付与術師、新たな目標を掲げる。
俺は油断せずに、倒れ込む九尾狐に折れた剣先を向ける。
「まだ、戦うか?」
「無理に決まっておろう……もう、ヘトヘトじゃ」
本当に疲れているのか、彼女は動こうとしない。
「…じゃが、久々に楽しめたぞ」
九尾狐は負けたにも関わらず、その表情はとても穏やかなものだった。
その瞬間、俺の身体が鉛のように重く感じ、激痛が走った。
「ッ!?」
俺は膝から崩れる。此れは休まないと当分しばらくは動けそうに無いな。だが、その前に……。
「お前に聞きたい事がある」
俺は痛みが落ち着いて来ると、九尾狐に尋ねる。
「なんじゃ?」
「何故、神族であるお前が此処に?」
神族とは《自然の守護者》とも呼ばれており、通常生まれた場所からは離れない筈なのだ。
「なんじゃ、そんな事か」
「そんな事って……俺からしたら結構重要な事なんだけど」
「確かに妾は主ら人間が言う神族じゃ。がしかし、妾は退屈な事が嫌いなのじゃよ。故に妾はそこら辺を放浪としておるのじゃ」
「そして、退屈凌ぎに見つけたのが此処と?」
「そうじゃ」
「じ、じゃあ此処にいた魔物は?」
「あぁ。此処にいた魔物なら倒したぞ。 確かデュラハンじゃったかな?」
デュラハン……。S級認定されている魔物の中でも上位種の魔物じゃないか!? 其れを倒したなんて……。もう此奴が迷宮の攻略者で良いんじゃないのか?
「次は妾の質問に答えよ」
「…なんだ?」
「何故、一人でこの迷宮を? お主程の実力者、ましてや支援職であるお主なら、仲間の一人や二人いないのは不自然じゃ」
まぁ、不思議に思われても仕方がない。別に隠す必要も無いしな。
「……実は」
俺は彼女にパーティーを追放され、殺されかけた事など、これまでの事を全て包み隠さずに話した。
「愚かじゃな……そのパーティーとやらは」
「え?」
「お主の元パーティーはお主の力も見抜けず追放したのじゃろ? そんな奴ら、愚かとしか言いようが無い」
そう不機嫌そうに言う彼女に俺は素直に驚いた。まさか、会って間もないのにここまで俺の為に怒ってくれるなんて。
「ジンよ。周りがお主を認めないのなら、妾がお主を認めよう。其方は強い。この妾をも倒したのが証拠じゃ」
彼女の言葉が俺の心の奥に深く響いた。こんな事言われたの彼女以外では初めてだ。不意に、俺の頬に温かいものが垂れる。
「………何だ、これ?」
「其れは、お主が溜め込んでいたものじゃ」
「ハハッ……」
俺、自分で思ってたよりショックを受けてたんだな。だけど、楽になった気がする。
「で、此れからお主はどうするのじゃ?」
「……そう、だな」
言われてみればそうだな。ソロでやるにしたって、此れと行った目標がないとな……。
その時、頭の中でひらめいた。
「残りの大迷宮でも攻略するか……」
「残りの大迷宮とな?」
「あぁ。どうせ、やりたい事無いしさ。 だからさ、お前も来てくれないか?」
俺が彼女に問いかけると、彼女はその澄んだ青い瞳を大きく見開く。
「正気か?妾、お主を殺そうとしたのじゃぞ?」
「あぁ、そうだな。だが、この先の事を考えたらいずれ俺一人じゃどうしようもない時が来る。そんな時に仲間が居てくれたら、どれだけ心強いか………。だから、俺にはお前が必要だ。一緒に来てくれるか?」
俺は彼女に手を差し出す。
「そう言う事なら、喜んで妾は付いて行くぞ!主人殿!」
彼女は俺の差し出した手を取ると、そうたからかに言った。
え、てか今、なんで言った?
「あ、主人殿!?」
「負けた以上、強者の下につくのは当然の事じゃ。故に妾を下した主が主人殿じゃ!」
そうケラケラ笑う彼女に俺も釣られて笑ってしまう。
まぁ、良いか。
「そう言えば、お前に名前はあるのか?」
「残念じゃけども、妾に名はない」
「だが、仲間になるんだ、いつまでも九尾狐じゃダメだろ?」
「なら、主人殿が付けてくれなのじゃ」
「俺が?」
正直、こう言うの昔から苦手なんだよな………。
彼女は期待した目で俺を見る。俺は彼女をもう一度だけ見ると……。
「〝ステラ〟」
「ステラ?」
「あぁ。お前のその金色の髪や毛を見ていて、そう呼びたくなった。 どうだ?」
「気に入ったのじゃ!妾は今日からステラじゃ!」
彼女は嬉しそうに瞳を輝かせた。
「よろしくな、ステラ」
「うむ!宜しくなのじゃ!主人殿!」
ステラは満面の笑みを浮かべる。その笑顔に不覚にも少し見惚れてしまった。
その後、俺はステラの案内のもと【常闇の遺跡】の迷宮核の部屋まで、案内された。その部屋の中心に浮かぶ巨大なクリスタル、迷宮核だ。
迷宮核とは言わば、迷宮の心臓部分であり、これを破壊すると迷宮は消滅する。
「ふっ!」
俺はなんの躊躇いも無く、迷宮核を真っ二つに切った。核の破片は地に着く前に消滅した。その瞬間、地震が起こった。
迷宮の崩壊が始まったのだ。
崩壊が始まったと同時に、俺たちの足元が魔法陣が浮かび上がり、光りだし俺たちの体は浮遊感に包まれる。
魔法陣の光に満たされた視界、何も見えなくとも空気が変わったことは実感した。迷宮のよどんだ空気とは明らかに異なる、どこか新鮮さを感じる空気に俺の頬が緩む。
やがて、光が収まり俺たちの視界に写ったものは、数日ぶりに見る、外の世界だった。
俺たちは迷宮の入り口に転移したようだ。そして、後ろではその迷宮は崩壊し、溢れ出ていた瘴気も綺麗さっぱり消えた。
やがて、迷宮に溜まっていた魔力は地に帰り、この地を豊かにするだろう。
俺たちは、その光景を見届けると、その場を去った。
こうして、俺は七大迷宮の一つ、【常闇の遺跡】を攻略した。
この日、七つある大迷宮の一つ【常闇の遺跡】が消滅したその事実は世界に大きな衝撃を与える事となり、各国が【常闇の遺跡】の攻略者を見つけ出そうと、探し出そうとしている事を、この時のジンは知る由もなかった。
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