとしたらいきなり手首を掴まれ、焦った声でつのってきた。



「あのさ二人で飲みにいかない?ー軒いや一杯でいいからさ!」


「結構です。離してください。」


「嫌だと言ったら?」


「警察呼びます。」


「ははっ何言ってんの。このご時世ヴァンパイア退治で忙しいよ。そんな簡単に来てくれるわけないでしょ?」


「そちらこそ無理やり連れて行こうとして虚しくないんですか?」


「言わせておけば」



あっヤバい。煽り過ぎた。ぶたれると思い身構えたがその手は振り上げられることはなく締め上げられていた。



「俺の片割れに何をしている。人間風情が。」


「なっ何だよお前!離せっいだだだだ!!!」


「ちょっとやり過ぎ!」


「むっすまん。手加減の仕方が分からなくてだな。さっさと帰るぞ。」


「色々突っ込みたいけど今はやめといてあげる。」



小さく頷いたヴァンパイアに少しだけかっこいいと思ってしまったのはご愛嬌ってことにしてほしい。きっと気の迷いだろうから。因みに同僚の男はいつの間にかとんずらしてた。ざまぁみろ。




定刻通りに目が覚めた俺は暇を持て余していた。何せやることがない。狩りに行く気も起きないし、ヴァンパイアにとって生活とは狩り、食事、睡眠だけなのだ。


とはいえいつまでも寝転がっていては筋力が落ちるため起き上がったはいいが…何をすればいいのか。



「ん?この黒い箱は確か…テレビと言ったか?」



以前女の家で映画を観たいという何とも身の程知らずなお願いをされて仕方なしに観たのを思い出した。その時女がやっていた操作方法を頼りにテレビとやらをつけると、やはりと言っていいか、同胞にやられた遺体が発見されたニュースが流れてきた。


血が吸いたい。だがその女を見たところで視覚は何の反応も示さない。あの女だけなのだ。五感全てが共鳴するのは。



どのくらいの時間が経っただろうか。夜も深くなり本格的に腹が減ったのだが、俺の魂の伴侶は帰ってくる気配がない。



まさか、逃げたのか?



いやあの女に限ってそれはないな。と即座にその考えを捨てた。ニンニクをたらふく食べてやろうと言い放った無礼者だからな。肝が据わっているにも程がある。思考を巡らせていると、視覚が急激に落ち、嗅覚、味覚、触覚、聴覚が鈍り始めた。これは救難信号だ。



俺は窓から飛び立ち、嗅覚だけに意識を集中させて、あの女の居場所を突き止めた。すると目に映ったのは人間の男に手を振り上げられそうになっている俺の片割れだった。



それから俺は人間をきっちり懲らしめ、魂の伴侶を連れさっさと立ち去った。やり過ぎと言われたのは心外だったが、まぁ片割れが言うのだからそうなのだろうと手加減してやったんだからありがたく思え。紅い双眸で睨みをきかせたのは大目に見ろ。




なんだかんだヴァンパイアに助けられてしまった。何かお礼したいけど絶対「なら血を吸わせろ」って言われるから言えない。どうしたものか。



「悩んでいるようだが、あの男がまだ気になるのか?なら今からでも追いかけて」


「いい!それはもう気にしてないから。ただあんたにお礼しようと思ったけど何がいいのか分からなかっただけ」


「なら血を吸わせろ」


「予想通りの答えをありがとう。それ以外で。」



熟考した後に出てきた言葉は思いもよらないものだった。



「では腹を満たしたい。」


「血以外で大丈夫なの?」


「よくないが?」


「じゃあ何で?」


「…知りたいからだ。」


「知りたい?」



何をと問おうとしたらスッと顎を掬われた。



「『アカネ』のことをだ。」


「はぁ!?」



驚き過ぎて反射的に飛び退いてしまった。何を言ってるんだこの男は!さては女たらしだな?!



