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彼方より~From distance~  作者: NIRO
第二章
7/10

夕暮れの道

ゆきと途中で分かれて俺と圭祐の二人で帰宅する。

俺は一応地図を見てきたのだが、自信がない。

圭祐の手前、地図を開くわけにもいかなかった。

それにしても、ずっと圭祐は隣にいる。


なぜだろう。

同じマンションなのか?

それともすぐ隣の家?

俺の知っている可能な限りの知識を使って考えても分からない。

とりあえず、圭祐をまかなければならないことは確かだった。

「俺ちょっと寄ってくとこあるから、じゃあな。」

真直ぐ行くと思わせて急に右に曲がる。

よし、これで別ルートから行けば大丈夫。

と思ったそのとき

「待て、俺も行くぞ。」

肩に手を置かれ、止められる。

とりあえず、圭祐と別行動しなければならない。

ついてこられても困るもんだ。

「いや、急ぎなんだ、じゃあな。」

急いで走る。

少し強引だが、明日会った時でも謝っておけば大丈夫だろう。

「じゃあ、先行って入っておく・・・。」

「分かった。」

適当に相槌をうっておく。

よし。

意外とあっさりとすんだな・・・

もう少し説得に時間がかかると思っていたが・・・

こっそりと覗くと圭祐は一人で決められた道を行くように歩いていった。



周りに誰もいないことを確認して、地図を開く。

少し迂回することになるが、通学路沿いから帰ることにした。

時間は少しかかるが、学校の場所と明日から使うであろう通学路の確認の為でもある。

地図を見ながら俺は新天地のような町の中を歩いた。

・・・

・・

しばらく歩くと、通学路の脇に、小さな古い小屋があった。

店だろうか?

だが、とても古くて店とは思えない。

どちらかというと無人のボロ小屋に見える。

だが、木製の看板が立てられていて、この小屋が店であることを示していた。

・・・いちじょう・・・だがしや・・・

かろうじて読めるような文字の薄さだ。

看板も長い間風雨にさらされていたせいかボロボロで朽ちている。

開いてるのか?

扉自体は開いているが、開店しているかは非常に怪しい。

・・・入ってみるか。

時間はそれなりにあるし、このへんは俺が通う学校の通学路。

記憶がなくなる以前のことが分かる手がかりになるかもしれない。

とりあえず、今はがむしゃらに探していくしかないのだ。

のれんをくぐるとチリンと風鈴の音がした。

どこかなつかしい、そんな音色だ。

そして、入った目の前、

うわぁ・・・

何十種類もの小さなお菓に圧倒される。

色とりどりで、ここまでお菓子が揃えられているのも珍しい。

俺自身も記憶がないせいかもしれないが、これほどの大量のお菓子を始めてみた気がした。

手入れされている様子を見ると、人がきちんと管理しているようだ。

・・・人がいてよかった。

もしかすると、もう店の人は亡くなっているんじゃないかと心の中で疑っていなくもなかった。

最悪の事態が外れてほっとしていると、店の奥の方でドタドタと走る音が聞こえた。

そして、

「HEY!! いらっしゃい!!」

元気よく制服を着た女の子が飛び出してきた。

やけにテンションが高いな・・・

よくよく見ると、ゆきと同じ服装だ。

「あれ、YOU ARE 高校生?」

「そこはARE YOU 高校生?だろ。」

「こんなの気にしないって!」

なんだ、こいつ。英語を話す割には文法間違ってるぞ・・・

エセ帰国子女か?

「何の用事?この店に。」

倒置法か?

