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6.女神カムワロ・1



 それからも。頂上部を目指す俺たちに、次々と魔の手が襲い掛かる。

「カムワロ! そいつはどうやら防御力が異常に高いゴーレムみたいだ! 魔法攻撃が有効みたいだぞ!」

「女神パンチ!」

「その鳥は動きが素早いから、麻痺させるといいみたいだ!」

「女神キック!」

「そいつは石化を使ってくるから……」

「女神スパイク!」

「そいつは……」

「女神ブレイク!」

「…………」


 死屍累々だった。見敵必殺。全部一撃。


「というか、俺がステータスを見れる意味……!」


 弱点を伝えてみたものの、全て物理攻撃で突破。技名を変えているだけで、基本的には殴る・蹴るである。

「フッハッハッハ! 強かろう、わし!」

「うん。強い強い……」


 というかヤバイ。強さの上限が全然見えない。さっきなんて前蹴り一発の衝撃だけで、ゴーレムの胴体ごと周囲の大岩までぶっ飛ばしてたぞ。

 カムワロが俺に言った、黙ってついて来いという言葉が、まさかその通りの意味だとは……。


「やりがいとか感じたいか?」

「え? あ、いやぁ、どうだろ……?」


 正直なところ。全てが一撃で終わっているため、モンスターに立ち向かっているという自分というものがシュミレートできない。

 やりがい……。やりがい、なぁ……。


「よく分からないんだよな、俺」

「フム?」


 消滅していく上級らしいモンスターを見て、俺は口を開く。


「今消滅していったモンスターもさ。何かの信念や考え、それこそ、やりがいを持って、魔王や四天王に仕えていたわけじゃん?」

「そうじゃな。まぁたぶんじゃが」

「だよな」


 惜しくもそれは、女神(バケモノ)によって阻まれてしまったわけだけど。


「でも俺は、特に考えも無く生きて来てさ。人生の目標とかが無いまま、フリーターをやってたんだよな」


 まさか死期が迫っているとは思いもしなかったけれど。それは置いておき。

 俺は、俺の中に、やりがいとか情熱とかを見いだせないままだった。片鱗すらも無かったと思う。


「んん? 悔いておるのか?」

「おっとすまん。暗い話っぽくなっちゃったな」


 ここまで語っておいて何だが、それを後悔しているわけではないのだ。

 特に生き方なんて、今のご時世(現代日本だと)けっこう自由だし。


「俺が言いたかったのはさ。やりがいとか情熱っていうのが、俺には理解できない感覚だな~って思ったんだよっていう。それだけの話」

「なるほど。雑談じゃったか」

「そ。ただの雑談だ」


 まぁ雑談というよりかは、自問自答に近かった。楽に生きて良いのか問題が解決したからか、俺の中の気持ちの部分に整理をつけてみたのだ。

 果たして俺は、この旅をするにあたって。この環境で変化をしたいのか否か。

 で、今カムワロと話しながら思ったのが、『特にそういうことは無くていいかもなぁ』であった。

 やりがいとかは、特に必要としてないな……って。


「悪い。何か、含みがあるような言い方になっちまった」

「いや構わんさ。……しかし、熱。情熱、のう?」

「カムワロ?」


 雑談を切り上げる俺をよそに。カムワロは珍しく、考え込むように俺をじっと見ていた。


「いや、ぬしの中に情熱が全くないというわけでは無いと思うがのう」

「そうか? 女神に言ってもらえるのは光栄なことかもしれないけど、てきとーに生きてきて、万年フリーターやってるだけの男だぞ?」


 人徳も人望も無ければ実績も無い。……何が悲しいって、そこにあまり危機感を覚えてないところだな。どこかで、『俺の人生はこんなもの』って、諦観が入っているのもあるかもしれないけど。


「う~ん……、仕方ないのう」

「え、なに?」


 カムワロは腕を組んで唸っていたかと思うと、途端にカッと目を見開いて、よく響く声で宣言した。


「唐突じゃが開催! 『わしがぬしのことを、どうしてここまで好きなのか』コ~ナ~~~~~ッッ‼」

「……えぇ」


 え、なにそれ?

 というか今、『好き』って言ったか? カムワロが? 俺を? 何で???


