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彼方より~From distance~  作者: NIRO
第一章
6/10

退院

俺が目を覚まして一週間が過ぎようとしていた。

リハビリの甲斐あってか、俺はなんとか日常生活を差し支えなく送ることができるまでに至っていた。

最初は大変だったが、これも元の日常に戻るためと自分自身を叱咤してここまでこれた。

ただ、なぜか走ることはできなかった。

歩くことはできたのだが、激しい運動をすると足に激痛がはしる。

医者によるとこの事故で足に怪我はしていなかったいらしい。

なぜ俺は走ることができないのだろうか・・・

ただ考えられるのは事故以前から怪我しているという予想だけだった。

わき腹については怪我をしていたのかどうか分からないぐらいにまでに治っていた。

まだ記憶は戻らないが、身体については何とかなりそうだった。


そして、この一週間、いろいろなことが分かった。

まず、最初に会った二人。

金髪で不良のような奴は、杉岡 圭祐。

馬鹿で直情的だが、なかなかの洞察力がある。

病院に来てはいつも圭祐をゆきと二人で馬鹿にして笑っていた。

圭祐は毎回馬鹿をやってくれて俺を元気付けようとしてくれていた。

本当に馬鹿だけど根はすごくいいやつだ。

そしておしとやかな女の子の方は、乃木 美雪。

ショートヘアーで若干瞳に青がかかった女の子。

この瞳、どこかで見たような、そんな感じがする。

控えめで、何事も譲ってばかり。

この性格じゃ損ばかりしてそうだが・・・

本人がそれでいいというのだから仕方ない。

そして、ゆきは俺のことをまーくんと呼ぶらしい。

ほんと恥ずかしいからやめて欲しいのだが、一向にやめてくれそうもない。

昔からの呼び名だろうか・・・

あと、二人とも俺と同じクラスらしい。

そう、俺たちは三年B組。

なんと三年生なのだ。

そんな忙しい中、一週間毎日欠かさず見舞いに来てくれたことを見ると、どうも俺ら三人は相当の仲らしい。

毎日見舞いに来てくれて、授業のことや、学校の出来事、退院したら何をするかなど、三人で笑いながら話した。

三人で話しながら過ごした時間はとても短く感じた。

時間が許せば永遠に話していられそうだった。

俺の中でも二人は特別な存在だ。

記憶にないけど、そんな記憶なんてどうでも良かった。

記憶がなくなる以前も、とても楽しかったに違いないと信じられるから。

そして、これからも。

毎日が楽しいに違いない。

圭祐と俺が馬鹿をやって、それをゆきが笑う。

そういう光景がとても懐かしいように思えた。

いつまでも、三人で、いつまでも子供のままでいられる。

そんな気がした。

そして、毎日見舞いに来てくれた人がもう一人いた。

下林 春。

そう、俺のクラスの学級委員長をしている暴力系ガールだ。

夕方に俺にプリントを届けに来ては、病院に来るのがめんどくさいと愚痴をこぼす。

「なんであんたのために私がしなきゃなんないのよ!!」

このセリフを何度聞いたことか・・・

脳内再生でリピートされているようだ。

そんなことを言っておきながら、プリントが無い日にもやってくる。

俺の課題の進行状況をチェックためだそうだ。

本人曰く先生に言われて仕方なくやってるだけだとか。

そんなのさぼっちまえよ、と言うと、

「学級委員長なんだからそんなことできるわけないでしょ!!」

といって持っている学生かばんを投げつけてくる。

ほんとに律儀な奴だ。

ただ、暴力については毎回律儀に飛ばさなくてもいいと思うのだが。

毎回のかばん投げで俺の反射神経も上がったかもしれない。

体力テストで、反復横とび判定Aもらえるかも・・・

春の行動パターンは俺を馬鹿にする、文句を言う、反論するとかばんを投げる、俺が避ける、ずっと病院にいてくれればいいのに、と呟いて帰る。

結構この言葉によって心に傷を負うが、その代わりなのか、この暴言系委員長は丁寧に置き土産を毎回してくれる。

帰るときに毎回なにか夜食を作ってそっと置いて帰ってくれるのだ。

毎回容器に貼ってある付箋には早く治せだの学校に来いだの、書かれてある。

なんなんだ、あいつは・・・

ここだけ良いこと書いていればいいと思ってるのか・・・

まあ、いつも夜食がおいしいから許す!!

