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10.濁った大河と竜の噂

早く隣国へ移動したい朱天とアルバ族。

しかし隣国でも何やら動きが…?

そして噂…フラグは立つよどこまでも♫


冒頭部分、一部修正しました。

リコリア大陸、グナム半島。

南北二つの勢力に分かれ、残りは幾らかの獣人達による集落、村落が点在する世界でも有数の面積を誇る大陸、その端に存在する二つの国が統治する、主に人種と獣人種族が住う地である。


北に、純粋な人間こそ支配者であると歌い、大陸有数の国土を誇る『バルムンク帝国』南には大陸北部の半島、その三分の二を統治する、国土こそ小さいが屈強な獣人種からなる軍備を誇る『赤帝獣王国』…この二国は思想の違い故に古くから小競り合いを繰り返す犬猿の仲で、ここ最近はバルムンク帝国が獣王国側へと侵攻を始めその国力を伸ばし始めつつある状況だった。


【赤帝獣王国離宮、鳳凰殿】


「まだ見つからんのかえ?」


「は、目下全力をもって捜索中ではありますが…未だ。」


むせ返るような香が焚かれた東洋風の建物の中、編み込まれた竹を使って芸術的と言えるほどの細工を施された椅子、そこに敷かれた飛竜の鞣革に座る恰幅の良い壮年の男と、それにしなだれかかるようにして抱きつく金髪、赤目に金の体毛と四本の尾を持つ狐種の獣人の女。

男の顔は被っている帽子から垂れているヴェールに隠されて口元までしか見えないが、その言葉や悠然とした仕草は何処か浮世離れした雰囲気を感じさせる。


「…朕は早よう欲しいのじゃ、占術に出た凶兆と吉兆、相反する二つの訪れにして全てを変えると言う、その異邦人の力が。」


男の名は赤帝獣王国、国王…オークエンペラーたるガルラ・ベムルス8世。

今でこそ帝国に一歩譲るものの、南北の支配圏を二分するリコリアの二大国家、その南方の盟主である。

そんな獣王の前には獣王傘下の近衛たる四神隊、北方を守護方位に持つ玄武近衞師団長、ナルガと配下の兵二十騎。

ナルガを含む全員が黒く艶のある、守護霊獣である玄武の眷属、黒霊亀の甲羅を原材料とした防具に身を包んでいる。


「…陛下、妾の占術はあくまで訪れの予知にすぎませんーー行動次第で人も、国もその行末を変えるのです…故にこそ吉兆、凶兆どちらにもなり得る異邦人の存在はこの後の我が国を如何なる流れに導くかの転換点となりましょう。」


「我が国は今や帝国の勢いに押されてその支配域を徐々に奪われつつある…朕は歴史ある我が国があの野蛮人どもに踏みにじられてゆくのが我慢ならん、毛の無い猿どもが我が物顔で朕の国を荒らしまわっておるのだぞ…許せるはずがなかろう…早々にその異邦人の力、手に入れよ…魔道具か、或いは其奴自身の何かしらの力なのかも調べ上げよ、探し出せ、我が国に富を、美味なる食をもたらすのだ!!」


ガタ、と。

王がその肥満体を揺らすようにして立ち上がる。


「捧げよ!」


「我らに尊き晩餐を!」


「獣王陛下に、美食の饗宴を!!」


獣王が手にした杯を天井へ向け突き上げると、跪いていたナルガとその配下が一斉に声を上げた。


「あむ…ふふ、陛下、頑張ってくださいましね…。」


それを脇目に、獣王にしなだれかかっていた金狐の女は山と盛られた色とりどりの果実に口をつけるのだった。


******


時は戻り。

沼地の精霊を下した朱天達はさらに南下して湿原を抜け、国境沿いまで流れている大河、黄流河の支流へと辿り着いていた。

そこは泥が流れ込み、水が濁りそこは見えない、支流にしては広い川幅を持つ流れの一つ。


「…随分と濁った川だな、それに深い上流れも早いか。」


黄流河(おうるがわ)、この辺りでは最大規模の河川でこの国のほとんどの主要な街ともつながる水路でもあります、その中でも北端に位置する場所ですから…後はここを渡れば向こう岸…隣の赤帝獣王国の領内に入れます。」