「今失礼なことを考えただろう。」


「えぇ。この女たらし」


「む。…間違いではないから否定できないのが悔しいな」


「はぁやっぱりね!教えることなんて何にもありませーん!!!」


「ふっなら飢え死にしてしまうな」


「言ってろヴァンパイア!」



家路に着き久々に自炊をして肉じゃがを振る舞ったのは本当に気の迷いだ。人間の食事なんて味しないだろうに一丁前に「うまいな」なんて言うから何とも変なヴァンパイアだ。



夕飯を食べ終え、風呂でリラックスした後、同じくなぜか我が物顔でテレビの前でゆったりしている男にずっと気になっていたことを尋ねた。



「ねぇ、今あんた近くにいるけど初めて会った時みたいに身体が疼かないのはなんで?」


「あぁあれか、俺がフェロモンを抑えているおかげだな。」


「フェロモン?そんなのあるの?」


「あぁこのフェロモンさえ解放すれば女を転がすことなど容易い…あっ」


「あっじゃないわよクズヴァンパイア」


「クズだと!?こちらは死活問題なんだぞ!!」


「あーはいはいそうですね女たらしクソ野郎」



まだ何か文句を垂れているようだけど知ったこっちゃない。一体私に会うまでに何人の女を手籠にしてきたんだ。知りたくもない。



「じゃあ私寝るから。昨日と同じようにここから出てって」


「おい、待て」


「何?」


「もし今後危険な目に遭いそうになったら真っ先に俺を呼べ」


「はぁ?何であんたを…まぁ今日助けられたのは事実だけど。」



それとこれとは別な気がする。そんな私の思考を読み取ったのか、男は神妙な面持ちで続けた。



「俺達は魂の伴侶だ。そのため異変があればヴァンパイアである俺の五感に異常が生じる」


「そうなの?」


「あぁ。現に五感がいつもより鈍くなったからな。それで貴様…アカネに危険が迫っていると気付けた。」



なるほど合点がいった。どうしてあの場所が分かったのか気になってはいたが、そこまで深く踏み入る必要はないと線引きをしていたし、聞く気もなかったから。



「それで?魂の伴侶だから助けるの?」


「そうだ。」


「じゃあ他の女の子は?」


「獲物」


「はいこの話は無かったことに」


「待て!分かった!貴様だけでいい!貴様の血が吸えればそれで十分だ!」


「その話は前にも言ったようにお断りよ」


「そうか…なら飢え死にまっしぐらだな」


「脅し?」


「いや事実だ。」



重い沈黙の時間が流れる。こういう時なんて話しかければいいのか分からない。でも自分のせいで追い込んでいるのは事実だしかと言って他の女の子が死ぬのはもっと嫌。



「アカネ」


「なっ何?!」


「これは俺の問題だ。貴様が思い悩む必要はない。」


「慰めてるつもり?」


「これも事実だ」


「そう」



私は頷くことしかできなかった。自分のことは勿論大切だ。けれどそのせいでこの男に目の前で飢え死にされるのも嫌だ。



「ねぇ『ジーク』」


「なんだ?」


「血を舐めるだけならあんたと同じにならずに済む?」


「その程度なら問題はないはずだが。何をする気だ?」


「いや針でプスッてやってそこ舐めて貰おうかと」


「ふっあははははは!!!やはり貴様は面白いな!」



至極真っ当な答えだったのに何でまたこの男はおかしそうに笑うかな!?



