目が覚めたら知らない天井。
目を開けると、知らない天井が視界に映った。
シャンデリアがつるしてあるって、シャンデリアのあるような部屋になんて俺は行った事がない。そんな部屋で眠っていたという事実に我に返った。慌てて起き上がる。
あたりを見渡せば、見た事もないような部屋にいた。
シャンデリアがつるしてある時点で何だか嫌な予感はしていたが、ここはまるで貴族の館か何かのような部屋だった。以前旅行先で見た西洋建築の建物で見たような家具が並んでいる。こんな部屋、現代日本ではまず見られないだろう。
意識を失う直前の事を思い起こす。犬のような化け物に襲われた。普通の魔物とは思えないような化け物に。あれは普通の犬ではない。そして俺は騎士のような女性に助けられた。本当に何が起こっているのだろうか。意味が分からない。
ふと、自分の髪に触れる。
視界に映るのは明るい茶色の髪。……俺の髪は何処からどう見ても純日本人であると言える黒だったはずなのだけど、何なんだろう。この不可解な現状の説明が欲しくてならない。
そう思っていた時、扉が開いた。
そして現れたのは、メイド服を着た女性。その女性は俺が目を覚ましていることに気づいて、慌てて誰かを呼びに行った。
……メイド。
メイドなんて初めて見た。しかも、どうやらコスプレでもなんでもないようだ。此処って、薄々気づいていたけれどここはおそらく日本ではない。なら、ここは何処だと考えた時、馬鹿みたいな話かもしれないが、”異世界”という単語が浮かんだ。違ったらただの痛い人間でしかないけれども、そうとしか思えなかった。
「目が覚めたのか、良かった」
俺が此処は異世界なのではないかと考えていれば、俺を助けた女性がやってきた。先ほどとは違い、騎士の鎧ではなく、ワンピースのような服装だ。先ほどは気づかなかったが、胸が大きくてちらりとそちらに視線を向けてしまった。慌てて視線をそらしたが、気づかれてしまったかもしれない。髪の色は暗いこげ茶のような色。
「……はい。助けていただいたようでありがとうございます」
「それで、どうしてあんなところに一人でいたんだ? 仲間のエルフとでもはぐれたのか?」
「気づいたらあそこにいて、って、エルフ?」
エルフと言えば、耳が長くて、森の中に住んでいる種族。魔法とかが得意だったりするイメージが強い。ファンタジーの世界で出てくるようなその種族の話題を急に振られて俺は驚いた。
しかし、目の前の女性の方が、俺の言葉に驚きを表した。
「君はエルフだろう?」
「え?」
俺の事を”エルフ”などと言うからこちらが驚いてしまった。
俺がエルフ? というか、エルフと言う存在が当たり前に存在しているといった口調なので、やっぱり此処は異世界なのだろうか。もう色々訳が分からない。俺がエルフってどういう事なのだろうか。
「俺が、エルフ?」
「ああ。エルフだろう? その明るい茶色の髪。これだけの明るさならエルフだろう」
「えっと……それは、どういう? あの、俺、急にあの場所にいて、正直ここがどこかも分からなくて」
「急にあの場所にいて、ここがどこか分からない? それは……もしかして、君は」
俺の言葉に、彼女は何かに気づいたような表情になった。そして続ける。
「もしかして、チキュウという場所から来たのか?」
「え、はい」
「そうか……。君は『迷い人』か」
俺の事を『迷い人』とその人は呼んだ。エルフ、迷い人――二つの呼び名をされて、正直よく分からない。それにしても地球という単語を口にしていたという事は、地球の存在をここの人は知っているという事なのだろうか。此処が異世界だとして、こうして俺のように急に異世界にやってきてしまった人がいるという事なのか。
「『迷い人』というのは? あと、お名前を教えてもらっていいですか。俺は堂本神楽と言います」
「はっ、そうだな。私はグラニー・フロデンタールという。それで、『迷い人』というのは、その名の通り異世界から迷い込んでしまった存在の事を言う」
「……やっぱり、此処は異世界なんですね」
グラニーさんに言われて、ああ、やっぱりと何とも言えない気持ちになった。そりゃあ、俺もアニメとかをそれなりに見ていたし、異世界に興味はあった。とはいえ、それは実際に異世界に転移などをしないからこそのあこがれだ。俺は異世界になんて来るつもりがなかったし、地球で一生を過ごすつもりだったのだ。
だからこそ正直言って、ショックを受けてならなかった。此処が異世界であるなどと正直知りたくもなかった。地球のどこかだと出来れば言ってほしかった。でも、此処が異世界なのはどうしようもないほど事実なようだ。
「カグラが『迷い人』と言うのならば、王宮に報告をしておこう」
「え、王宮?」
「ああ。何、そんな心配そうな顔はしなくていい。『迷い人』は保護して大切にしなければならない存在だ。悪いようにはしない」
そう言われたが、王宮に報告などと言われて不安しか感じなかった。俺が不安げな顔をしていたのだろう。グラニーさんは「お腹がすいてないか? 食事はどうだ? 話しながらでも説明をしよう」と笑いかけてくれた。
そうして食事を取りながら、詳しく話を聞くことになった。