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クラスメイトに餌付けする女の子の話

作者: おかゆのおにぎり

白坂健人は可愛い。

そのことに気付いたのは、夏休み明けのこと。


* * *


夏休みが終わり、新学期が始まって約一週間。私、西蓮寺未菜は、この日、ある目的を実行するために白坂君の動向を伺っていた。


朝。教室に一番乗りで到着した私は、読書をするフリをしながら、後方に全神経を集中させた。

白坂君が来るのを待っているのだ。この一週間で彼の生活リズムは大体把握済みなので、いつも遅刻ギリギリに登校してくる彼も今日は余裕を持って登校してくるだろうと予想していた。


案の定、朝課外が始まる10分前にはやってきた。友達に話しかけながら、彼の荷物を観察する。よし、今日は多分お弁当持ってきてないっぽい。粘り強く待った甲斐があった。


それから、いつものように白坂君は机に突っ伏して寝息を立て始めた。授業中もお構いなしに眠っている。ううむ、相変わらず見事な爆睡っぷりだ。しかも、毎日絶対に起きないんだもんなー。

普段どんな生活してるんだろう。ちょっと不思議に思った。


昼休みになった。白坂君は眠ったままだ。

少しつついてみるも、反応は無い。先にお昼ごはんを食べることにした。

()()()()お弁当の内一つを机の上に置き、寝ている彼の様子を見ながら口に運ぶ。

うん、美味しい。夏休みの間に練習したお陰だ。これなら満足してもらえるはずだ、などと考えながら手早く昼食を済ませた。まだ起きないので、流石に焦れて自分から起こしに行くことにした。ま、いいか。


「白坂くん、白坂くん、起きて」


そう言って体を揺すってあげると、白坂君は眠そうな表情で顔を上げた。てっきり寝たふりをされると思っていたので、少し意外だった。


上げられた顔を見て、格好良いと思った。

もともと整っている顔が、眠たげな表情をされると目つきが若干悪くなってキュンとしちゃう。そんな感じで一人悶ていると、不思議そうな顔をされた。我に返り、今は見とれている場合じゃないと気づいた。ここからが本番だ。


「あの、今日朝、お弁当、作り過ぎちゃって。良かったら食べてくれない?」


と、用意していた台詞を言う。

そう、これが私のしたいことだ。


『白坂健人にお昼ごはんを食べさせる』


そのために私は夏休みを丸々使って料理の練習をしたのだ。

そもそも、何故こんなことをしようと思ったのか。


それは、一学期に偶然白坂君の顔を見る機会があって、そのときに凄い美形だということに気づいたからだ。いつも机に突っ伏して寝ているので顔を見たことが無かったのだが、そのときに確信した。

こいつ、皆に顔を堂々と見せたらモテるやろ、と。

いつも一番後ろの席だったから遅く来てもみんな見えていないけど、一度認知されたら一気に人気出るぞ、と。

それと同時に、この人を喜ばせてみたいと思った。この人が笑顔を作ったら、きっともっと素敵になるに違いないとも思った。そして、その顔を皆に知ってほしくなった。

どうすれば笑顔にできるかなと思い、3日かんほど観察していると、あることに気づいた。


この人、いつもコンビニの弁当を食べてる。しかも、すっごく味気なさそうな顔で。

ああー、そんなに無表情だとせっかくのイケメンが台無しだよ、とか思ってしまうほどに。

そこで閃いた。そうだ、手料理を作ってあげよう!と。

幸いもうすぐ夏休みだし、時間はたっぷりとある。私はネットや料理本を漁って、料理の勉強をした。こんな美少女に尽くされている(予定)ことに感謝するんだな!


そんなこんなで、今に至る。

現在彼は、私の差し出したおかずを食べている。


しれっと「あーん」してあげると、寝ぼけているのか、躊躇なく咥えてくれた。小動物みたいで、めっちゃ可愛かった。


まわりの皆も、私が「あーん」してあげたことと、思いがけない白坂君の可愛さに二重に驚いている。


よしよし、上手く行ったぞ。ちょっと本来の目的とは外れたけど、大方思い通りに行っている。


このまま、全部「あーん」で食べさせてあげよう。


そう思っていると、咀嚼を終えた白坂君が凄く驚いた様子で


「うっま!」


と言ってきた。

あまりの可愛さに目眩がした。だって、めっちゃ目を見開いてキラキラさせてるんだよ?そんなの、庇護欲掻き立てまくりだよ。やばい、男だけど彼女にしたい。ほら、周りの女子たちも目をハートにしちゃってるよ。


うんうん、わかるわかる。今まで変なやつとしか思ってこなかったのに、こんなに魅力的な一面を見せられたら、ギャップ萌えどころの話じゃないよね。


私がそんなことを考えていると、長く沈黙していたからだろうか。不思議そうな顔でこちらを覗き込んできた。

うん、尊い。もうこれ、人間国宝で良いんじゃなかろうか。

なんでもないよと言って、更に口におかずを運んであげる。


ハムチーズ、ブロッコリー、プチトマト、ハンバーグ。


次々と食材が吸い込まれていく様は、親鳥のような気分にさせてくる。


全部食べ終わって、ごちそうさまと言って彼はまた眠りについた。


すると、そのタイミングを見計らっていたかのように、


「未菜ちゃん、ちょっと」


と、クラスメイトの子が手招きをしてきた。


「どうしたの?天音さん」


要件は大体予想できたが、敢えてとぼけてみる。


「どうしたじゃないよ。未菜ちゃんは知ってたの?その・・・、白坂君があんなに格好良いの」


おおっと、これはもしや・・・


「何々?好きになっちゃった?」


面白くなってきて、茶化してそう言ってみる。


「っ、・・・・・・」


あらら、赤面しちゃった。天音さん、見た目はギャルなのに、純情なんだよなー。


「ふふ、ごめんごめん。冗談だよ」


「も、もう、からかわないでよ〜」


笑ってそう言ってくるが、声が震えてる。目も泳いでるし、これは本気だな。そして、こっちはこっちで可愛いな。

案外お似合いかも。

すると、私達の会話を聞きつけた他の女子たちも集まってきた。


「あっ、ずるい!私も狙ってたのにー!」


「わたしもー」


おおう、いきなり白坂君モテモテだな。ウチのクラス、女子のレベル高いからなー。白坂君、誰に告白されてもオッケーしちゃいそうだなー。


うーん、それなら・・・


「なら、こうしない?白坂君を料理で一番喜ばせられた人が勝ちで、告白する権利を貰えるようにする、とか」


そう提案すると、


「いいじゃん!やろうよ!」


と、皆さんやる気満々でした。



結局、一日ごとに交代でお弁当を持ってくる、ということになった。白坂君、ガンバ!


* * *


以上が、事の顛末である。そして今は女子の中でも一番やる気のあった天音さんがお弁当を食べさせている。

白坂君も、不満そうな表情をしながらも、満更でもないご様子。

これは、決着がつく日も近いかな?


まあ、私も負ける気は無いんだけどね。

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