表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

17/23

16.討ち入り前の最後の小噺



 魔王城へ向かう。

 準備の整っていないこちらがとる行動としては、大分迂闊なことなのではないかと思ったのだが、どうやらそうでは無いらしい。


「なぁトライオン。魔王城ってことは、敵がめちゃくちゃいるんじゃないのか?」


 という俺の質問に対して。


「ヤバくないよ~。アタシとカムワロの力が、同時に使えるんだよ~?」


 こんな答えが返ってきた。

 人間界とは異なったルール。それの最たる利点が、女神が複数いても問題ないというところである。

 最初の白い空間で、二人が同時に存在していたことが思い出された。


「説明するとね~」


 指を立てて、とても小難しい言葉を並べ立てて説明をするトライオン。

 魔力がどうのとか神々のルールがどうのと、わざと俺が理解出来ないように説明し、こちらのリアクションを見て楽しんでいるようだった。

 ともかく。


「要は。魔王城に行けば、戦力二倍なんだ~」

「……なるほど」


 どうやら魔王城とは、魔力や瘴気の度合い的に、天界に近いルールが適応されるらしい。

 つまり、女神が何人いようが問題ない空間になるということで。

 簡潔にまとめられるのなら、最初からそう言いやがれちくしょうめ。


「は~。魔王城は出来れば、壊さずそのまま押収したかった(・・・・・)んだけどな~」

「……もう壊すの前提ですか。そうですか」


 でもまぁ、魔王城がどれくらい頑強なのかは分からないが、この二人が全力で敵を迎撃したとき、ノーダメージでいられる建築物があるとも思えない。

 おいたわしや、未だ見ぬ魔王。理不尽な暴力に、合唱。


「なんかしんみりしてるところ悪いんだけど~、魔王とは、きみが戦うんだよ~?」

「は、はい⁉」


 前言撤回。

 良かったな、未だ見ぬ魔王。楽勝で勝てる子豚が一匹、今そっちに行きますよ。


「オワタ……。俺オワタ……。人類もオワタ……」

「おいおい~」

「せめて死ぬ前に一度だけ、スーパーモデル体型美女と朝まで死ぬほど汗だく●●●●したかった……」

「意外と欲望が図太いね~」

「首輪をつけられてわんわん鳴いてみたかった……」

「隠し通路みたいな性癖が見つかったね~」


 ともかく。

 魔王と俺が、一騎討ちだって?


「え、何で……?」

「天界に近い場所だって言ったでしょ~? だから、他の神々にも見られちゃってるんだよ~」

「つまり……、カムワロが用意している『正当防衛(いいわけ)』が、使えないってことか……」

「そゆこと~。まぁ、頑張ってね~」

「めっちゃ軽いな⁉ ……い、いやでも、冒険に出る前にカムワロはさ! 最後の一撃だけでいいって……」


 それで、富も名声も手に入るって! ……なんか騙された人みたいになってるけど。


「アタシらの元々の作戦では~、魔王軍を全部倒しちゃって~、魔王が『もう我慢ならん! 自ら打って出る!』ってなるのを待ってから、地上で倒す~~~~って予定だったからさ~」

「そもそもの見通しが甘いだろそれ……」

「だね~。いやあ、イレギュラーも割とあったし、ガバガバだったかなこの作戦~」

「相手の感情を作戦に入れてる時点でなあ……。それに魔王軍全員って。最初のカムワロの説明でも、色んなヤツが色んな地域を支配してるって言ってただろ? 無茶過ぎるぞ」

「そ~なんだよね~……」

「そりゃなぁ……」

「あと一日あればな~……」

「出来るんかい」


 改めて恐ろしい戦力差だった。

 世界全部を焼き尽くすことも出来そうだ。


「ユ~スケも頑張ればそれくらい出来るようになるよ~」

「いや、なってたまるか⁉」


 という俺からのツッコミを受けたところで、「そろそろだね~」と言って、彼女はカムワロへとチェンジした。


「えぇ……。いつも唐突だなぁ……」


 カウントダウン機能でもつけてほしい。

 眩い光。そして、ぽんっという可愛らしい音と煙の中、背の高いシルエットが顔を出す。

 面白いことに、衣装はチェンジする前に着用していた、清楚なメイド服のままだった。昨夜のことがやや頭をかすめたが、どうにか理性で封じ込める。


「性欲は鎮まったのか?」


 ……とは、流石に聞けないので、普通に挨拶を。


「よう、えーと、何時間かぶり?」

「うむ。一緒に寝れなくて残念ではあったがのう」


 百四十センチを見下ろす首の角度から、百九十センチを見上げる角度へと急激にチェンジしたため、やや身体の癖が変になりそうだった。

 あらためて。俺は彼女の目を見て告げる。


「カムワロ。話しがある」

「うむ。わしもじゃユウスケ」


 二人。並び立つように歩いていく。

 しゅっしゅっと、ロングスカートの衣擦れの音が、良く晴れた草原に響き渡る。


「……」


 不思議とカムワロの息遣いが感じられた。前を歩いていなくとも、次右の方に行くなとか、この道は真っすぐだなと、どことなく理解できる。


「トライオンからどこまで聞いた?」

「どこまでって、えーっと、女神のルールとか?」

「ふむ……? あっ、あーあー、そっちか。なるほどのう」

「?」


 首をかしげる俺。

 というか、微妙に会話が噛み合っていない気がした。

 そもそも俺はこれから、トライオンの思惑をカムワロに確認しなきゃいけなくて。むしろトライオンが俺に説明することなんて、他には何も……。


「あ、あーそうか」


 俺もはたと思い至り、カムワロと同じようなリアクションをしてしまう。


「なんじゃ?」

「いやこっちの話……」


 聞いたかどうかの内容というのは、たぶん、『俺を好きな理由』である。

 カムワロはきっと、彼女が小出しに、俺に理由を伝えていると思っていたのだ。まぁ、彼女のキャラクター性を考えれば、その確率は半々ってところだけれど。


「カムワロ……。俺の話題から、先にいいか?」

「フムそうじゃの……。聞こうか」


 言うと彼女は俺の顔をじっと見て。とても愛おしそうにつぶやいた。


「ぬしの声なら、いくらでも聞けるわい」


 それと同時。カムワロはおもむろに、俺の耳を軽く()んだ。

 艶めかしい唇の感触が、耳に残る。


「…………、」


 誰かさぁ。

 俺にも、チェンジ機能つけてくれません?






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