聖女モニカの罪と幼い頃の夢
何を書きたいのかまとまらなかったです(◞︎‸◟︎ㆀ)ショボン
2022.12.03ヒューマンドラマ部門6位!
「罪を犯した女を聖女として認められない。また、リュシー・ステラリウス侯爵令嬢に冤罪をかけた罪でモニカ・ベルタを処刑とする」
質素な服に身を包み化粧をしていない少女は俯いている。ブツブツと何かを呟いているが、その声は誰にも届かない。
多くの貴族家当主が見守る中、貴族会により判決が下され国王の承認の元に罰が決定した。
かつての婚約者として望んだ男であるエーリヒ・フェルスター公爵令息からの視線は冷たい。
モニカよりも高い位置にいるエーリヒからの憎悪を感じ取れる。
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男爵家の令嬢であるモニカ・ベルタは魔力の属性が光であることから聖女として認定され人生を大きく変えることとなる。
「ふふっ、人生ってわっかんないわよねー。今じゃ私が、この国唯一の聖女!男爵令嬢だと馬鹿にしてきた女達を見返してやるんだから!」
聖女と認定されたことで貴族会が提示した相手から婚約者を選ぶことが出来るようになった。
残念なことに、現王太子は既婚者で既に子供が二人いる。側室制度もないので未来の王妃の座は手に入らない。
もしかしたら望めば離縁させることが出来るかもしれない。
相手は所詮、元侯爵令嬢だ。
王太子妃で三人目を孕っていても、聖女が望めば離縁させることも可能だ。が、聖女と認定されてすぐに身重の女を蹴落としては外聞が悪い。仕方がないので諦めることにしよう。
そこで目をつけたのが公爵令息だ。
騎士団長を務めている公爵令息は、見た目が良く令嬢達から人気がある。
侯爵令嬢の婚約者はいるが未婚なら望みはあるだろう。
聖女として純粋な乙女を演じているモニカにとって我儘から婚約者のいる男を指名するのは、その後の社交界での立場を失う恐れがある。
婚約者にと指名した男の心に元婚約者が居座り続けるのも癪に障る。
出来るなら身も心も自分ののものにしたい。心酔させたい、溺愛されたい、全て思い通りにしたい。
そのために必要なのは生贄だ。
婚約者の座、次期公爵夫人になるに相応しい舞台と脚本、そしてちょうど良い生贄と全てが揃っている。
「おーはっはっは、いやだわ、あの女の醜く歪んだ顔を想像するだけで面白いわ」
モニカが描いた通りなら、全てうまく行く。
金に名誉、地位や男、全てがモニカの思うままだ。
王妃になれなくても王家の血を継ぐ公爵家ならお茶会や夜会でも持ち上げられチヤホヤされる。聖女としての勤めが大変だからこそ見返りは必要だ。
婚約者を引き摺り落とし自分がその座につくことができると思っていたのに婚約者候補として用意されたのは教会関係者の次男や三男ばかり。
これでは夢に描いたような暮らしは望めない。教会関係者では贅沢三昧の生活とは無縁だ。貴族のくせに質素な生活が身についている男に魅力を感じない。
やはり自分でどうにかするしかないのだと考えたモニカは手始めに下位貴族の令息から籠絡し練習を重ねた。
可愛らしく見える表情や角度、ボディタッチの度合いなどを徹底的に練習した。
その甲斐あって下位貴族の令息の友人である伯爵令息へと取り入ることができたのだ。
モニカの行動が大胆になってきた頃に伯爵令息のパートナーとして夜会に参加した。
用意されたドレスや宝石に感動し喜んでいた。煌びやかな会場に入り辺りを見渡すと普段とは違う装いの令嬢令息がおり、モニカは興奮しっぱなしだ。
教会では毎朝毎晩、祈りを捧げ続け贅沢は禁忌とされていた。それでも、聖女であることを理由にモニカはオシャレを楽しんでいた。そのオシャレとは比べ物にならないほど煌びやかな衣装や会場を知り、モニカはその全てを自分のものにするのだと決意を新たにする。
「ねぇねぇ、ダニエルぅ〜また、夜会に連れてきてくれるわよね?」
「あぁ、もちろんだとも!聖女様をエスコートできるなんて光栄だ。また必ず」
「やったぁ!次はいつ?早くしてね!もちろんドレスに宝石も新調したいわ!」
伯爵家次男のダニエルは今一番のお気に入りだ。侯爵家や公爵家の令息との縁がなく、伯爵家の次男がモニカの知り合いの男で一番身分が高く羽ぶりが良い。
いつもかかさず貢いでくれる男。
もっと!もっと上へ行きたい!!
もっと!!!!
