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新生活

面接室でのやり取りが終わり、リュウは背広の2人とともに部屋を出た。


面接室の前、タイル貼りの廊下に大柄な男が一人で立っていた。年はリュウの父親世代か。オリーブグリーンの無地のTシャツから、引き締まった腕が覗いていた。


男は会釈をして、背広の2人と「ありがとうございます」「いえ」などと簡潔な言葉を交わし、2人が去るのを見送った。去っていく背中に、リュウは心の中で悪態をついた。おまえらのことは嫌いだ。


男がふとリュウに向き直る。


「羽根木リュウ君、だったか」

名前を確認されて「はい」と答えると、男は腰をかがめてリュウの目をまっすぐ見た。射貫くような黒色の目をしていた。

「君を担当する笹倉だ。よろしく」


──デカイな、というのが第一印象だった。

確かにリュウとは体格に随分差があるが、何かあっても揺らがないような軸がある。殴られても簡単には倒れないだろう。


これから暮らす場所を見ておくようにと言われ、リュウは笹倉と一緒に施設内を見て回った。


施設は山の中にあり、かすかに鳥の声や車のエンジンの音が聴こえてくる。建物は4階まであるが、リュウの生活の範囲は1階と2階らしい。


1階には面接室と玄関、医務室があった。笹倉は医務室に立ち寄ろうとしたが、担当スタッフが不在で鍵がかかっていた。体調を崩したときに利用したり、能力のモニタリング前後に健康を確認したりする、と手短に説明を受ける。


2階には学習スペースがあった。引き戸にはガラスが嵌まっていて、廊下から中の様子が見えるようになっている。換気のためか扉は開いたままで、一人の少年が机に向かっていた。他の少年の姿を見るのは初めてだ。


壁際に本棚があり、正面には電源のついていないテレビがあった。反対側の壁に面して机が置かれ、パーティションで区切られたブースにパソコンが置かれている。移動式のホワイトボードが1台。


平日の日中はここで勉強する、と笹倉は説明した。

机に向かって勉強していた少年が、2人の姿に気付いて立ち上がろうとする。年はリュウと同じか少し上。


「先生。部屋に戻ったほうがいいですか」

笹倉は少年を制止して、急がなくていいと答えた。もうすぐ終わります、と少年は答えて勉強に戻る。施設に入っても勉強しなきゃいけないのか、とリュウは思った。


一通りの紹介が済んで、これから過ごす居室に案内された。スライド式の扉を開けると、整理された部屋が目に留まる。窓から日の光が入り、部屋の両側にベッドと机、服を入れる引き出しがあった。


先ほどの少年が左側のベッドに腰掛けて、図鑑を読んでいた。図鑑を置いてリュウに顔を向ける。表紙には「乗り物」とあった。


「ぼくは船坂カズマ。よろしくお願いします」

あまり大きくはない滑らかな声が、部屋に馴染んでいた。色白の肌や声の調子はこの施設の備品のようだ。


カズマは風呂に入ると言い出し、着替えは右のタンスの中、とカズマは示した。

「本当は今日はお風呂の日じゃないんだけど、新しい人が来るからお湯を張ったみたい。行こう」


リュウは無言のままでタンスを開け、施設で用意されたバスタオルと着替えを取り出す。他人の前で着替えたり風呂に入ったりするのは好きではない。


案の定、カズマは脱衣場でリュウの身体を目にして、どうしたのと訊ねた。身体のあちこちに傷跡があり、周りの目を引いて面倒な事態になることがあった。転んだだけ、と手短に返しておく。


火傷や裂傷の跡は「転んだ」では説明がつかないが、カズマもそれ以上は追及しなかった。


お風呂から上がって、居室で食事を摂った。この施設では1日に3回食事があるらしい。


白ごはんと鶏肉のソテー、青菜の和え物と味噌汁が出ていた。学校給食のようにしっかりした食事。器を空にしてから隣を見ると、カズマは青菜を箸でつまんで口に入れていた。まだ半分ほどしか食べていない。ちんたら食べてる場合か、と言いたくなる。


リュウの考えを悟ったように、カズマは「急がなくてもいいよ」と穏やかな笑みを浮かべた。


その日の消灯前、リュウは気になることを思い出してカズマに質問した。自分たちは超越者で、定期的に能力のモニタリングがあると聞いていた。具体的にどんなことをするのか。


「もにたりんぐ、ってどんなの」


「……ぼくやきみは他の人にはできないことができるから、自分に何ができるのかを周りの人に見てもらうってこと。まだ少し先だけど」

返答するカズマの声はかすかに震えていた。


「相当キツいから覚悟してて」

カズマは話を終わらせるように「おやすみ」と口にして、部屋の中央を仕切るカーテンを閉めて2人の間を遮ると、電灯のひもを引いて部屋を暗くした。いったい何をするのは気にはなったが、ベッドに入るとリュウはそのまま眠りに落ちた。

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