「ちょっと!これでも真剣に考えたんだから!」


「そうか。ならありがたく提案に乗ろう。」


「えっ?」


「血を『舐めさせて』くれ。アカネ。」



静かに首肯し、裁縫セットを取り出して左手の人差し指に針を刺した。



「いった」


「その程度で痛がっていては当分牙を突き立てられないな。」


「うるさい!さっさとやって!」


「分かった」



男は紅い双眸をギラつかせ、丁寧に舌で血を掬う。その姿はヴァンパイアそのものだった。けれど不思議と恐怖心を覚えず、憐れにさえ思えた。



「あなた、これでいいの?」


「あぁ。感謝する『アカネ』。ではおやすみ。」


「おやすみ」



なんでこんなことで感謝されるの。私はあんたを死なせようとしてる張本人なのに。ベッドに寝転がりながら考えを巡らす。いや忘れちゃダメよ。この男はヴァンパイア。何人もの人を死に追いやった奴に変わりはない。けれどどうしてこんなにもこの男が気になって仕方ないんだろう。


結局その日に理由が分かるはずもなく、当面の間この方法で食事をしようということで落ち着いた。




まさかあの女から血を貰えるとは思わなかった。俺は上機嫌でアカネの住んでいるビルの屋上で横になる。するとどこから嗅ぎつけたのかまたあの銀髪男が現れた。



「よぉジーク。今夜は随時機嫌がいいじゃねぇか」


「はぁ折角の気分が台無しだ。クロア。」


「そんなこと言うなよ。ところで魂の伴侶は見つかったのか?」


「あぁ」


「へぇまだ見つかってってはぁ!?」


「おい!声が大きい!」


「いやだってよ。本当に見つかるなんて思わねぇじゃねぇか!」



全くこの男の騒がしいところは一向に改善される余地がないな。呆れつつも事の顛末を話すと怪訝そうな顔をされた。



「お前…何でまだ吸ってないの?」


「あの人間は面白い。俺に向かってニンニクをたらふく食べてやるだとか、十字架を切るとか言う女だぞ。すぐにヴァンパイアにするのは惜しいだろ。」


「ごめんお前の思考、意味不明だわ」


「分からんでいい。元より貴様に理解を求めてなどいない。」


「あーはいはいそうかよ。とはいえ、お前が死ななくてよかったよ。」


「ふん。俺が簡単に死ぬと思うのか?」


「死にかけがよく言うよ」


「はぁ今晩は気分がいいから聞かなかったことにしてやろう。俺は寝る」


「うわっマジのやつじゃん。はー俺にも現れねぇかなぁ」


「絵空事だと馬鹿にしていた奴が易々言うな」


「はいよ。んじゃ俺も狩りに出るわ。じゃあな」


「あぁ」



まさか一滴の血だけでこんなにも体力が回復するとは思わなかった。流石は俺の片割れだ。そう柄にもなく浮かれていた。だから油断していた。クロアがどういう男か知っていたはずなのに。



ジークに血を吸われてから数日が経ったある日。皆が戦慄する報告が待ち受けていた。


あの新入社員が遺体で発見され、恐らくヴァンパイアによって死に至らしめられたのだというものだった。



私は居ても立っても居られず、仕事を終えてすぐ帰宅し、リラックスしている男に詰め寄った。



「ジーク!!!」


「なんだ?何かあったのか?」


「うちの新入社員に手を出したの?!」


「一体何の話だ。」


「惚けても無駄よ。あんたなんかに温情をかけるんじゃなかった」


「すまんが本当に話が見えてこない。何があったのか説明してくれ。」



本当に心当たりがないのか私に説明を求めてきた。じゃあこいつの仕業じゃないってこと?事の仔細を伝えると男は「そうか」とだけ答えた。



「それだけ?」


「言っただろう。ヴァンパイアにとっては死活問題だと。貴様ら人間と同じように食事は大切だ。そこに何の違いがある?」


「それは…こっちは命がかかってるのに!」


「だからこちらも同じだ。」


「ああ言えばこう言うわね!私の血なんてあげるんじゃなかった!」



怒りに任せて風呂場に逃げ込んだ。分かっていた。なのにどうしてこんなにも悲しいんだろう。今の私にはその正体を摘めずにいた。


ここまでご覧くださりありがとうございました。今後も不定期ではありますが投稿していきますので応援の程よろしくお願いします!

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