その6
お話の続きです。どうぞ宜しくお願い致します。
ちょっと前まで、自宅の風呂場で乳首からちょろっと出た毛を切ったり、脇からはみ出た毛をカットしたり、へそを綺麗に洗ったりした緊張感から解放された様で、プロ中のプロに散髪をお願いすると、安心して少しうとうとしてしまった。
いつもなら、最初に洗面台で髪を洗ってもらうところから始まるのだけれど、今回は僕の髪が洗い立てなので、おじさんはすぐさまカットに入ってくれた。
「住田君、住田君。」
ちょんちょんとおじさんに軽く肩をつつかれ、目を覚ました僕は、目の前の大きな鏡の中の自分の髪型が、あまりにもカッコよくなっていたので、正直びっくりしてしまった。
「えっ!わっ!すげえ!かっけえ!」
思わず声が出ちゃった。
だって、モデルさんみたいなカッコいい髪になってるんだもの。
おじさんから、「ナチュラルなツーブロックにしておいたよ!」と言われ、「はあ」と返事はしたものの、僕にはどこがナチュラルで、どこら辺がツーブロックなのか、わからなかった。
わかるのは、「おしゃれ!」で、「カッコよくなった!」ってことだけ。
鬱陶しかった、もみあげもうなじも、綺麗に剃ってある。
嬉しい!
嬉しすぎる。
感動している僕に、おじさんが優しく、「じゃあ、次は顔剃りするから。あ、眉毛もだったよね。うん、うん、任せて!おじさん、こう見えてもプロだから。」と続けた。
知ってます!知ってますとも!
おじさんはプロ中のプロの大先生だよ!
さすがだ!
ちゃんと今どき風の髪型も、やってくれるなんて。
素敵!おじさん、トレビア〜ンだよ!
椅子を倒されると、早速、顔剃り。
まずは程よく暖かい蒸しタオルを、顔全体に乗っけてもらう。
あ〜、あったかくて、気持ちいい〜!
それが終わると、今度はきめ細かく泡立てられた、真っ白いフワフワが顔に乗っけられ、それがまた妙に気持ちよかった。
おじさんは慣れた手つきで、サッ、パッとどんどん剃ってくれる。
それがまた、なんとも言えない気持ち良さ。
ほっぺたやおでこ、顎の下も、綺麗に剃ってもらう。
あ〜、至福の時って、こんな時なんだろうなあって感じる。
「はい、終わったよ!お疲れ様〜!」
僕は鏡で自分の顔をまじまじと見つめた。
眉毛が綺麗に整っている。
へえ、眉毛ひとつで、こんなに顔の印象って変わるもんなんだね。
「どう?こんな感じだけど。」とおじさん。
「おじさん、すげえありがとうございました〜!なんか、本当…なんか、本当に…。」
感動しすぎて、僕は言葉に詰まった。
けれども、どうしても感謝を伝えたくて。
「おじさん、閉店間際に急に来ちゃったのに、こんなにいくして下さって、本当に、ありがとうございまして…。」
あ、ございまして?って、言っちゃったよ…ございまして…なんなんだよ?
僕は脳内で、自分自身にツッコミを入れた。
「あ、ありがとうございましたあ〜!」
そう言うと、深々と頭を下げた。
「いやあ、気に入ってくれて、こっちも嬉しいよ!で、明日は何時に出るの?」
「あ、え〜と、8時に駅に集合です!」
「そうかい、じゃあ、テルも一緒だけど、みんな、気をつけて行ってくんだよ!そんで、いっぱい楽しんでおいで!」
おじさんは優しい。
いつでも、すんごく優しくて、僕らのことをちゃんと想ってくれてる。
カッコいい髪にしてもらった僕は、ニヤニヤしながら自転車を漕いで家路に着いた。
最後まで読んでいただき、本当に本当にありがとうございました。お話はまだまだ続きますので、引き続き読んで頂けたら、とっても嬉しいです。どうぞ宜しくお願い致します。