その5
お話の続きです。どうぞ宜しくお願い致します。
外へ出ると、もう辺りはすっかり暗くなっていた。
そら、そうだ。
だって、もうすぐ8時だものね。
テルん家の「トレビア〜ン」だって、そろそろ閉まっちゃう時間だ。
でも、まだ、間に合う!
そう信じてテルの家へ。
自転車で到着すると、おじさんが外のサインポールのコンセントを、丁度抜いているところだった。
「あれえ?住田君、今頃、どうした?ああ、そっか、テルな、テルなら今は、風呂に入っ…」
笑顔のおじさんの言葉を遮り、僕は「おじさん!今すぐ髪切ってください!ごめんなさい!こんな時間に!」と告げた。
笑顔だったおじさんは、一瞬ポカンとした顔を見せたが、次の瞬間には再び優しい笑顔で、「わかったよ!さっ!入んなさい。」と、店のドアを開けてくれた。
おじさんに言われた椅子に腰掛けると、すぐさま、首にタオルを巻き、その上に大きなケープをかけてくれた。
一呼吸おいた後、おじさんが「で、どうする?」と聞いてきた。
僕はただ髪の毛が鬱陶しいと思っただけで、どんな風に切るかまでは、まるで考えていなかった。
「おんなじのにするかい?それとも…。」
おじさんには、小さい頃からずっと切ってもらっている。
けれども、おじさんはプロだ。
ちゃんと、「お客」である僕に、髪型をどうしたいか聞いてくれた。
そういうところが、「トレビア〜ン」だと思う。
常連中の常連だったら、何も言わなくても同じのにするのが当たり前なのかもしれないけれど、おじさんはテルと同い年の僕が、「お年頃」なのをちゃんとわかっていて、もしかしたら「新しい髪型に挑戦したい」と言い出すかもしれないとふんで、聞いてくれているんだとわかる。
さすが、若い時、ニューヨークやパリで修行をした経験がある人だ。
…って、思ったところで、僕みたいな若僧が「何言ってんだか」なんだけどさ。
僕は思い切って、おじさんに相談してみた。
明日、テルも含めたクラスの仲間15人ほどで、海水浴に行くこと。
当然、おじさんはそれを知っていた。
けれども、僕は話を続けた。
それにあたって、髪型と、眉毛をどうにかしてもらいたいと。
「ふんふん、なるほどね〜。」
おじさんは、思春期の僕の願いを深く聞かずとも、理解してくれた様だった。
「じゃあ…住田君…いつもと同じ坊っちゃん刈りじゃなくて…おじさんに任せてもらえるかい?大丈夫!大丈夫!ちゃんとカッコよくしてあげるからさ。後、じゃあ、眉毛もおじさんがやっちゃっても、いいかい?な〜に、ちゃんとカッコよくキメるから、安心して!安心して!」
「はい、お願いします。」
そうだ、大丈夫に決まってる。
だって、テルのお父さんだもん。
テルはいつもおしゃれだもん。
絶対、絶対、大丈夫!
僕の髪質とか、クセとか全部わかってるおじさんだもの。
安心すると、僕はそのまま目を閉じた。
最後まで読んでいただき、本当に本当にありがとうございました。お話はまだまだ続きますので、引き続きどうぞ宜しくお願い致します。