「まぁ恋愛的に好きか性格的に好きかは、判断ついとらんところではあるが」

「と、突然、どうした?」

「いやなァ」


 照れるを通り越して戸惑う俺へ。カムワロはずいっと身を寄せ、舐めつけるように見下ろした。


「本当は言うつもりでは無かったんじゃが、――――ぬしがあまりにも自分のことをどうでもよく扱うもんじゃから、ついな」


 いつもは力強い眼力を放っている切れ長の目が、今はどこか蠱惑的だ。

 その瞳から。

 目を逸らすことが、できない。


「ど、どうでもよくは扱ってない、だろ……?」


 気圧されながらも俺が言うと、カムワロは「ふぅ……」とため息をつく。


「ぬしがそうでなくとも、わしが気に食わんのじゃ」


 追い詰められ、気づけば後ろは大木だった。まるで壁ドンされているかのように追い詰められ、その距離の近さに、俺はどぎまぎしてしまう。

 というかおっぱいが当たっているし、垂れ下がったカムワロの髪が、俺の肩にしゃなりと触れている。


「フフ……。見れば見る程()い奴じゃ」

「う、うい……、です、か……?」


 まるで捕食のような体制だ。

 鼻先十センチ。不思議で魅力的な香りのする吐息と共に、カムワロは俺へと言葉を告げようとする。


「わしがぬしを好いとる理由。それは……」


 細い指は、目元から頬、そして唇へと流れていく。彼女の顔ももう五センチと近まった。――――そのとき。


「見つけたぞ勇者ッ! 従者を全て倒したようだが、アタシはそうはいかんぞ!

 魔王四天王最強にして最優の騎士! 懐刀(ふところがたな)である『竜騎士ジェルジェンナ』が、魔王様に変わって貴様らを討……つ……?」

「――――ア?」

「えっ」「あっ……」


 その瞬間。甘い空間は終わりを告げた。


「いや、その、ワ、ワタシは魔王軍の、ジェル――――」

「くるわぁぁぁぁぁぁぁぁああああああッッ!」

「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃいいいいいいいっ‼」


 そして、蹂躙が再開された。

 俺に詰め寄っていたカムワロは一転。突如として現れた竜人さんに飛び掛かる。

 鬼神のように追いかけるカムワロ。涙目で逃げ惑う竜人さん。あ、捕まった。

 その絵面は蹂躙というより……、


「フッハッハッハッハ! わしとユウスケの甘々空気をぶち壊した罪は、神界損壊罪よりも重いのじゃッ!」

「オゴホォォォォっっ⁉ ソ、ソコらめぇぇぇッ! 炎出ちゃうぅぅぅ‼」


 蹂躙というか凌辱だった。


「ホレホレ! まだまだ終わらんぞォ⁉」

「りゃ、りゃめぇぇぇぇぇッッ‼ こ、このままじゃワタシぃ、炎の竜から水の竜になっちゃうぅぅぅぅッッ!」


 おっっっっへえええええ! と、……あまりにも下品な竜の嘶きがこだまする。

 えー……、全年齢版の域を出たくないため、大丈夫な範囲の単語を用い、ダイジェストで紹介いたしますとですね。

 竜騎士ジェルジェンナさんという、顔が竜の女騎士さんが登場したワケなんですが。その直後、おそらくカムワロの魔法により、周囲の蔦に四肢をがんじがらめにされたワケですね。

 その後いろいろなアレやソレ、棒状のモノだったり羽のようなモノだったり、なんか不思議な形状のボコボコしたモノで、えー……攻撃(・・)され……。結果、このように、半裸で土下座するに至った――――わけですね。


「ゆるっ……! ゆる、し、て……! くだしゃああああいっ……!」

「フム。少し満足」

「いややりすぎだから」


 コイツ、顔ツヤツヤしすぎである。


「せっかくじゃ。聞ける情報は何でも聞いて行こう」

「効率の鬼すぎる」


 カムワロ曰く。『導き』の女神の特権として、敵がいるところは把握している。が、魔王だけは様々な場所をうろうろしているため、毎回探し当てなければならないのだとか――――まぁ、そんなことを説明はしてくれていたのだが、ぜんぜん頭に入って来ませんでしたね。