ただ、直接渡してくれればいいのにと思う。

なんでわざわざ隠して渡すのか。

前なんか、ベットの下にあった。

たまたま看護婦の人が気づいてくれたけど分かるかっての。

俺を馬鹿にする話のついでに、学校での圭祐のことや、美雪のこと、クラスメイトであろう人のことを話してくれるときもある。

まあ、ほとんど圭祐をこらしめた話なのだが。

毎回春に蹴られている圭祐を想像して、圭祐の冥福を祈っている。

ただ、馬鹿話や暴力話で終わればいいのだが、この律儀な学級委員長はそうもいかない。

なんとびっくり、病院で授業をやるのだ。

将来教師にでもなりたいのか知らないけど、俺は正直めんどくさい・・・

だが、そんなこと口が裂けてもいえない・・

いえば本当に口が裂けるかもしれないし・・・

でも、数学や物理の課題プリントの分からないところを教えてくれたりして助かったりもした。

授業はとても疲れるけど、春はいつも笑っていて、俺はその笑顔にいつも元気をもらった。

毎回、毎回俺のため(本人曰く教師のためだが、俺のためになっていることには変わりない)に来てくれている。

春だって委員長だし、もう高校三年生。

そんなに空いた時間はないはず。

春に応えるため、俺は必死に毎日徹夜して課題を解いた。

・・・

・・

それと、自分自身で驚いたというか、分かった点が一つだけある。

ある日、俺は鏡を見た。

そして驚いた。

なんと、といえばいいのか、俺は金髪だった。

俺が外国の血があるわけでもない、俺自身が染めたもの。

言われてみれば染めた様な感じもしなくもない。

ただ、何も知らなかった俺にとっては、衝撃的だった。

圭祐のこと不良と言えなくなってしまったわけだ。

・・・

・・

そんなこんなで時がたち、とうとう退院する日が来た。

この日を待ちに待った俺はとても機嫌が良かった。

「退院、おめでとうございます。」

お世話になった先生方に感謝の意を述べて病院をでる。

そして、空を見た。

とても青く澄み渡っていて、鳥たちが自由に飛び回っている。

そして大きく深呼吸をする。

外の空気を肺いっぱいに溜まる。

三百六十度見渡せる。

蝉たちの声がいっそううるさく聞こえる。

病院のクーラーに慣れてしまった性か立っているだけでシャツが汗で張り付く。

ずっと病院にいたせいで身体もなまっているだろう。

適度に運動もしなくてはならない。

上を向いている俺の後ろから足音が聞こえた。

そして、振り向くと

「よう、やっと退院したか。待ちくたびれたぜ。」

「御退院おめでとうございます、まーくん。」

俺と同じような格好をした不良と清楚なワンピースをきた女子がいた。

「よう、圭祐、ゆき。待たせたな。」

二人が出迎えてくれた。

これからは、いや、これからも三人一緒だ。

たとえ記憶が無くたって、俺たちには関係ない。

そんなものを超えた友情が俺たちを結んでいる、絶対に。

そう信じたい。

「で、これからどうするよ。二人は学校終わったのか?」

三人でバス停に向かって歩きながら話す。

病院は俺たちの住んでいる町の隣にあるので、バスを乗り継いでいかなければならなかった。

「えっと、せっかくまーくんが帰ってきたので、どこかに行きますか?」

「それもいいけど、まさき、おまえ体調大丈夫なのか?」

大丈夫といわれれば大丈夫なのだが、まだ何が起こるか分からなかった。

それに原因不明の足も治らない。

できるだけ遠出はしたくなかった。

「せっかくだけど、退院祝いはまた今度にしてくれないか?」

「あっ、すみません。まーくんはまだ本調子ではないんですよね。無理言ってすみません。また今度にしましょう。」

「そうしてくれると助かる。」

無理言っているのはこっちの方だ。

一刻も早く体調を戻さねばならない。

「そういえばな、今日学校でさ、・・・・」

そうやって話しているうちにバスが来て、そしていつの間にか俺たちの町に着いていた。

着いた頃にはもう空が夕焼け色に染まっていた。

黒いカラスも、もう山に帰って行く。

もうこんな時間だ。

本当に三人でいると時間の流れがはやい。

「これからどうする?」

「何もすることないし帰るか。」

「だな。」

俺たちは並んで歩いた。

それぞれの家路へ。

ただ上を向いてこれから起こる楽しいことに夢を膨らませていた。

あと数歩が崖だと知らないで・・・

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