表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/23

8.ここに食事のシーンを入れます(あれ、戦闘シーンですが?)



 驚くことに。俺がこの世界に来て、まだ五時間ほどしか経過していないらしい。


「いやむしろ、もう五時間も経ってたのか?」


 なんにせよ五時間。

 時間の流れが早いのか遅いのか、ちょっと分からない。――――が、四天王を少なくとも五人倒したということは、物語的に考えると、だいぶ進んでいるのかもしれなかった。


「……そう考えると、五時間でコレはそうとうやばいな?」

「だね~」

「ナントカ将軍とかを無視して、一気に敵の幹部を倒してるからなぁ」

「だね~」


 隣をぽてぽてと歩くトライオンから、何とも呑気な相槌が聞こえる。そしてその呑気さに釣られたのか、俺の腹の音が鳴った。


「……あ」

「ありゃ、腹ペコさんだね~」

「街を出るときに、ちょっと何かをつまみながら山に入っただけで、しっかりとは食ってなかったからなあ」


 しかもアレ、結局何の肉だったのかは分からなかったし。まぁ、普通の露店で売ってたものだから、倫理観的には問題無いものなんだろうけど。


「へ~? そういうの、気にしないんだ~?」

「まぁなぁ。例え俺が食ったあの肉が、人間の肉だったとして……。や、さすがにあんまりいい気はしないけど、それでも、それが常識から外れて無い行為なんだったら、別にいいよ」


 逆にこの世界で、肉は完全に食べちゃだめです! っていう倫理観なら、ひたすら我慢するしかない。そういう世界で無くて良かった。


「なるほど~。ユ~スケは、『常識から外れたくない』ヒトなんだね~」

「うーん……、どうだろうな。そんな深い話ではないんだけど……。単純に、怒られるのが嫌なだけだと思うぞ」


 俺がルールを破る、もしくは知らずに破ってしまうのが怖い理由は、他人から怒られるから。これにつきる。

 注意されたり叱られたりするのって、思った以上に堪えるんだよな……。


「小・中・高・大・バイトと……、わりと怒られっぱなしだったからなー。今もちょくちょく怒られてたけどさ」

「あはは。そ~だったかも~」

「知ってるのか?」

「バイト時代からだけどね~。カムワロと二人でよく見てたよ~きみのこと」

「うぉ、マジか……」


 だとすると何て暇な神たちなんだ。

 こんな底辺バイトの生活を覗き見たところで、何も得るものは無かっただろうに。

 死期が近いヤツ、だっけ? そういうヤツを探していたってのもあるんだろうけど、なかなかな趣味をしている。

 そう思ったとこで、再び腹の虫がぐーとなる。しかも今度は俺だけでは無く、トライオンも。


「ありゃ~」

「……っと、まずい。本格的に空腹だ。どうにかならないか?」

「どうにかできるよ~。……それ!」


 トライオンが右手をすっと上げたかと思うと、そこには光のロープみたいなものが出現した。そしてそれを投げ縄のように草原へと放つ。するとそこには、ギーギー唸る二本角の小型モンスターが捕獲されていた。


「よ~し捕まえた。こいつを~……、ビビビ」

「ギーっ!」


 光のロープの先から、何やら電流のようなものが走る。するとそのモンスターは丸焦げになった後、消し炭となって消滅していった。


「いったい何を……、」


 俺が疑問に首を傾げると同時、ドクンと何かが流れ込んでくる。


「……え⁉ ……んんんっ⁉」

「ふ~すっきり。おいしかったね~」

「え、いや、は⁉ ちょちょちょっ!」


 ばたばたと、宙に手をやり狼狽する俺。

 俺に流れ込んできた、何かの違和感――――異物感。

 それにより、何故か俺の空腹感が無くなっており、代わりに、満腹感と、小ぶりのステーキ(・・・・・・・・)を食べた(・・・・)という事実だけが、身体の中に残っていた。


「どういうことだ⁉ お前何した⁉」

「あはは~」


 いや笑ってないで。

 トライオンは「えっとね~」と、変わらない口調のまま、指を立てて説明する。


「ステーキを食べるには~、さっきの小双(バイコン)角獣(ラビット)を倒したあと、さばいて調理して焼かないといけないんだけど~」

「うんうん」

「それを~、全部カットしたんだよね~」

「うん⁉」

「だからこれからは~、モンスターを倒せば、その分だけ食べたことに出来るよ~」

「いやちょっと待て!」


 はぁ⁉ 

 言ってる意味が分からないぞ。カットした?