 綺麗な姿勢で土下座したまま、まるで白旗を振るようにドラゴンの尻尾が左右に揺れる。

 爬虫類っぽさと人間っぽさの間の肌感が、あまりにも煽情的というか、背徳的に目に映った。

 戦利品として手に入れた彼女の胸当ての匂いを嗅ぎながら(なにしてんだよ)、カムワロは遥かなる高みから声を飛ばす。


「魔王の居場所を吐け」

「それは……」


 涙目の竜騎士、ジェルジェンナさんが言うには。

 ここから更に南の方にある大陸に、セポスという女将軍が支配する地域があるらしく、そこ付近に魔王は陣取っているらしい。


「詳しい場所は、ワタシにも伝えれていませんでして……」

「全然懐刀ではないのでは」


 突っ込まずにはいられなかったがさておき。

 ここから更に南となると、流石のカムワロも骨が折れそうではあった。


「その大陸って、そんなに遠いのか?」

「ぬしの知識で言うと……、そうじゃな。長崎から青森くらいまでは離れておる」

「けっこう絶妙な遠さだな……」


 そして北海道まではいかないのか。

 しかし……、長崎・青森間ねぇ……。飛行機があれば行けないこともないのだろうが、この世界には存在しない。最速の乗り物でも、魔法馬車と呼ばれるものらしいし。それでも現代の新幹線よりは遅いだろう。


「まぁわしやトラだけなら走って行けんこともないがの。その場合ぬしは、わしにずっとしがみつくかたちになる」

「無理ゲーすぎる」


 丸一日おっぱいを触っていて良い権利を得ていても地獄だ。というか、普通に落神(らくがみ)して死ねる。


「ならば、地道な移動しかないのう。……おいそこの駄竜」

「は、はい! なんでしょうお姉さま……!」


 なんかしっかりと調教が進んでいた。

 ここまでくるとジェルジェンナさんが可哀そうになってくるが、問答無用で倒された馬面さんより扱いはマシか……。


「ぬし、魔物を支配している類の四天王じゃろ? ならば、わしらの道行く先から、そいつらを消せ」

「え、えぇ~……」


 困惑の声に対し、カムワロは懐からスッと棒状のモノを取り出した。それを見たジェルジェンナさんは、再び勢いよく平伏した。


「す、すみませんでしたぁぁぁぁ‼ やりますやります! お姉さま方のお邪魔は致しませんんん‼」

「よい心がけじゃ」

「ですから何卒、ソレをまたワタシめに使ってくださいいいい‼」

「気に入ってんじゃねーか!」


 うん……。しっかりと調教は進んでいた。


「よしよし。それではレッツゴーじゃ。行くぞユウスケ」

「えぇ……。お、おう……」

「ま、魔王様には、くれぐれもワタシの手引きのことはバラしませんよう~……!」


 切なそうな悲しそうな、哀愁漂う竜の嘶きがこだまする。

 楽しそうに笑うカムワロを見て、俺はふうとため息をつき、歩みを開始しようとする――――直後だった。


「大丈夫かジェルジェンナッ!」


 声と共に現れたのは、新たな五体の竜騎士だった。

 皆一様に、ジェルジェンナさんのやられざまを目の当たりにし、その凄惨さに口や目を覆っている。……そしてだんだんと、亜人種みたいなものを見慣れてきている俺もいる。


「き、貴様ぁぁぁぁぁ‼ 我らが四天王の一人、ジェルジェンナをぉぉぉ‼」

「ほう? まだ生き残りがおったか」


 慟哭にも似た糾弾に、しかしカムワロは嬉しそうに答える。その威圧にも似た笑みは、前に出ようとした竜人種たちをびくりとひるませた。


「しかし残念じゃなァキサマら。この竜人は、すでにわし()のモノじゃ。何でも従順に命令を聞く、家畜に成り下がっておる」

「み、みんなぁぁぁ……、ご、ごめんねぇぇぇぇ……! で、でもぉ、どうしてもワタシ、あの攻めが無いとぉ、生きていけなくなっちゃってえぇぇ……!」

「なんかネトラレビデオレターみたいになってる⁉」


 悲痛な中に快楽が混じる声を聞き、竜人種の五体は、ひるんでいた態度とは一転し、表情をこわばらせた。どうやら同僚(?)への非人道(?)的な仕打ちに、怒りの方が勝ったようだ。


