004:帰省(祖父のお家)
第二話
薄暗い天幕の下、私は分隊~師団レベルの暗号化無線通信網の維持に腐心しつつ同時に創魔球体内に入り、物資の転送ポイントを構築する。
相対位置情報に基づき前線から後方の独立重砲兵大隊に火力支援要請が届く。一発で豪邸一つ建つとすら言われる誘導砲弾が撃ち込まれ、誤差数メートルもない攻撃が目標を粉砕する。
私が支援する第二師団は情報優位と的確な補給、ピンポイントに撃ち込まれる砲弾によるサージカルアタックで戦術及び戦略的要点を撃滅していき演習相手の第一師団を潰走させるまでに至っていた。
第一師団は軍砲兵や他師団から機甲連隊を借り上げて三万の戦力を抱えているのに対して、第二師団はサージカルアタック用の長距離カノン砲及び評定目的の特殊斥候隊こそ擁しているものの兵力は二万にすら届かない。
両者は同じ武器を使い、同等程度の将校団を抱えている。違いは一点、私を始めとした先進技術魔術師を抱えているかいないか。
正面戦闘では最早近代兵器に劣る魔術師も、科学で実現出来ない軍事的支援を構築することにかけてまだまだその実用性を残しているのだ。
武器の質は等しく二十世紀の遺物に過ぎないが、第二師団には二十一世紀を思わせる先進情報技術が魔法によって用意され、テレビゲームのように戦局を俯瞰することが可能になっている。
「機甲第三旅団、戦線を突破」
「旧来型の師団はものの役にも立たんな」
薄暗い天幕にはスクリーンが張られ、スクリーン上では自軍と敵軍を模したマーカーが地図上を動き回る。実験師団に指定されている第二師団にはありとあらゆる先進兵器が詰め込まれている。兵士の育成方法すら変更された最新鋭師団を前にしては、精鋭第一師団もただただ防御戦闘に終始するほかなかった。
五年に一度行われる師団対抗演習は、陸軍大臣肝いりの先進第二師団の圧倒的戦闘力を見せつける格好の場となった。
魔術師が理論的に先行した技術を魔法で再現し、それを科学技術者が量産可能なよう現在の科学技術に落とし込む。このサイクルで科学と魔法は両輪の如く相互に発展を続けている。最新科学研究施設の実験機材を魔術師が整備し、魔術師が作り上げたマザーマシンでマザーマシンを量産する。科学と魔法が手と手を取り合うようになってはや三百年。三百年前には古代ローマ帝国に蹂躙されそうな技術しか持たなかったアーニケイド王国軍は、今や第二次世界大戦を一国で勝利すら可能なほどの力を手に入れつつあった。
二週間に渡る演習が終了し、荷物を纏め帰宅の途につこうとしていた私の前に黒塗りの二頭立て馬車が止まる。戦車は百五十粍の傾斜装甲を採用しているのに、自動車は普及が遅れていて、軍でも斥候用の小型車や輸送用のトラック程度しか採用されていない。民間需要はようやく発生し始めたところのようだ。
「ティハニア魔術少尉、本日の働き見事だった」
「ありがとうございます、グレイ准将」
馬車の扉を開けて、軍服を着た壮年の男性が姿を見せる。特徴的な鷲鼻にブラシのような口髭、短く刈り込んだ頭髪。顔には皺が刻み込まれていたが全身からはエネルギッシュな力強さがみなぎっている。
「駅まで送ろう。乗りなさい」
オーレイラ連隊付予備役魔術師として私が四年前に任官して以来付き合いのあるグレイ准将は、いつのまにか連隊長から旅団長にまで出世をしていた。今回の対抗演習では機甲第三旅団長として第一師団を見事に壊滅に追い込んでいた。
「お久しぶりです、ティハニア少尉」
「あ、シャレイド大尉……今は少佐になられたんですね」
今回の演習で大隊長としてチラッと姿を見かけていたが、面と向かって話をするのはおーレイラ連隊での付き合い以来だ。昔と変わらず若々しく力に満ち溢れている。
「従卒は駐屯地に置いていったから、彼を付ける。家までしっかり見送るのだぞ」
「グレイ准将、お任せください」
「よろしいのですか」
「いいのですよ、綺麗なお嬢さんとご一緒できるのですから。ついでの用事もありますので」
