17.魔王城、討ち入り
――――それから、少しだけ時間は飛んで。
現在、魔王城前。
カムワロの話では、軽い認識阻害をかけているのと、この辺りはまだモンスターや魔王軍の気配は感じられないとのことだった。なので、トライオンを呼び出し、三人で準備を整える時間が出来る。
「……お、光った」
「来るか」
光輪と共に、魔方陣が降りてくる。中央で静かに閃光が走ったかと思うと……、そこには、小さくも一部だけがとても大きい、トライオンの姿があった。
「……お~、カムワロだ~。おひさし……ぶ……り……?」
「うむ、久しいのうトライオン。時間的には丸一日ぶりくらいじゃが」
「……おす」
俺たちはそれぞれ挨拶を交わす。
……うん。トライオンの言いたいことはとても分かる。分かるよ~。
「…………………………何で手ぇ繋いでんの~?」
珍しく怪訝な表情を見せるトライオンに、カムワロは元気に頷いて答えた。
「うむ。愛の告白をしたからじゃ」
「……されてしまいまして」
「………………はぁ」
ぽかんと、息……というか、音を発するトライオン。さしもの女神も、この展開速度にはついて来れなかったようだった。
あれから。
トライオンからカムワロにチェンジして、彼女と二時間くらい丘を歩いた。
そしてその……、色々会話をして。俺たちはこう、思いのたけをぶつけ合う。
吐露を聞いて、こっちも話して、理解し合って、――――今に至る。
「あ~、そうなんだね~。オメデト~」
話を聞いているうちに、トライオンのテンションは平常に戻っていた。
順応早すぎる。そういう意味でも強いなこの女神。
「まぁ別に、アタシとカムワロでユ~スケを取り合ってたワケでも無いしね~」
「うむそうじゃのう。どちらかと言えばラブ度はわしの方が上じゃったし」
「だね~。アタシはほら、どっちかと言えば肉欲だから~」
なんかとんでもないガールズトークが繰り広げられていた。
俺の身体をなんだと思ってんだよと言おうとした矢先、カムワロは冗談めかしながらも、やや強めの口調で反論した。
「いや肉欲でもわしが上じゃわい」
「は? いやいや、アタシの欲望舐めてもらっちゃ困るかな~。もう三百年してないし~?」
「いやいやわしかて三百年は余裕でご無沙汰じゃわい。むしろ何千年単位じゃぞ?」
「でも肉欲の度合いはどっちが強いか測れないよね~? 純粋にどっちがよこしまなこと考えれるかの勝負になるけど、カムワロはそれでいいってわけ~?」
「当たり前じゃろ小娘が。わしの方がえちえちじゃわい。女神のテクを舐めるなよ?」
「ユ~スケの前だからって無駄に大きく出ないほうがいいんじゃない~? アタシだって、人間だったときはそれなりに愉しんでたクチだからね~?」
「おうおう言うたな⁉ じゃあ勝負じゃ!」
「やってやろうじゃん~⁉」
「待て待て俺のズボンあっおっぱいがせまっ……手がはやい飛んできてパンツ助けてちからがつよいたすけて! ストォォォォップッ! 女神らストォォォォップッッッ‼」
「ちっ……」
「う~ん、どさくさにイけるかと思ってんだけどな~……」
状況を説明すると、貞操を奪われそうになったワケですが!
一回一回の行動が早すぎるよ! 襲われたと思ったらすでにズボンは脱がされかかっていて、パンツの中に手を突っ込まれていた。どこのマジックショーだ。
「て、貞操を奪うのは、今のところ禁止です!」
「は~い」
「仕方ないのう」
怖い……。文字化けした数値のスピード、めっちゃ怖い。
女子二人が俺を取り合う(しかも肉欲で)という、普通ならめちゃくちゃエロイベントのはずなのに、どうしてこうもバイオレンスになるんだ。
「残念だったねえカムワロ~。こ~すれば、どさくさでヤれたのにね~」
「じゃのう。せっかくの演技が台無しじゃ」
「しかもチームプレイだっただと……⁉」
何百年単位のハニートラップ・コンビネーションとか、童貞三十年の俺にどう対処しろと。
「と……、とりあえずそういうのは、魔王を倒してからだ……」
「そうじゃの。そうするか」
「へ~……?」
俺たちのやり取りに、トライオンはやや面喰ったようで。質問を投げてくる。
「しばらく見ない間に~、ユ~スケってばえらい覚悟決まったね~?」
「いやその……、怖いのは怖いで、間違いないんだけど、さ」
「ん~? なんか後ろ暗い感情~?」
「い、いや! そんなことはないぞ!」
「カムワロがニヤニヤしてるってことは~、十中八九、さっきの話の地続きってことか~。ま、だったらいいや~」
問い詰めるのもそこそこに、トライオンはため息を吐きながら身体を離した。
そしてちらりと相棒の顔を見て言う。
「で、もう行く? カムワロ」
「そうじゃの。行こう」
言うと同時。二人からぶわっと魔力があふれ出し、女神モードの姿となった。
「決戦じゃ!」
「あっと――――その前に~」
「おぉそうじゃ。忘れておったわい」
勇む姿もそこそこに、二人はこちらをちらりと振り返り、声を合わせて言った。
「「わし(アタシ)らのおっぱいを揉め」」
驚くことに。
今度は、ハニートラップでも何でもなかったという。