「貴様()許さんぞ……! 血祭りにしてくれるッ!」

「なんと非道な事をしてくれのだブヨブヨのニンゲンめ……!」

「人畜無害そうに見えて、ヤることはヤっているということかッ!」

「でかいのか! チ●チ●でかいのかコイツ!」

「俺かぁぁぁぁぁぁッッ!⁉」


 もしかして俺がジェルジェンナさんを屈服させたことになってンのかあああ⁉ いや違います! 誤解ですからねッッ⁉ 残念ながらでかくないですし‼


「くぅ……! 彼女が離脱してしまうと、たった十五人しかいない四天王が、十四人になってしまう……!」

「言ってて不思議に思わないのかお前ら⁉」


 四人しかいないから四天王なんじゃないのかよ。


「いやだって魔王様に、アタシも四天王がいい! いやわたしもワタシもって殺到してたら、『じゃあみんな四天王でいいよ』って言ってくれて……」

「幼稚園か何かかよ⁉」

「素敵だった……」「うん。お心遣い、温かいよね……」「魔王様しゅきぴ」「スパダリみあるよね……」


 感じてるのは父性とかだと思うんですが。

 俺のツッコミもそこそこに、竜人種の一人がしびれを切らし、剣を抜いてこちらに襲い掛かってきた。


「カァァァァッ‼」

「……はっ⁉ うわぁぁぁッッ⁉」


 ツッコミを入れている場合では無い。ステータスこそ測っていないものの、この斬撃に当たれば死んでしまうということくらいは俺でも分かる。

 しかし。


「おっと」

「ッ!」


 首元へと迫る凶刃。それをカムワロは、親指と人差し指だけで止めていた。


「フハハハ。なるほどのう?」

「ぐっ……! 刃が動かない……!」


 ぐいぐいと刃を動かす竜騎士だが、ぴくりとも動かない。そしてカムワロからは、謎のほの暗い光が、ざわざわと湧き出ていた。


「……わしではなく、ユウスケを狙うか。わしの大事な宝を、攻撃するときたか。それはつまり――――殺されても文句は言えんぞ?」

「ひっ……!」


 ぎょろりと。

 殺意と共に、瞳が動く。

 黄金(きん)に輝く、神々しいまでに邪悪な瞳。

 眼力だけでニンゲンは心臓を掴まれるのだと、俺はこのとき初めて知った。


「ま、待てカムワロ!

 ギャグなノリで十五人の四天王とか言ってはいたが、それが言葉通りの意味なんだとするとさ! 四天王並みの実力者が、少なくともここには五人いるってことで――――」

「うむ」


 バキン。

 と、刃と共に、竜人種の身体は四つに分断された。


「そういうのは、もういいんじゃ、ユウスケよ」


 恐ろしく――――平穏な声で。カムワロは言葉を置いていく。

 これまでの苛烈さが消え去ったかのような、とても平坦な音だった。


「敵がどうとか、軍団がどうとか、そういうところを議論するのは、とっくに過ぎ去っておるのよなァ」


 彼女は、一歩足を前に踏み出す。

 それと同時、竜人種らは一歩足を後退させる。

 けれどカムワロの二歩目。それに反応することは出来なかった。


「わしの大事なモノを奪おうとする。それはもう、戦争じゃよ」


 身じろぎしたら、殺される。そういう現象(・・)を前にしているのだと、竜騎士たちは気づいたのだ。


「痛くする。ので、」


 彼女が自身の両こぶしを合わせると、たちまち闘気が膨らんでいく。


「逃げて殺されるか、この場で殺されるか――――選べ」


 闘気、覇気、狂気、そして殺気。

 全ての強感情が乗せられた瞳を前に、()騎士(モノ)たちはとにかく、動く。何らかのアクションを起こさずにはいられない。


「ぐ……! オオオオオオッッ!」


 咆哮に次ぐ咆哮。

 ソレは更なる増援を呼ぶ。

 そしてそこには……、大岩のようなゴーレムや小さな妖精。大木のバケモノみたいな生物がわんさかと集まって来ていた。


「第三の選択、戦うか……。よかろう」


 八重歯をむき出しにして、彼女は大きく笑う。


「ユウスケが離脱する時間だけは待ってやる。二十秒ほどかの?」


 言うと彼女は、俺に何やら卵型の魔法膜を付与し、指を鳴らした。


「ちょっと下におれ」


 おそらく防御魔法的なものなのだろう。俺を包んだ魔法膜は、そのまま素早く、それでいて丁寧に下山する。


「ちょ……、カムワロ――――」

「巻き込まれんようにの~」


 完全に敵に背を向け、こちらへぶんぶんと手を振るカムワロ。

 大量の敵が迫ってくる。しかしその攻撃を特大のジャンプで回避し、山のフィールドから空のフィールドへと身を移し、不敵に笑った。俺がはっきりと見えたのは、そこまでだ。

 距離と木々も相まって、どんどん彼女の姿が視認できなくなっていく。

 こんなにも俺を遠ざけるということは、ここ一帯が、危険区域になるというコトで。

 それはつまり、彼女が全力を出して暴れる(あそぶ)ことを意味している。


「おまっ……!」


 そんなわけでなし崩し的に。

 ギャグパートではない、

 真の蹂躙パートが始まる。






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