国語も達者でないらしい・・・

「あ、ああ。ただ寄ってみただけだ。」

特に何かあってきたわけではないのだが、まあ悪くない店のようだ。

「OH,OK.YOU ARE 客ってわけネ。」

客まで英語で言えよ・・・

「なかなか珍しいネ、高校生が来るなんて。」

まあ、たしかに高校生が駄菓子屋に来るのは珍しいはずだ。

たいていは小さい子供をつれた親子客とかだろう。

「あんた、俺と同じ学校?」

このエセ帰国子女が着ている服はゆきと同じだ。

もしかしたら、俺と同じ学年という可能性もある。

「ん?YES!I KNOW YOU!!」

あれ、俺のこと知ってるのか・・・

てことは・・・

「もしかして俺と同じクラス?」

うんうんと縦に首を大きく振る。

同じクラス。

俺を知る手がかりになりえる。

何か春や圭祐、ゆきに聞けない俺のこと聞けるかもしれない・・

「YOU ARE 菅原?」

ARE YOU だろ・・・

「そうだ。で、どうかしたか?」

「菅原、あなた入院してたでしょう?」

おっ、まともな日本語だ。

「そうだ。今日退院した。」

「OK!! 理解したネ。CONGURATURATION!!」

なぜか祝ってくれてるし・・・

「ああ、ありがとう。」

とりあえず、手ぶらで帰るのもあれだし何か買って帰るか・・・

適当に、小さなお菓子を一つとってこのトンチンカンな英語を話す女子に渡す。

英語を話すくせに髪は黒いし、身長も低いし見た目は日本人なんだよな・・

顔には幼さ残りなんというか高校の制服をきていなければ、中学1年生に見えるのだが・・・

エセ帰国子女はいいとして、俺の金についてだが金ははもともと事故が起こったときから持ってた財布に入っていた。

そこまでたいした金額ではなかったが・・・

ずっと手の上に置いた小銭が微動だにしない。

早く買いたいんだけど・・・

手も一直線に伸ばしているので攣りそうだ。

あれ・・

反応しない・・・

渡してるのに、何にも反応してくれないんだけど・・・





じっとおかしな女子を見つめていると、

目をパチクリさせて

「私・・・スキ・・・」

一瞬自分の耳を疑う。

スキって、え?

はっきりと聞こえたスキという言葉。

は?

何が?

俺が?

いやいや、まてまてまて。

このタイミングで?

いくら日本語がおかしいからって、そりゃないだろ。

英語か?

suki?

いやいやいや。

まさか、ここで告白?

まさか。

でも、俺が記憶をなくす前にはこんな関係だったのかもしれない・・・

ありえなくもないんだ・・・

だいたい俺は不良だぞ・・

不良に積極的に話しかけてくるなんて、そんな関係でしかありえないんじゃないか・・

うっすらと記憶を無くす前は春だったという希望が舞い降りる。

だが、希望の前に現在の俺には記憶がない。

どうしようか、振っていい奴だったら後悔するし、でもいやな奴だったら変な噂も流れて最悪だ・・

でも、見た目もいいし、悪い奴じゃないと思うけど・・・

でも俺に話しかけてるんだ、不良に・・・もしかしたら何か絡んでるかもしれない・・・

こうみえて、裏の女番長とか・・・

俺が必死に考えている長い間、おかしな女子は目を閉じてずっと無言のままだ。

その顔がどこかなつかしく思えた

やばい、返事をを待ってるのかもしれない・・

はやく何か言わないと・・・

「えっと・・・」

「そのゼリービーンズ」

・・・・

は?

俺が言おうとしたのをわけの分からない単語で遮られる。

そして瞬時に俺が手に握って差し出していたお菓子をもぎ取った。

チョットマテ

「YOUはさすがだネ!!いちばんワタシがすきなの選ぶなんて」

「うわぁぁぁぁあああ。」

なんて恥ずかしい勘違いをしてしまったんだぁぁああ。

よくよく考えたら、こいつは倒置法で言うんだったぁぁああ。

冷や汗が一気に凍りつく。

恥ずかしさで頭が爆発しそうだ。

「なんでおまえは会話を溜めて言うんだ。」

全く、ものすごい恥ずかしい勘違いをさせやがって・・・

だが、まだこいつには何もわかってなくてよかった・・・

「ん?ベツに話してるネ、普通に。」

めんどくさい・・・

「分かったから、早くそれ買うから。」

もぎ取られた菓子を指差す。

「ああ、そうだった。まいどありい。」

なんかすごい言葉遣いだな・・

小銭を渡す。


「瑞樹、ちょっときてくれ・・」

奥の方で歳をとった女の人の声が聞こえる。

声的にかなりの高齢の人のようだ。

そのとき、彼女の顔に暗闇が宿った気がした。

だが、それも一瞬のうちに笑顔に戻った。

でも、さっきまでの笑顔とどこか違う気がした。

「はい、今行く。SEE YOU!!」

「お、おつり・・・」

そういって俺の100円を持ったままドタドタと店の奥のほうに消えていった。

一人残された俺は店を出ることにした。



もう、日が落ちようとしていて、街灯もちらほらと点きはじめた。

蝉の喧騒にかわって、いつの間にか鈴虫の静唱になっていた。

俺はさっきの女子のことを思い返していた。

瑞樹・・・

みずき・・・

やはり聞き覚えはない。

とても明るくて、小さくて、会話がおかしい女の子だった。

でも、それよりも俺の頭に残っていたのは、みずきという女の子が見せた暗闇。

笑顔の裏には・・・

そう思ったが、気のせいかもしれない。

そう思って俺は自宅への道を目指した。

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