あの人を必ず手に入れてみせる。
長い銀色の髪に滅多に笑顔を見せない公爵家の令息は令嬢達に人気がある。
夜会では婚約者であるモニカに寄り添い、彼女に向ける表情が柔らかい。
その柔らかい愛しむような表情を自分に向けて欲しいと思う令嬢が多いのだ。
誰もが羨む男を自分のものにするのだ。
周りから羨ましがられるなんて最高じゃないか。
早く自分のものにしたい。
そう思うといてもたってもいられない。
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『王太子妃の三人目のお子は男の子です』
神のお告げとしてモニカが告げた言葉は事実となった。
その言葉からひと月後に王太子妃が生んだ子供が男児であった。
教会関係者にのみ告げられた言葉が事実となり、その噂が関係者の貴族家から他の貴族達へと広まった。
「まじで?男の子だったの?」
「えぇ、今のあなたは予言の聖女と言われていますよ」
「あんなの腹見たらわかるじゃない。チラッとしか見えなかったけど、前に突き出てんだもん。市井じゃ当たり前の占いみたいなもんよ?」
「王太子妃を見かけたことは、皆さんは知りませんから」
「ふーん、都合いいわねー、あんなことで盛り上がれるなんて!で、神のお告げって何?」
モニカの目の前にいる男がモニカの言葉を「神のお告げである」と伝えていたのだ。
「ま、どーでもいいけどねー。お金になるかな?」
「なりますとも。事実にすれば」
ニヤリと笑う男に胡散臭さを感じはしたがお金になると知ったモニカは言われるがまま『神のお告げ』を民衆や貴族達に伝えた。
その言葉は何故か事実になったのだ。
それが何度か続き持て囃されるとモニカも気分がよくなる。
数ヶ月が続いた頃にモニカはとある予言を口にする。『神のお告げ』であれば、モニカは何を言っても許されるような存在になっていたのだ。
『ある夜会で尊いものが怪我をする』
告げられた言葉はにわかには信じ難い。
どの夜会になるのか、尊いものが誰なのか、誰にもわからない。
王族のことであれば、予言を外すことでモニカが罪に問われる可能性がある。
神のお告げの後に開かれる夜会では敬語の人数が増え、警備が厳重になった。
それでも事態は起きてしまった。
「王女様が怪我をなされた」
「誰かに突き落とされたようだ」
「聖女モニカ、予言の聖女様の予言が当たったのだ」
王城で開催された季節の夜会は成人した貴族のみが参加する。王女は成人していないが王城の誰もが通れる場所で何者かに階段から突き落とされたのだ。
護衛もいたはずだが、何故かその現場にはいなかった。
偶然が重なって事故となったのだろうと考えられたが、教会関係者は予言の聖女の神のお告げなのだと言い、貴族達に説明をしたのだ。
「聖女モニカ、そなたは神の言葉がわかるのか」
王女が怪我をしてから数日後、モニカは宰相に問われていた。
もはや自分は神のお告げを知り得る立場であると信じてやまないモニカは凛とした態度で当たり前のように言葉を発する。
「えぇ、神の言葉がすうっと身体に沁み入るのです。なんとも言い難い、心が洗われるような感覚になりますわ」
「そうか。して、王女を怪我させた犯人については何かお告げはあったのか?」
きたきたきた!!!
もちろん、知っているわ。私が知らないわけないものね。
嬉しくなります満面の笑みになるモニカに宰相は違和感を覚える。
「リュシー・ステラリウスという方ですわ。すうっと、その名が私の身体に神の言葉として降り注がれました」
胸の前で祈るように手を組み上目遣いになるモニカと、隣につきそう『神のお告げを最初に聞いた男』。
「なんと!あのステラリウス侯爵令嬢が犯人か!!」
「だが犯行の理由はないだろう?」
「王太子に恋心を抱いていたのではないか?」
「婚約者が王女様と一緒にいるところを見て嫉妬したのでは?」
「ステラリウス侯爵家の王家への反逆だ!」
集まっていた貴族達はステラリウス侯爵家とリュシーを非難する。
もっと!もっと!もっと、あの女を貶せばいいわ!!!あの女さえいなければ!
あの時エーリヒ様は私に微笑んでくれたのだもの。
何度、夜会に参加してもエーリヒとは親密になれなかった。出会う言葉で似ても、言葉を交わせても、隣にいる女が目障りだった。
「みなさま、お辞めになって?良かったではありませんか。神の言葉で犯人が判ったのですから」
にこり、と、聖女の微笑みでモニカはリュシーを突き落とす。
それからすぐにリュシー・ステラリウス侯爵令嬢は罪に問われ貴族牢へと収監された。
辺境へと赴いていたエーリヒはすぐに助けることができず、戻ってきた頃には罪が確定していたのだ。
「あーはっはっは!いい気味っ!エーリヒ様を手放さないから神に見捨てられたのよ!夜会でも私を馬鹿にしたような目つきで見ていたからバチがあたったのね!」
「大きな声でみっともないですよ」
「あんたしかいないんだからいいじゃない」
ごくごくとワインを飲むモニカは機嫌が良い。
「あ〜、面白い。さっきもね、神のお告げを教えてあげたのよ!」
「私は聞いていませんが?」
「あんた忙しいんだもん。司教が煩いからね、言葉をくれてやったわ」
「なんと?」
「かわいそうなエーリヒ様には聖女モニカがお似合いだと」
「へぇ」
「明日にはあの人は私のものよ!!!」
ゴンッと音がしたあと、モニカの視界が暗転した。
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ん?ここはどこ?
