深夜巡回
コツ コツ コツ
消灯時間をとうに過ぎた病院の廊下。
私の足音が妙に響く以外は、静かなものだ。
コツ コツ コツ
毎日のことではあるが、深夜の巡回というものはどうにも慣れない。そう先輩に告げたが、「その内慣れるよ」と一蹴されてしまったが。
コツ コツ コツ
早く先輩方のように慣れることが一番だと、自分に言い聞かせてはいるが……。
コツ コツ
……ピチャン
「……?」
聞こえる筈のない、異音が聞こえた。
まさか、今時水漏れでもあるまいし。
首を振って、再び歩みを進めていく。
コツ コツ コツ コツ
……ピチャン
また、だ。
今度は確かに、水音が聞こえた。
どくん、と恐怖に心臓が高鳴る。
いや、気のせいだ。気のせいに決まっている。
だが。
ピチャン、ピチャン
そんな私を嘲笑うかのように、今度は連続で聞こえた。
懐中電灯で前を照らしても、何もない。
ということは、後ろだろうか。しかし、身体が固まってしまったかのように、振り向くことが出来ない。
コツ、コツ、コツ、コツ
足音を早めるが。
ピチャ、ピチャ、ピチャ、ピチャン……!
追いかけるかのように、水音は早く、そして大きくなっていく。
鼓動が破裂しそうに増し、懐中電灯を持つ手は大きく震え、取り落としそうになるのを必死に堪えている状態だ。
もう限界だ。
私は今までにない速さで、廊下を走り抜けていく。
あと少し。
あと少しで、待機室へと辿り着く。
だが。
私は忘れていた。
その近くに、巨大な姿見があることを。
「ひっ……!」
引きつった声が零れた。
姿見に映し出されていたのは、恐怖に歪んだ私の顔と、そして。
全身が血に塗れた、女性の姿。
ぴちゃん、ぴちゃん、と血が落ちて、足元に円を作っていた。
「あ、あ……」
誰か呼ばなければ。
叫ぼうとしても、声が、出ない。
たすけて。
たすけて。
だれか。
その祈りは、届くことはなかった。
にたぁ、と女性の唇が笑みを形作る。
血に塗れた白い腕が、私の首に、伸びて。
ぶちぃっ……!!
ごとり、と首が落ちたのが、何故か聞こえた気が、した。
(終)