「そういうことだ」
シャレイド少佐が茶目っ気溢れる笑顔を見せる横でグレイ准将が鷹揚に頷く。ああ、この光景昔も見たなあ。
「それにしても今回の演習は一方的でしたね」
「我々は新鋭戦車で第一師団の連中を蹂躙してやりましたが、対戦車火力が脆弱ですな」
「魔法は一品ものを作るには非常にいいが、歩兵に配る量産品となると中々進展がないのが困りものだ」
「私もそれは思いました。あれでは戦車部隊に歩兵は無力だ」
王国の誇る快速戦車である第七巡航戦車“プレコティア―”は垂直に切り立った正面装甲が七十五粍しかないが、歩兵はそれすら一方的に蹂躙されてしまうだろう。何しろ対装甲兵器たる対戦車砲が七十五粍の装甲を貫けるのは五百メートル以内なのだから。第五支援戦車“ドラウド”に至っては正面装甲が百粍を超えている。
普段は寡黙なグレイ准将も軍事談義となると意外に話をされる。駅に到着するまで歩兵に持たせるべき対装甲兵器の話が続いてしまっていた。
地方都市の閑散とした駅舎前で私とシャレイド少佐は、グレイ准将と別れ汽車に搭乗した。
「おお、一等車ですな」
体の沈み込むリクライニングソファに嬉しそうに腰を沈めるシャレイド少佐。
「これもティハニア嬢のおかげです。あなたと同伴だからケチな席の予約は許されなかった」
「あら、出張扱いなんですか」
「ええ、普段は金を渋る経理の連中があっさり一等車の席を予約してくれましたよ」
ほくほく顔のシャレイド少佐が気を聞かせて窓側の席を空けてくれた。窓を開けると悲惨な目に遭うが、開けなければ営業速度百キロにも満たないゆっくりとした車窓から景色を楽しむことが出来る。夏に入ったこの時期は晴れていれば美しい空と碧い草木のコントラストが楽しめるが、あいにく今日は雲がかかっていた。
「ここからフューリギダ邸までどのくらいかかりますかティハニア嬢はお分かりですかな?」
王国北部に設けられた、およそ三万ヘクタールの面積が用意されたギッダーレイン演習場から南東に八十キロほど進んだ先に、私の祖父である家長が本拠を構えるネウカレド二ア地方のフェニクエ村が存在する。
「そうですね、汽車に乗って二時間。駅から馬車で一時間といったところでしょうか」
「ほお、結構時間がかかりますね」
「ええ、本当遠いです。それより今まで何をされていたのか興味があります。長いこと会っていませんでしたし、きっと色んな経験をされたでしょう」
「私ですか? そうですな、ティハニア嬢と最後に会ったのは四年前でしたか。あの後私は海外に駐在武官として派遣されまして」
「へえ、何処にです?」
「遥か東の島国です。我が敬愛なる王国とは全く違うことばかりで驚きの連続でしたよ」
二時間はお互いの近況報告をしているうちにあっという間に過ぎ去ってしまった。車窓が荒涼とした岩肌と短い芝に覆われた丘陵に変わると、ああ戻ってきたんだなと感慨を私に抱かせる。
「そろそろ着きますよ」
「どれ、荷物は私が持ちましょう」
私の遠慮を笑って受け流しそのまま荷物を持って汽車を下りてしまうシャレイド少佐の背中を歩き、私たちは四頭立ての大きな馬車から歩み寄って来る白髪の老人に出迎えられる。見た目は老齢ながらも佇まいに老いは感じさせず、軍とは違い優雅さも漂わせる機敏な仕草が懐かしい。彼はベネフィルオ。昔からフェニキア家に仕える執事だ。
「ティハニアお嬢様よくぞ戻ってられました。シャレイド少佐もお待ちしておりました。さ、こちらにどうぞ」
米粒よりも小さな砕石をタールで固めた真っ黒な舗装路を滑らかに馬車は進んでいく。道の両側に木々が並びだすと、そろそろフューリギダ邸が見えてくる。日本の小・中学校校舎より巨大な建造物はゴシック様式にも見える尖塔が延び、ちょっとした宮殿にも見えてくる。
「あー、あれがかの有名なフューリギダ邸ですか。ティハニア嬢はあの宮殿に住んでいたのですか」
「いえ、あそこは維持費がかかるので今は会社の社屋になってます」