わたし、なんで??
薄暗い、寒い場所で目が覚める。
確かワインを飲んでいた、あの男と。
視界が明るくなり辺りを見渡すと、檻の中にいた。
「なっ、、、なによここ!!」
「あぁ、お目覚めでしたか」
目の前で笑う男は聞き覚えのある声なのに見慣れない姿をしている。
「ここは?」
「罪人を収監する場所ですよ。あ、安心してください。教会関係者のほとんどを収容しています」
「は?」
「ステラリウス侯爵令嬢への冤罪、教会費用の横領、他にも罪は沢山ありそうですね。あぁ、そういえば、既婚男性との関係は娼婦として処理されています」
「はぁ??何言ってんの?聖女の私が娼婦?それより罪って何よ!あの女のことは神のお告げよ!」
馬鹿馬鹿しい。
神からのお告げが罪になるわけないじゃない。そんなことより聖女である私をこんな場所に入れておく方が罪だわ!
モニカは自分の成したこと、自分の犯した罪の重さには気づかない。
当然のように享受していたもの、それら全ては作られたものであると、説明されても理解しないのだ。
『神のお告げ』など最初からなかった。
そもそもモニカが光属性であることから偽りだったのだ。
王太子妃が見破っており、エーリヒに伝えていた。
モニカはエーリヒに接触して関係を求めるようなことを伝えても『私とあなたでは釣り合わない』とやんわりと断られていたのだ。
モニカはいいように捉えていたが、エーリヒは『偽りのお前と私では立場が違うのだ』と暗に伝えていたのだがモニカには伝わらなかった。
モニカが聖女として認定された頃から高位貴族達は疑念を抱いていた。
すでに光属性であると確認されていた王太子妃とリュシーがいるのに、モニカを清女として認定した教会には何か裏があるのではと。
隣国との繋がりが見え隠れする教会関係者達が絶対的な存在として聖女を祭り上げ、権威を得ようとしているのではないかと。
そこで祭り上げられたのがモニカだ。
大人しくしていれば良かったのだが、『神のお告げ』を始めたころから手がつけられなくなった。
何故始めたのか理由はわからない。
だから...
モニカのそばに男を置いて監視した。
教会派に属した貴族家ではあるが王太子に近い存在の男を。
「罪を犯した女を聖女として認められない。また、リュシー・ステラリウス侯爵令嬢に冤罪をかけた罪でモニカ・ベルタを処刑とする」
私は悪くない、そう、何度も呟く女。
『神のお告げ』では自分の産む子が次の神になるのだ。と、理解できないことを呟き続けている。
「ベルタ嬢と言ったな」
求め続けた男に名を呼ばれる。
見上げると、そこには求め続けた男の美しい容。
「エーリヒ?私のことを助けてくれるのね!そうね、私との間に子を作れば神になれるわ!全て私たちのものよ!!」
「私とあなたとでは立場が違いすぎる、そう、伝えていただろう。お前のような醜い女と私では合わない。醜い心を持ちリュシーに罪を着せようとしたのだ、死を持って償え」
「へ?リュシー?だれそれ?」
あの女とよんでいたせいなのだろう。
冤罪を着せた相手の名前を忘れていた。
連れていかれながらもエーリヒに微笑みかけて何とかものにしようとするモニカの姿は周りからすると恐ろしい。
ギコーーン
大きな音を立てて下された刃により、一人の女が命を絶った。
聖女として祭り上げられた女は、ある意味では被害者だ。
それでも、与えられるものを疑いもせず享受した罪は大きい。
欲しいものを手に入れるために手段を選ばず私欲に走った結末だ。
聖女モニカの処刑により教会の権威は地に落ち、その後、聖女を名乗るものはいなくなった。
「あのね、モニカは大きくなったら、みーんなのために国をまわるの!困ってる人を助けるのよ」
「いい子だね、そうあるように模範となろう」
「んとね、大きくなって国をまわってみんなを笑顔にするんだよ!」
幼い頃、小さな村で出会った男に無垢な笑顔を見せた少女はもういない。
お読みいただきありがとうございます。
連載にしてじっくり書いたらまとめられたのかな。
慌てすぎました。
当初の予定と違う内容で書いてた私がびっくりです!
11月30日に発売される『悪役令嬢が婚約破棄されたので、いまから俺が幸せにします。 アンソロジーコミック』に「記憶を失くした悪役令嬢」が掲載されています。
憧れのアンソロジー!コミカライズです!
ぜひ、お手に取っていただけると嬉しいです。
「記憶を失くした悪役令嬢」
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