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12.カムワロ・3



「あ、ユ~スケ~。たぶんそろそろ、カムワロとチェンジ出来るよ~」

 夕暮れに差し迫る頃。トライオンは何かの電波を受信したかのように唐突に立ち止まり、口を開いた。


「そうなのか? いやに唐突だな」

「チェンジのタイミングはアタシ主導じゃないからね~。こればかりは何ともなんだけど……。まぁ、聖剣渡すことが出来て良かったよ~」


 効率的だねとトライオンは笑う。

 まぁ確かに、タイミング的にはめちゃくちゃ良かったのか。


「ふふ~。アタシとカムワロ、どっちが大事なのよ~……的なセリフ言ったほうがいい~?」

「反応に困るな……。正直、どっちも同じくらい大事だ」

「おお~、プレイボーイ的なセリフ~」

「いや、命綱的なセリフ」


 二人が居なくなっちゃうと、右も左も分からない異世界で一人ぼっちになっちゃうし。

 トライオンは「だよね~」と笑う。

 うん、真面目に致命的だからね、そこ。自分の命をないがしろにしてまで、色ボケパートに突入している余裕はないのである。


「しかし……、久しくカムワロと会っていないような、そんな気がするなあ」


 過ごしている時間はトライオンと同じくらいなのだろうけれど、会話の密度が違うのだ。

 異世界の地上へ降り立って、街を抜けて山道に入って~という道中はカムワロと一緒だった。


「だけどその頃は、戸惑ってばかりだったからなぁ。雑談とかはあんまり出来てないんあよなあ」


 逆にトライオンとは、チュートリアル期間みたいなカムワロパートが終わっているからか、けっこう雑談もしている。重要な秘密もさらりと聞いちゃったし。


「そっかそっか~。それじゃあ、楽しく会話してあげて~」

「なんかお姉さんみたいなセリフだな」

「カムワロの方が三百年ほど年上だけどね~」

「年齢の数値もインフレすげーな」


 そこもカンスト・文字化けしたりするのだろうか。三百くらいなら表示できるか。

 そんな会話もそこそこに、トライオンは「それじゃ」と伸びをする。


「アタシは休憩()させてもらうとするよ~。まったね~♪」


 軽く手を振ると同時、小さくぽんっと可愛らしい音と煙が発生。その煙の中には、久しいようなシルエットが顔を覗かせていた。


「……ん、おおなんじゃ。わしに戻ったのか」

「ようカムワロ。久しぶり……ってわけでもないんだけど、ちょっとぶりだな」

「うむ。寂しかったぞ。会えて嬉しいわい」


 百九十センチを超える高さから俺を見下ろし、どこか愛おしそうに目を細める彼女。

 ……なんだ。やっぱ、ちょっと距離が近いな? おっぱいが近い。


「ぬ、しもうた。ニンゲンモードではなく、女神モードになっておる」

「そうだな。角も生えてるし、その、服もこう、布面積がアレだ」


 薄い。あと、肌の露出がすげえ。

 山間で見ていたときには、魔力込みとは言え遠目だったからあんまり気にならなかったが、この距離で改めてこの露出度を見ると、煩悩がとても刺激される。


「なんじゃ。トラの奴とは、何も無かったのか?」

「何もって何だよ」

「いや、一発●●●でもキめとらんのかなーと思うての」

「キめねえよ!」

「なるほど道理で。わしの身体を見て、未だに童貞くさく反応するわけじゃのう」

「いや、仮に童貞じゃなくなってたとしても、お前の色気は慣れねえから……」


 トライオンもそうだが、並大抵のプロポーションではないからな、お前ら。

 アンバランスな巨大な乳・尻。それでもバランスが取れている身体つきという、矛盾を孕んだこの色気(エロス)の前には、大抵の男は精神を乱されるだろう。


「何にせよ、人間モードになるんだよな? その過程で、なるべく露出の低いものに着替えてくれ」

「ふむ成程……。しかし女神(わし)のセンスじゃと、ぬしの要望通りにならんかもしれんぞ?」

「あぁ確かに……」


 これまでも大変なエロスを感じてきた女神センス。

 そもそも人間とは感性が違うから、そのあたりは仕方のないことなのかもしれなかった。


「けど、どうすればいいんだ?」

「そうじゃな。では、こうするか」


 言うとカムワロは、細い指先で俺の胸元にそっと触れた。すらりとした指先に突然触れられたものだから、俺の心臓は一瞬高鳴る。


「ぬしの思考――――この場合は嗜好かの? ともかく、その波長を読み取ることにする。ぬしの思い描く格好に、限りなく近しいものに着替えてやるわい」

「そんなこと出来るのか」

「うむ。では、思い浮かべるがよい」

「お、おう……」


 目を瞑り、イメージする。

 カムワロの格好で、大丈夫そうなもの……、大丈夫そうなもの……。

 頭の中で色んな服が出てくるものの、なんか全部俺の(現代での)服だ。……なんかこう、もっと女性のもの、女性のもの。

 ……だめだ。カムワロにチェンジする前にも、トライオンが露出高めな衣装だったため、なんか卑猥な服しか思い浮かばない。


「ちなみに思い浮かべたものにオートで作用するぞ」

「え?」


 疑問の声を出して目を開けるや否や、チェンジ時の音と煙が可愛らしく響き、カムワロの格好は変わった。


「ぶっ⁉」

「ほう……。なんじゃコレ?」


 それは、どこからどう見てもバニーガールだった。

 青空の下、高身長バニーガールが、目の前に顕現していた。


「不思議な格好じゃの~」


 黒いビスチェは肩がしっかりと出され、滑らかな腹部を通り、腰の部分には白い尻尾がついている。ハイレグ部分はえぐく、とんでもない締め付けだった。むっちりとした股下の主張がすごい。

