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閉鎖系

廃校舎の301教室。静寂の中で、3人の気配だけが際立っていた。

教卓を挟んで、カズマはサリーを「先生」と呼んだ。


「カズマくん久しぶり。だいぶ背が伸びたね。ここは施設じゃないんだから、サリーと呼んでくれる?」


リュウの能力が発現して施設に入ったのは10歳の頃だ。それ以前から施設で暮らしていたカズマは、職員としての彼女と接点があったらしい。妹を拉致して自分たちを呼び出した女は、施設の元職員だった。


「サリー先生」

「……まあいいか、それで」

「久しぶりです。どうして僕たちを呼んだんですか」

これからゆっくり話すよとサリーは答えて、2人に「座って」と勧めた。


カズマは会釈をして教卓の正面にある椅子に座り、隣のリュウに目線を向けて座るように促した。リュウは苛立ちを抑え込んで従う。


「あなたたちのことは資料を読んで一通り知ってる。能力のことも、今までの生活態度とか健康状態も。施設の情報管理は意外と甘くて、ちょっと工夫すれば元職員がアクセスできちゃうの」


そうですか、とカズマは当たり障りのない相槌を打つ。


「ユイちゃんを探すために脱走したんだよね。暑くて大変だったでしょ」

「そうですね。だいぶ痛い目に遭いました」

カズマが答えて、リュウは何も言わずに座っていた。返事なんかしない。


カズマとサリーのやり取りが続く。

笹倉はかつて、何かあったときは結論から話せと言っていた。話の最中で死んでしまったら誰も結論を報告できなくなるだろう、と。この台詞は笹倉自身が部隊にいた頃、上官から教わったことらしい。


サリーが結論を言わないので、リュウは話を遮って言いたいことを言った。


「ごちゃごちゃうるさい。ユイはどこ?」

サリーは黒板の左側の鉄扉を示して「ここ。用具庫の中」と答えた。


扉の向こうにユイがいる。

超越者として施設に入る前、部屋に閉じ込められたときの忌まわしい記憶が、焼け付くような体感を伴ってあふれ出した。


それ以前にも、パチンコ屋の駐車場で鍵のかかった車に2人で残されたことがあった。そのときは夏じゃなかったけど、乳飲み子だったユイはおむつをしていて、リュウの隣で泣いていた。リュウが車内でおむつを探して替えようとしたら、車のシートが汚れて、帰ってきた親に殴られた。


──何回も閉じ込めやがって。胸糞悪い。


連鎖する記憶を断ち切るように、リュウは席を立つ。椅子ががたりと音を立てた。

用具庫の鍵はどうせサリーが持ってるんだろう。鍵がかかってても関係はない。


用具庫に近寄って扉に手を伸ばしたとき、違和感に気づく。扉の前に見えない壁が重なっているようで、数センチ手前で指先が止まった。


手早く3つ数えて「ゼロ」で能力を発動。

手首から腕にかけてわずかな反動を受けて、見えない壁は全く揺らがずにそこにあった。リュウの指先が扉に触れることはない。モニタリングで何度か能力を使ってきたが、こんな状況は初めてだった。


サリーは止める様子もなく、一部始終を静かに眺めていた。分かりやすい例をありがとうと言うように、目の前の事象に説明を加える。


「私は空間の内と外を遮断できるの」

白のチョークを手に取って、黒板に四角を書いた。その内側に、黄色のチョークでもう一つの四角を書き込む。


「黄色い線を引くのが私の能力。教室は元から壁とか扉で区切られてるから、遮るときにはいい目安になる。教室からは出られないし、外からも干渉できない」


黄色い四角の内から外へ向かう矢印と、外から内への矢印を加えて、両方にバツ印をつける。チョークの先からぱらぱらと粉が落ちた。


「用具庫はこんな感じ」

外側の白い四角に隣接して、少し小さい四角を付け足した。


黒板の図によると、自分たちは教室の中、黄色い線の内側にいる。用具庫に入るには、黄色と白の線を越える必要があった。白い線は物理的な扉だけど、その前にサリーの見えない壁がある。


「内と外は完全に遮断されてるから、その腰につけてる器械も使えないはず」


用具庫の脇に立ったまま、リュウは発信機の画面を確かめる。時刻の欄には横棒が一本点滅し、電波はバツ印が表示されていた。録音機能は生きていても、リアルタイムで外部に送れないだろう。


「サリー先生は、超越者ですか」

カズマの問いに「あえて分類すればそうなるね」と彼女は答える。


「超越者ってのは、国や権力が人を管理して収容するためのただの名前なの。目立つかたちで能力を使わなければ、把握されずに生きていける。運悪く目をつけられた人が、超越者なんて大層な名前で呼ばれてるだけ」


サリーが持論を述べる中、リュウは用具庫から教卓に向かって距離を詰める。


「サリー」


名前を呼ぶ。妹を拉致した元凶は、チョークを片付けてリュウのほうを振り向いた。


リュウはそのまま右手を開いて、指先をサリーの胸に向ける。視線はまっすぐ相手を捉えていた。

彼の能力を知る者にとっては、正面から凶器を向けられるのに等しい行為。


次の瞬間。

サリーは口元で笑って、リュウの手を取って自分のほうへ引き寄せた。リュウの手の甲に、サリーの指が重なる。


手を緩く掴まれたまま、指先がサリーの頬から唇に触れる。サリーはリュウの人差し指の先を口に含んで囁く。


「私を殺したい?」


返す言葉が出ない。手が導かれるままに首筋を撫でて、服の上から相手の胸元で止まった。布を通した先に相手の心臓がある。


「私を殺したら、閉じた部屋を誰も解除できなくなって、みんなで飢え死にするかもしれない。永遠に開かない部屋。試してみる?」


サリーがゆっくり手を離すと、リュウは腕を下ろして、ふらふらと席に戻った。机に突っ伏すように両肘をつく。サリーの理屈が事実かは分からないが、動きを一時的に止めるには十分すぎた。


「大丈夫。ユイちゃんは生きてるし、用具庫に水と食べ物を入れてるよ。なんなら用を足すバケツもある」

しれっと酷いことを言って教卓に戻り、2人に話しかけた。


「革命を起こすのが私の望み。協力してくれたらユイちゃんを解放するよ」

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