「ふむ…早くに隣国へ移動すべきだろうが…」


拾い上げた長めの木の枝を挿し入れて深さを測ると、馬では渡れないと理解して朱天は思案する。


「牛鬼は渡れなくは無いがそれでも揺れもなしにとはいかんだろう、中にいる負傷者を攪拌する訳にもいかん。」


「はい、ですのでここからしばらく支流に沿って移動して渡し船が出ている場所まで下ることになります。」


葛葉の言葉に思案する。

…朱天と、もう一人程度なら簡単に向こう岸に渡ることはできた。

しかし、複数人の負傷者が居ては全員向こう岸に渡すのは流石に厳しい。

安定した渡航手段があるならその方がいいだろう。


「…聞いた距離の割に時間がかかるとは思ったが…そう言う事か。」


兎に角急ぎましょう、そう答えた葛葉に頷き牛鬼の歩を早める。


そして程なくして川幅が狭くなった場所に木製の小屋が併設された船着場と、一艘の船が停泊した場所が見えた。


「あれですね、あそこからそれなりの規模の渡し船が定期的に出ていますから、金さえ払えば向こう岸に渡るのは可能なはずです。」


停泊していたのは渡し船と言うには大きく、一度に10人以上乗れそうな小型の帆船だった。


「おや、お客様かい?最近はめっきり来なかったが随分と大所帯だねえ。」


小屋から顔を出した船頭らしき白髪の老人…いや、体付きは鍛えられており老人と言うよりは壮年期の男、と言うべきか。

声をかけてきた男はひょこひょこと軽い足取りでこちらに近づき、馬の後ろに見える牛鬼を見るや目を見開いた。


「…っ、な、なんだいそりゃあ…あんたらんなかにモンスターテイマーでもいるんかね?」


「門捨…?」


「ああ、魔物を使役できる職業(ジョブ)の事ですね…時には国に雇われるほどの多数の魔物を軍勢の如く従える使い手もーー上位職(ハイエンド)魔物指揮者(モンスターコマンダー)と呼ばれる者も居ます。」


「…ふむ、よくはわからんが軍の指揮をするような輩か。」


「そうとって間違いでは無いかと思います、まあそこまでの者はごく一部ですがね。」


ベルクがそう締めくくると船頭の男が近づき、牛鬼をペシペシと叩く。


「…いやあ、そのあんちゃんがテイマーかい、若いのにとんでもねえな。」


「…せ、船頭さん不用意に触れては…」


ベルクが引きつった顔で注意するが、船頭は動じず笑う。


「あん?大丈夫だろ、テイムされた魔物ならテイマーの許可なく誰かを襲いやしめえよ。」


「…朱天殿はテイマーと言う訳では無いと思うんだがなぁ…」


ぐるるる、と唸るものの図らずも船頭の言葉通りに朱天の支配下にある牛鬼は不機嫌そうにはしても襲いかかりはしなかった。


「さて、この数だと馬も含めりゃ何度か往復せにゃならんな。」


「お値段としてはこのくらいでどうじゃろうか、この先も考えるとあまり出費が嵩むのも考えものじゃもんで、まからんか?」


と、族長が値段交渉を始め。

暫くの問答の末にまずは牛鬼の中に収納した負傷者と、戦闘能力が低いものを先に渡らせる事となった。

朱天は牛鬼の制御と、護衛も兼ねて往路をそのまま行き来することにする。

牛鬼は複雑な命令は理解し得ない為、渡りきればその場に待機を命じればいいもののそれまでは朱天が必要だからだ。


「さて、渡る間は油断しないこった、もし川に落ちれば助からんからな…流れが早いのもそうだが水棲の魔物が数多く生息しているからな…水に落ちれば一瞬で餌食だよ。」


「…おどさんでくれ、わしら初めて渡るんじゃから…。」


「本当だぜ、縁起でも無い。」


などと臆病なところで血のつながりを感じる族長とザンバ。


「行くぞ、慎重さは美徳だが臆病者は犬にも劣る、根性を出せ。」


朱天が呆れた顔でそう告げるとベルクが苦笑いし、葛葉までくすくすと笑う。


「ぐぐっ、だ、だれが臆病だよ…あんたはこの河に潜む奴を知らないから言えるんだよ。」


「はは、河のヌシ様…黄竜の事を言っとるのか、まあヌシ様が姿を見せるのはごく稀じゃよ、むしろ遠目に見られるなら幸運を貰えるとわしら船頭の間じゃ吉兆だと言われとるがのう。」


「…毎年何艘も沈められてるって話じゃねえかよ…よくそんなこと言ってられるなおっさん。」


「…そいつぁたんに河の怒りに触れた馬鹿共だな、河を汚すような真似をしたか、ヌシ様のほこら周りの中洲近辺を無断で横切る真似をしたかのどちらかじゃ、それをしない限りヌシ様は基本的に寛容じゃから安心せい、と言うかあんまりびびって小便漏らすなよ?河を汚すと怒りに触れるからの!」


「も、漏らすか馬鹿野郎!?」


「…ふむ、今のうちに皆そこらの影で済ませてこい、ヌシとやらがどの程度か知らんが無駄に争う時間も惜しいからな、よし、各自小休止してから船へ乗り込むぞザンバの馬鹿もそうだが葛葉も大丈夫か?」


「…えっ!?…は、はい…そそそ、そう、ですね、あのその…」


「……いや、朱天の旦那、そりゃねえわ。」


「…あ、あぅ。」


何故か恥じらう葛葉に、非難の目を向けてくるザンバ。

心なしか族長やベルク、その他の面子まで視線が生暖かい。

今の今まで畏怖すら含んでいた連中までだ。


「……何故だ???」


うん、鬼に人並みのデリカシーを期待してはいけない。



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