 盛りに盛られ胸元はとんでもないボリュームになっており、胸元が縦に深い。しゅごい。

 カフス、蝶ネクタイ、黒ストッキング、そして極めつけのウサミミカチューシャ。すべてが高次元で絡み合い、とんでもない色香を醸し出している。


「なんじゃ、だいぶ露出が高いではないか。それに身体の線も出ておる」

「ちょ……! ちょっと待て……!」


 イメージしてしまっただけでアウトだったとは思わなかった。しかも、無意識下のエロスが働いてしまったのだ。俺の意志であって俺の意志ではない。


「なるほど、内なる自分との闘いということか。燃えるのう」

「そういうのでもない!」


 そんなあほらしい戦いがあってたまるか!


「なるほど、つまり間違いということか?」

「そ、そうだ……、ちょっとした手違いというか、違うところにイってしまったというか、入っちゃったというか……」

「お、えっちな話題か?」

「それも違う!」


 とにかく、やり直しをさせてもらおう。

 カムワロは再び俺の心臓に指を這わせる。……うん、そもそもこの行為の時点で、めちゃくちゃ煩悩まみれになる。


「お。今度こそ思い描いたか」

「あ、ちょっと待って!」


 体操着&ブルマ!


「お? 今度は健全じゃの?」

「いやそれも違くて……!」

「難しい年ごろじゃの。なら、連続で変えてやるから続けてイメージしろ」

「うぉぐぐぐぐ……!」


 レースクイーン!

 チャイナドレス!

 セーラー服!

 バニーガール(二回目!)


「うぐぉぉぉぉ……!」

「煩悩まみれではないか」


 どんだけエロスを感じているというのか。

 俺は弱い。あまりにも。

 おっぱいや股座、太腿や二の腕や肩口や首筋、健康的な褐色肌や、長くてサラサラのロングヘアに、全ての意識を持っていかれてしまう。


「全身じゃの」

「ソウダネ」


 整理してみるとめちゃくちゃヤバイやつだった。

 人が全然いない道で良かったと心から思う。

 と、とにかくこれ以上の煩悩はやばい。出来るだけ健全……、健全……。俺の中で、出来る限りの健全さを……!

 ぽんっと、もう何度目かになる衣装チェンジが行われる。

 今度こそ決めたい、ぞ……!

 おそるおそる目を開いてみると、そこには――――


「……う」

「……む?」


 そこには、とてつもなく清楚な格好をした、メイド姿のカムワロが居た。

 クラシカルなロングスカート。首も胸元も綺麗に覆われており、袖も長い。

 白と黒を基調とした上品な服装は、カムワロの白い肌に、とても似合っていた。

 動きやすさと清潔感を併せ持ったパンプスを珍しく一しきり見た後、彼女はにまりと笑った。


「うむ……。気に入った」

「……う、あ、いやその、」

「なんじゃ、まだ不満か?」

「いやその、ふ、不満は、無い……です」


 ……やばい。あまりにもこれまでと方向性が違い過ぎて、直視することが出来ない。

 これまでが破壊的なエロスだったのも相まって、布面積が爆増し、清楚に身を包んだときの、ギャップが激しすぎる。

 あまりにも――――綺麗だった。


「よい衣装じゃ。感謝するぞユウスケ」


 よしよしと頭を撫でられる。

 ……お屋敷のおぼっちゃまプレイかな?


「何より。女神をとっ捕まえて、従者の格好をさせるというのが気に入ったわい」

「い、いやそういう意味では……」

「フハハハハハ! よいよい! それくらい不敬でなければ、勇者など勤まらんわ!」


 豪快に笑い飛ばし、これまでと変わらず豪快に歩くカムワロ。そもそもの股下の長さが違うから、普通に歩かれるだけで追いつけなくなる。


「それではせっかくじゃ。今日はこの姿のまま、街に向うとするかのう」

「は⁉ 街に向かうのか⁉」

「そりゃそうじゃろ。このまま三日三晩ぶっ続けで戦ってもわしは別に構わんが、ぬしがついて来れんじゃろ?」


 見ると、先ほどまで青空だった空も、雲は流れて夕日の装いに変わっていた。


「色々あって疲れたじゃろうからの。ぬしも、フツーの布団で寝たほうが良いじゃろ」

「まぁ、確かにな?」


 けど、その格好で街に入るってことはよぉカムワロ。


「うむ。勿論わしは、女神じゃとは明かせん。じゃから、」


 カムワロはくるっと回りながら、ロングスカートの端と端をつまみ、優雅に俺に礼をした。


「今夜一晩は、主導権を握っておくれよ? ご主人様?」


 それは今日一番の、破壊力だった。




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