「ほう、フェニキア家ほどの資産家でもああいったとこには住めないのですか」
「代わりに住居として建てたのがあの家です」
フューリギダ邸から少し離れて生垣に囲まれた三階建ての建物がある。堅苦しい荘重な印象を受けるフューリギダ邸と変わって白亜の壁が眩しい真っ白な家だ。現家長のソキエディウスが建てたためソキエディウス邸と呼ばれている。
「ははは、あの建物でも十分お姫様ですよ」
「土地がない首都だとあれでも大豪邸になるんでしょうね」
何処でも同じことだろうが、都会より地方の方が大きい家が建てやすい。フェニキア家も首都に購入した邸宅とソキエディウス邸でかけた金額は大きく変わらないはずだが、倍以上ソキエディウス邸の方が大きく広々としている。
庭師によって刈り込まれた庭園を通り抜け、正面の広場に停車する。エントランスホールからメイドたちが現れ、私たちを現フェニキア家当主ソキエディウス・プロープリス・フェニキアの面前まで案内する。
「お久しぶりです、当主様」
「お初にお目にかかります。アーニケイド王国陸軍第二師団付情報参謀シャレイド・プロープリス・デンタクス少佐であります」
七十を超えたにも関わらず、二メートルを超えた巨躯は些かたりとも衰えていない。確かな足取りでこちらに歩み寄ってきた当主様は、鷲を彷彿とさせる高い鼻とギョロリとした青い目で構成された威圧感たっぷりな顔をフッと緩めて私を抱擁する。
「よく帰ってきたティハ、シャレイド少佐には少し下がっていてもらえるかな」
「はっ」
「来なさい、ティハ」
「はい」
私と当主様は教室ほども広い部屋に設けられたソファに座る。
「アルマート学校での暮らしはどうかね」
メイドが淹れてくれた紅茶に手を付けながら当主様が尋ねてくる。
「充実した日々を送れています」
「そうか、それはよかった。研究の方は進んでいるかね」
「微細物質へ魔法による干渉操作時の直感による操作性の向上、でどうにか物になる論文が書けています。例の件より地味ですが、これからの時代より精密な操作が要求される事象も増えてきますので」
「ほう、魔術工房の発展にも役立ちそうな内容だ」
本日二度目の近況報告を当主様相手にしていると、いつの間にか結構な時間が経過していた。好々爺のように笑って話を聞く当主様は満足したようで私は解放され、変わってシャレイド少佐が室内へと入っていった。
私はそのまま自室へ戻ることにした。三歳の頃よりずっと私が過ごしてきた思い入れのある部屋だ。寝室にリビング、衣裳部屋、バスルームに図書室と一通り過ごす部屋が揃っている。
「はあ」
疲労の蓄積で、座った瞬間思わずため息が出てしまう。アレスタと楽しく休暇を取ってから既に一か月が経過しようとしている。あれ以降、父様に随伴して社交界に出たり、軍の新教育課程に放り込まれて新通信システム課程を修了させられたり、師団対抗演習につきっきりで参加させられたりと忙しかった。特に師団対抗演習は二個師団が三万ヘクタールに展開して攻守入れ替えて様々な状況を想定して戦うものだから私を始めとする魔術師部隊の負担も大きい。何しろ魔術師は魔力を多く持っている者ほど身体的能力が落ちてしまうのだから、私なんて小学生にも押し負けてしまうだろう。
リビングのソファに倒れ込んで何も考えずボケっとしていると、扉がノックされる。
「やあ、僕だよ。調子はどうだい?」
「ルーティー叔父様! どうぞ入ってください!」
ルーティー叔父様は父様の弟で、魔術工房の研究部門の最高責任者をされている。私がここにいた時分には魔法の先生でもあった。扉を開け、いかにも気弱そうな小太りの中年男性が顔を見せる。当主様や父様のようなカリスマ性を全く感じさせないが、人の好さは二人よりも上に立っていると思っている。その実魔法の才能ではフェニキア家で隔絶しているのだから人は分からないものだ。
「おお、たった二年で随分綺麗になったねえ。幼さが抜けて大人になってきてる感じがする」