「事象の省略って言ったほうがわかりやすいかな~」

「いや、よけい分からなくなったんだが……」

「ほら~、経験値だってそうだよ~。

 敵を倒した時に沸き上がる様々な感情や、それに付随する技術、身体能力の向上。それをつまり、『レベルが上がる』っていうわけじゃない~?」

「そ、そうなるか……?」

「ユ~スケが今後手に入れるであろう経験値は~、つまりその過程をショートカットして、きみの身体に流れ込んでくる~。それと一緒で~、今の食事行為も、それを応用しただけだよ~」

「なる、ほど……? ね?」


 つまり、飯を食うっていう結果があったとして。ソレを食ったという経験の数値――――ここで言えば、満腹値を、俺が得たというわけか。その、調理とかの過程を、すっ飛ばして。

 い、いよいよゲームじみてきやがった……。


「ホ、ホントはココ、VRとか、ゲームの中ってわけじゃないよな……? 実は仮想世界に取り込まれてて、ロールプレイ中だとか……」

「あはは、ないない~。使い古されたそのままの体だから安心していいよ~」


 ぷにぷにと頬を指でつつかれる。……いや、貫かれそうで怖いんですが。あと、使い古されたって言うな。まだ三十年モノなだけだから。壊れるまでは使えるから。


「なんかこう……、満腹感はあるけど満足感は無いな……」


 何でも数値で片づけたり、便利になりすぎるのも考え物だ。

 満腹は感じているのに、満足感が得られていない……。食にはそこまでこだわりはないのに、思った以上にクるなこれ。


「今度から、食事は普通にさせてくれ……。せめて携帯食でもいいから」

「そう~? 楽で良くない?」

「あー……」


 楽。

 楽……、かぁ。


「どうしたの~?」

「いやぁ、このことも、カムワロと話したなあと思ってさ」

「そ~いえば、なんかそんなことを言ってたね~」

「おぉ。実はさあ……」


 俺はトライオンにかくかくしかじかと、カムワロとの『俺だけが楽で良いのか?』という話をしたことを説明した。

 道中湧いてくる巨大な体躯のモンスターを、まるで虫でも追い払うかのように片手間でぶっ飛ばしながら、トライオンは「ふむふむ~」と聴いている。そして。


「特大のデレを見せたね~」


 と、割と分かりやすくニヤニヤした表情で、俺に言ったのだった。


「デ、デレ……?」

「そ~だよ~。あれ? わかんない~?」

「わ、わかんない~……」


 トライオンの首の傾きに、俺も鏡合わせのように同時に傾けた。

 デレって何だよ。いやまぁ確かに、なんかところどころで、『そういう風な』視線は感じてはいたけれど。


「元来カムワロが~、気楽さを許すなんてありえないんだよね~」

「え、そうなのか?」

「そりゃそうだよ~。だって女神だよ~? それも、導きの女神なんていう、選ばれし者にはスパルタで当たらなきゃならない立場(ポジ)なんだよ~?」

「なるほど……」


 そう考えると。おとぎ話とかに出てくる穏やかな女神ではなく、ああいう強烈な性格になるのも、分からなくもない……のかな? いや、それはさておき。


「そんなカムワロが、『楽でいい』って言ったってことは。つまり」

「だよ~。めっちゃ甘やかしてくれてるってこと~」


 幸せだね~と、手を思いっきり伸ばして頭を撫でてくるトライオン。うん、近い。そしておっぱいが当たりそう当たってた。


「そのデレ、今度会ったら応えてあげなよ~?」

「こ、応えるって、どうしたら良いんだよ……」


 まさかその場でキスでもしろってことではないよな? というか、カムワロの『デレ』って、そういう恋愛的な意味で合ってるのか?

 ハテナを浮かべる俺を見て、トライオンは「ふふ~」と笑い、言った。


「そんなの簡単だよ~」


 珍しく、嬉しいことがあった童女のように。

 その場でくるりと一回転し、満面の笑みを作った。


「そのときの、きみの正直な気持ち。それを、そのまま言ってあげて」


 草原に吹く穏やかな風は、まるで俺たち二人を柔らかく包んでいるような。そんな気がした。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