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キャッチボール

リュウとカズマは相部屋で過ごしていた。

部屋の中央にカーテンがあって、互いに用がないときはカーテンを引いて仕切りにしている。


カズマは物静かに見えて、新入りのリュウに対しては案外よく喋った。同世代の人間と話すことに飢えていたんだろう。給食のメニューや生活の流れ、本で読んだものの話が多かった。机には数冊の本や図鑑が置いてあって、話題をそこから得ているのだった。


「今日のごはんはおいしかった。そういえば、外にコンビニって店があるんだよね。食べ物とか雑誌とか売ってるところ」

リュウは服の入った引き出しを整理しながら、気のない答えを返す。

「知ってる。行ったことあるし」

「どうやって行ったの?電車とかバス?」


施設での過ごし方を教えてくれるのは助かったが、時々話が噛み合わない。施設で関わる人々と、本で読んだ内容が、カズマの世界の全てだった。

「妹と歩いていった」

家の引き出しから小銭を抜いて、夜中にユイの手を握ってコンビニに行った。レジの店員が警察に通報してしまい、交番で一晩過ごしたのちに親元に返された。あのときは何を買おうとしたんだったか。


ある朝。

医療スタッフの女性が2人の居室を訪ねてきた。茶色の髪を後ろでまとめており、穏やかな声で話す人だった。彼女ははじめましてと挨拶をして、丸山歩美と名乗った。


「羽根木君が来て1週間経つから、健康状態を確かめに来ました。ちょっと部屋に入るよ」

体温を測りながらいくつか質問をした。食欲はあるか、夜はよく眠れているか、頭やお腹などは痛くないか、と。リュウが大丈夫だと答えると、歩美は笑顔で「なにかあったら伝えてね」と答えた。


体育のプログラムが入っており、リュウは体操服を着て中庭に行った。体育といっても、中庭にいるのは同室の少年と、厳つい顔をした職員の笹倉だけだ。この人数ではサッカーも騎馬戦もできやしないが。羽根木が来てくれたからできることが増えたな、と笹倉は話していた。


準備体操の後、リュウとカズマは笹倉にボールを渡されてキャッチボールをした。ドッジボールに使うぐらいの大きさで、指がわずかに沈む。ボールが数往復した後、リュウはふと思い立って、ボールを相手の顔に向けて投げつけた。


うわ、と声をあげてカズマはボールの軌道から逃げる。

当たらなかった、と思っていると、笹倉が「おい羽根木」と声を発した。


「キャッチボールってのは相手の取りやすい球を投げるものだ」

すみません、と軽く頭を下げる。


その後は笹倉も加わって三角形でボールを投げ合ったり、カラーコーンを目印に駆けっこをしたりした。リュウはカズマを追い抜き、笹倉に「しっかりご飯を食べて眠ればもっと早く走れるようになる」と言われて気を良くした。それは船坂も同じだ、と笹倉は付け足した。


午後からは勉強時間で、渡されたプリントに取り組んだ。笹倉は少年たちを時折見ながら、ノートパソコンを開いてキーボードを叩いている。


文章を読んで登場人物の気持ちを答えさせる問題だった。縦書きの文字を目で追ううちに、どの行を読んでいるのか分からなくなる。鉛筆で無造作に線を引き、解答欄に自分でバツ印をつけてから、問題を解くことを諦めて隣のカズマに目をやった。


カズマは数学の参考書を広げ、定規や筆記用具を手元に並べていた。コンパスを片手にノートに図を書いており、一区切りついたところで笹倉にコンパスを返した。


「先が尖ってるから念のためな」

尖ったものや刃物を使うときは、居室に持ち込まず職員の目の前で使うのが規則だった。


スケジュールの合間に居室に戻ったとき、リュウはカズマの能力について話を振った。カズマは困ったような笑みを浮かべ、少し考える素振りをして、声のトーンを落とした。


「……能力のことをしゃべるのはあまりよくないんだけど、同じ部屋だからいいかな」

リュウの褐色の瞳と、カズマの視線が交わる。


「他の人より早く傷が治るんだ。仕組みを調べたら病気とか怪我で困ってる人の役に立つんだって先生に言われた」

「そうなんだ。じゃあそんなにビビることないのに」

「何が?」

「ボール」


カズマは見えない球を避けるように肩をすくめた。

「当たったら痛いよ」


「きみは?」

リュウは片腕を伸ばして、白い壁を指した。もう一方の手を胸のあたりに置く。

「こう。この辺がぎゅっってなってどーんってなる感じ」


一人で戦いごっこに興じているような擬音の説明に、カズマは不思議そうな様子だった。外側のものに干渉できるってのはなんとなく分かった、とカズマは答えた。

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