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会敵02

校舎の階段は途中で折れ曲がって3階まで続く。

リュウは階段を一段ずつ上りながら、手を伸ばして指先で周りの気配を探った。銃を構えながら敵地に入った兵士のような動きだった。銃口を向けるか、手を広げて指先を向けるかの違いだ。


進みの遅さが苛立たしい。叫び声をあげながら駆け上がってやろうかと思ったが、我慢して少しずつ進む。脱走の件で、歩美と笹倉から「その衝動的なのをどうにかしなさい」と言われていた。


踊り場に着いて、曲がり角の壁際から顔を出して先を伺う。


黒いパーカーに黒いズボン。黒一色の人影が、階段の途中に留まっていた。壁に手をついて寄り掛かるようにして、足元に目線を落としている。


──うわ。またいた。


さっき馬乗りになって自分の首を絞めてきた奴が、行く先にうずくまって道を遮っている。相手はこちらに気づかないのか、気づいたうえで反応しないのか。関わらずに廊下を突っ切るべきだと知りつつ、足を進めていた。どうも違和感がある。


靴底で何かを踏む感触があった。

白い床に紛れるように、白いタブレットの錠剤が大量に散らばっていた。


最初に遭遇したときとはまた違う危なさを感じて、つばを飲み込んだ。自分の身の危険というよりは、山の中でカズマの足を吹っ飛ばしたときのような。その場を去ると酷いことになる、という警告信号。


「なあ」


リュウの呼びかけに相手が顔を上げると、フードで隠れていた目元が見えた。まだ若くて、16歳のリュウと同年代に見えた。カズマ以外の同年代の人間と関わることは珍しい。異性となるとなおさらだ。


「ひろわなきゃ……」

彼女の肌には血の気がなく、舌っ足らずな声をしていた。


リュウは階段に膝をついて、足で踏んだ跡がないものを選んで拾う。

少女はリュウの前に手を差し出し、自らも錠剤をかき集めて口に含んだ。床に落ちたものを食うな、とのんきに言える状況でもない。


ヤバい薬じゃないよな、とリュウは呟く。ヤバい薬だったら踏みつぶす。


「大丈夫、ラムネだから。動いたらすぐ食べることになってて、食べないと動けなくなる」

「甘いもの摂らないと倒れんのか。なんか大変そ」


答えながら指先の白い粉を舐め取ると、甘味と清涼感があった。


人間離れした速さで動いたらそういうことも起きるだろう、とリュウは雑に納得した。常識から外れる方向性は違っても、目の前の少女も超越者だろう。見えない力を撃ちだせる自分と、運動能力がぶっ飛んでる少女。出会い方が最悪なのもあって、仲間とよぶ気はしないが同類だった。


「羽根木リュウ、だよね。私はヒロ」

「ああ」

気のない返事をする。3階に行くのが優先で、自己紹介に興味はない。


「気絶させて背負って3階に連れてくるようにサリーから指示された」

「余計なことすんなよ。妹が拉致られてんだから背負われなくても行く」

「そう」


ヒロは立ち上がって「私も行く」と答えた。糖分が補給されてしっかりした足取りだった。


3階でカズマと合流した。カズマは先に着いていて、緊張した様子で廊下に立っていた。


リュウの横にいる黒パーカーの少女に目を向けて、何か問いたげな顔をする。説明が面倒になり、リュウは手短に「道案内」と答えた。


3人は教室の扉の前に立っていた。人の気配がする教室がひとつだけあって、前方の扉の上に「301」と標示があった。


カズマは一歩前に出て、前方の引き戸をノックする。

女性の声で「はい」と返事があった。リュウは手を広げた後、拳を握って戸の向こうを見やった。


扉はゆっくりと内側から開いて、サリーが姿を現した。ヒロに「外で見張ってて」と指示をして、リュウとカズマを教室内に招き入れる。


ヒロが一人で廊下に残り、2人の少年が教室に入ると、サリーは前方の引き戸を閉めて内側からストッパーをかけた。


鍵をかける音が鳴ったとき、空気の質が変わったような気がした。温度も明るさも変わらないのに、これで引き返せなくなったと感じる。


リュウは301教室を見渡す。

黒板の正面に教卓があって、教卓の脇に小銃が立てかけてあった。教卓に向かって数台の机と、同じ数の椅子。


地上には軍の関係者が集まっていて、橙色の救助用マットが空気で膨らんでいた。危ないときは窓から飛び降りろと言われている。


前の左側には鉄の扉があって、倉庫のような小部屋に続いていた。中の様子は分からない。


サリーと名乗る女は教卓の前に立ち、後ろでまとめた黒髪を手で整えた。窓の外や引き戸、前方の鉄扉の戸締りを確認するように視線を動かし、一通り見回してから「これでゆっくり話せるね」と笑う。


カズマはぼんやりと「佐藤先生」と呟いた。

誰だよと怪しむリュウに、カズマは答えた。


「佐藤理香。リュウが入る前に施設にいた職員だよ」


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