「叔父様の方は相変わらずですね。元気そうで何よりです!」
「まっ、僕は魔法の研究が生涯の伴侶で永遠の恋人みたいなもんだからね。毎日恋人と付きっきりで睦言交わしているんだから張り切らない男はいないって話さ」
「そういうところも相変わらずですねえ」
「変わる気はないね。一生僕は添い遂げるよ」
丸みを帯びた顔に不敵な笑みを浮かべてテーブルの焼き菓子を頬張る。貴族の優雅さなんて感じない、本能のままに生きる飄々とした人だ。
「ところで論文見たけどかなり細かいミスが目立つねえ。本筋は合っているけどさ。あれじゃ荒を突かれて落第だね」
「叔父様は手厳しいですね。学校の先生方は褒め言葉の嵐でしたよ」
「まっ、その年にしちゃって話だろう。もし二十五であれを出したら酷評の嵐だよ」
ごめんなさい、叔父様。精神年齢は二十五をとっくに過ぎているんですよ……。
「ちょっと学校生活で気を抜きすぎだね。来なさい、久しぶりに遊ぼうや」
叔父様の言う遊びとは、つまり魔法戦闘演習のことを指す。叔父様が研究で煮詰まると研究員を演習に付き合わせてぼこぼこにして憂さを晴らしているのだ。魔法を空撃ちさせる特殊な空間内で空撃ちした魔法を映像として見せ、お互いを傷付けずに戦闘演習をする魔法戦闘演習は設備に高い金がかかるので国内でも置いている箇所は多くない。
「ええ……私が妨害を掛けたら怒るくせにやるんですか」
この世界では全世界的規模で古代魔法文明の生き残りたちが展開した妨害魔法が今もなお効力を維持しているせいで、魔法の運用効率が劇的に落ち科学が日の目を見るようになっている。その上、魔術師が妨害魔法を重ね掛けなんてしようものなら魔法なんて無用の長物になってしまうという訳だ。
「妨害が力技で強引過ぎるじゃないか。もっと技巧を競いたいんだよ、僕は」
「技巧、ですか。初めての戦いでは妨害魔法を連続で掛けて私を無力化したのは叔父様でしょう」
「ははは。あれは洗礼みたいなものだよ、万能感に満ちた新人に一回失敗を味あわせてやらないとね」
ああ言えばこう言うで、叔父様を言い負かすのは手間ばかりかかってしょうがない。捻くれているが、本当、いい人ではあるのだ。
ソキエディウス邸を離れ、隣にあるフューリギダ邸まで移動する。魔法関連の研究所内に魔法戦闘演習場は設けられているので、フェニーマジター社の社員が働く社屋の中を通っていく。社のトップとその孫娘が通るとあって、社員の人たちには仕事を中断させて挨拶に回らせて申し訳なく思えてくる。
「よし着いたぞ。やろうか」
「いいですよ。負けても駄々こねないで下さいよ」
白一色に染められた、体育館ほどの空間の両端に二人が立つ。叔父様が床全面に描かれた魔法陣を起動させ、戦闘開始だ。
お互いが何も発することなく、創魔球体を自身の周囲に展開する。まず、これがなくては魔法が使えない。そのくせ維持コストが異常に高く数秒ごとに張りなおす必要があるので古代魔法文明時代、妨害魔法が全世界規模で展開されていなかった時代には一都市を焼き払うほどの魔術師が、現代では火球一つ撃ち出せない。だから私がケチって周囲数メートルに展開したのに対して、叔父様は部屋全域を覆い概念系魔法使用の下地を構築する。頭の中で考えた理屈も何もあったものじゃない、人知を超えた事象を容易に再現できるのがまさしく魔法の王道、概念系魔法だ。概念系魔法は現実の改変度が著しいために、妨害系魔法に極めて弱い弱点がある。それだけに発動可能な状態に持ち込めば圧倒的な力を発揮する。
「あっ、早速妨害とはずるいぞ!」
「だって概念系なんてくらいたくないです!」
創魔球体は妨害の強度に応じて維持するコストが跳ね上がるのに対し、妨害魔法は創魔球体を重ね掛けしていようが使用コストは変わらない。妨害合戦なら妨害側が圧倒的有利なのだ。そして魔力量は私が叔父様の二倍以上。妨害合戦だけしていれば私の勝利は本来揺らぎない。
