「ヒーローだとかヒロインだとか、と私と彼女」
「ヒーローだとかヒロインだとか、と私と彼女」
かつて夢みたヒーロー
恰好いいヒーロー
僕だけのヒーロー
変身して強くなるんだ
ホンモノになるんだ
理想になるんだ
そんなことにはならない現実と
なりたい理想の間で揺れているなら
それはたぶん
誰の心にもあるヒーロー
「これ、先生たちのバンドやっているメンバーが歌詞を作ったんだけど。」
友人の小学校の理科の先生でもある有子が言う。今日は私の家に遊びに来た。
「待って?なんで小学校の先生がバンドを?音楽ならまだしも。」
「文化祭の最後に先生の出し物っていうのがあるのよ。面倒だけど、こういうのが好きな先生っているのよねぇ。」
「へぇ。まぁ、歌詞的にはいいんじゃない?歌うの?」
私は書かれた紙を返しながら言った。有子はため息をついた。
「そうなのよ。ヒーローはいいんだけど、ヒロインってさー。どうなの?」
「なにが?」
私は聞いた。
「ヒーローって、マンガとかゲームとかこう、強い大人とか特別な力への憧れとかこう、イメージする相手とか像ってもんが誰の頭にでもあるじゃない?」
「あー。確かに、べつに特別に強くなくてもお父さんだったり、スポーツ選手だったりあるわねぇ。」
「でしょ?ヒロインは?」
「ヒロインはー……。」
私は言葉に詰まった。
「ね?ゲームのヒロインは大抵、アッサリ連れていかれてさぁ、助けが来るまで待っているか、逆ハーレムで苦戦しているか、あとは……。」
「いやいやいや、戦うヒロインだっているって!ゲームとか。」
「現実的に考えて。男性よりも体の小さくて細い女性が、男性よりも軽い武器を持って男性と同じくらい戦えるとかないから。」
理科、という教科のせいか、ただ単に理数系だからか、有子は冷静に言う。
「それは言っちゃ、だめ!」
「ドラちゃんだって、ウルトラだって、重さから考えたらもっと太っているはずだけど、それは許せるの。だって彼らはヒーローに分類されるからよ。でも、ヒロインってどうも感情移入しにくいのよね。男性から好かれそうなヒロインって絶対、女の友達いないだろうって思うし。」
「うーん。いや、友達いるって人も……えっとね、ちょっと待って。あ、ほら日曜の朝の女の子たちが戦うのがあるじゃない、あれは友達になるんじゃない?」
「あれは戦友。戦う相手も一緒だし。」
「違う部類になるんだ。」
「まぁ、ヒロインと友達になったっていいことはないとは思うんだよね。いつもヒーローにちやほやされているだろうし、結構な勢いでさらわれていることが多いし、そこそこ可愛いし、隣にいてなんか得がある?」
「いや、別に損得で友達になるわけじゃないでしょう。そんなこと言ったらヒーローの友人も大変でしょう?いつもいつも自分より優れている人が横にいるわけだから。」
「あー……そうか。じゃ、どこかに、でも孤独―って歌詞でも入れてもらおうかなぁ。」
そう言って有子は寝転んだ。
「小学校ってさ、狭い世界だけど、子供にとっては結構大部分占めているよねぇ。」
「そうだねぇ。大きくなってからわかることだけどね。」
「ダーリンに反対されるかしら?」
有子のダーリンは片思いをしている国語の先生だ。
「なに、ダーリンの書いた歌詞なの?」
「みたい。」
「国語の先生のヒーローって誰かねぇ。」
「聞いた。自分のじいちゃんだって。国語辞典作成の仕事に携わっていたらしいよ。」
「へぇー。さすが。……有子は?」
「私?ヒーロー?うーんー。」
しばらく有子は静かにしていたが、急に目を開けて言った。
「自分のヒーローもヒロインもいないけど、ダーリンのヒロインにはなりたいわ。理想のヒロイン像、聞いてみようかなぁ。そういえば、誰かいる?」
「ん?私?ヒーロー?……やっぱりマンガの主人公かなぁ。ヒロインは……うーん。」
「だから、自分がなるって言いなさいよ。」
「いや、来てくれるかどうかわからないヒーローを黙って待つのは嫌。」
私の言葉に、有子はゲラゲラ笑った。