「僕の勝ちだ」
だが妨害は魔法にしか適用されない。叔父様が時空魔法で亜空間からリボルバー拳銃を出して見せびらかしているように、魔術師は妨害合戦だけしていると銃器にあっさりと殺されてしまう。
「この演習は命を懸けた戦いの演習なのに魔法にしか目が行ってないようじゃまだまだだね」
「でも、銃器の扱いは私の方が上ですよね」
フェニキア家が軍事力で武勲を上げて名を上げた貴族だけに、軍とのつながりも強く魔術工房を源流とするフェニーマジター社は、今や銃火器や鉄鋼、化学、船舶など手広く科学製品を手掛けている。今や伝統ある魔術工房の方が社の傍流に追いやられている有様だ。
首都に移転した父様は武に拘泥していないが、当主様は違う。そして当主様の元で幼少期を育った私は身体能力が劣るなりに武術を嗜んでいる。力が弱くても戦える武術を何百年か前に東方の武術家から会得したフェニキア家は、自社製銃器の扱いも学ぶことで魔法などなくとも遠近対応した武人の育成に成功している。
「この閉鎖空間じゃ、先に銃を撃った方が勝ちだよ」
「……もう一回」
「いいよ。掛かってきなさい」
今度は同じ轍は踏まない。妨害魔法を掛け叔父様の概念魔法の使用に制限を掛けた後にすぐさま創魔球体を自身の体を覆う最低限展開し、創魔球体内部で空気を圧縮し射出する。実体作用系魔法という奴で、創魔球体内部で実在する物体に魔法で働きかける魔法。概念系と違い、考えることが増えるが予め魔術式を暗記しておけば変数だけ詠唱すればそれで済む。詠唱は魔力に訴えかける無声語だ。口は動いても魔力が波打つだけで、音は発声しない。それでも魔術師ならばその“音”を感じ取ることは出来る。
「火力に物言わせる気かい? 単純だなあ」
私が連続で撃ち出した空気の弾丸を叔父様は創魔球体内部で迎え撃つ。創魔球体内部では概念系魔法による要撃が可能だから、空気の塊如き簡単に裁かれるのも無理はない。
「こんなの牽制ですよ!」
続いて人程度簡単にミンチにしてしまう旋風を叔父様の全周を囲うように発生させる。これで終わりじゃない。ここで切り札を切る。王国陸軍魔術師兵団内部でもまだ十指に見たいない数人しか使用できない必殺の一撃だ。
何も変哲のない空気の弾丸を撃ち出す。だがこいつはただの空気の弾丸じゃない。この空気はそもそも本物の空気ではない。魔法によって再現された紛い物だ。つまり、概念魔法によって生み出された弾丸。
「あっ!」
叔父様の右腕が吹き飛んでいく映像が表示される。私の勝ちだ。
「ティハ、それは機密中の機密だろう。使っちゃ反則だ!」
「大丈夫ですよ。ここを見張れる人間なんていないでしょう。言い訳はなしですよ」
「ちぇ……あーあ。やられたなあ」
あらゆる魔法をかき消す妨害魔法だが、私は数年前その妨害を突破する新たな魔法を生み出した。魔術師は敵対魔法の防御にも妨害魔法を使っているから、防御を貫く矛が叔父様を貫いたのだ。概念魔法には反射的に妨害魔法を使ってしまう癖が災いしたと言える。
「叔父様も使えるでしょうに、どうして使わなかったんです?」
妨害を突破する魔法を私は開発したが、同時に妨害を突破する魔法を妨害する魔法も同じ原理で開発してしまっている。魔力を周波数と見なし、周波数の帯域の一部を利用する魔法なのだ。妨害を突破する際は一点に帯域を集中し、妨害時は帯域を見極め一点に防御を集中する。
「開発者のティハ以外に帯域を一瞬で見極められないんだよなあ」
「ふふっ、そうでしたね。でも負け惜しみはなしですよ。これこそ技巧の極みなんですから」
そう、攻撃に関しては数少ない人物が再現に成功したのだが防御に関しては今現在私以外の人物は帯域の見極めに一秒ほどの時間を使ってしまう。習熟の問題に過ぎないのだが、最初に覚えた私はその分だけ有利ということだ。
「魔力さえあればもっと対応のしようはあったぞ」
ふてくされたような叔父様の負け惜しみが二人しかいない部屋に響いた。




