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彼方より~From distance~  作者: NIRO
第二章
10/10

屋上

俺とゆきは、買った弁当を持って屋上(本当は立ち入り禁止らしい)に来ていた。

圭祐は・・まだ絞められているだろう。全く、可哀想な奴だ。

俺たちは毎日ここで昼食を食べているらしかった。

「ここはいつ来ても落ち着く場所ですよね。今日はまー君と2人なのでちょっと寂しいです。瑞樹ちゃんも弁当を売るのに忙しそうだったですし・・無理言って誘えませんでした。」

「いいじゃないか。圭祐もいないんだし、俺は逆にゆきと2人でいられるから好都合だけど。」

「そ・・・そうなんですか。そう言われると照れてしまいます。」

ゆきは両手で真っ赤に染まった顔を隠していた。

広い屋上に2人きりだと流れる時間も吹く風も、ゆっくりになる気がする。ゆきがとなりに居るだけで心が和んだ。

記憶が無い・・・・その悩みがちっぽけに感じた。


「うん。やっぱり学校で食べるお弁当はとってもおいしいです。まー君もそう思いますよね。」

ゆきが満面の笑みを浮かべている。あんな笑顔を見るとおいしい以外に何も言えなくなる。

「まあ、普通においしいけどさあ・・・なんで瑞樹がパン売ってるんだ?」

「えっと・・・・あ、まー君は事故にあって知らないんですね。それはですね、瑞樹ちゃんの―――」


要するに・・・

 ・瑞樹は、瑞樹の祖母と二人暮らしで、「一条駄菓子屋」を営んでいる。

 ・瑞樹の祖母は、2週間ぐらい前から病気で寝込んでいるので、代わりに瑞樹が駄菓子屋で働いている。

 ・しかし、最近店に客が来ないので毎日、購買の弁当に何かしらの駄菓子(+20円)をつけて売っているらしい。


「駄菓子付いているだけなんだろ。そんなに売れるのか?」

「まーくん、駄菓子をなめたらだめですよ。食べるとすごく幸せな気分になります。」

「そういえば、列に並んでいるのは女子が多かったな。」

「女の子は甘いものが好きな人が多いですから。他の学年の生徒さんたちにも人気があって、お昼休みが始まって10分で完売するときもあるんです。」

「弁当、買えてよかったな。」

「今日はたまたまです。」

ゆきは、微笑して空を見上げた。6月の風、夏の匂いがする。ゆきのきれいな髪を揺らした。

「あっ、あの雲、お弁当に似てないですか?」

青い空にぽっかりと一つだけ浮かんでいる楕円形の雲を指差した。

今、焼きそば弁当食べてるからって・・・あまりにもごり押し過ぎじゃないか?

「そうか?・・・俺は圭祐の顔に似てる気がするな。」

「いや、圭祐君はこんなに顔が横長くありません。それに、あれは焼きそばの様子を描いています。」

「違うな。春とか先生にボコされてああなったんだ。んで、あの焼きそばみたいなのが・・・・ええと・・髪だ。」

「そうきましたか・・・。あ、でも下の少し出っ張ってる部分は・・梅干が落ちたところです。」

「なかなかしぶといなぁ、お前も。・・・そこは・・・だ、だから、ボコされて腫れたんだよ。」

「顔の下の部分に、たんこぶなんかできないと思います。ということで、お弁当が優勝です。」

お弁当が優勝してしまった・・・って何くだらない事で夢中になってたんだ、俺は。

ゆきは俺に勝ったことがうれしいらしく、いつもよりニコニコしている。ぼーっと空を見ていたら雲の形が変わってしまった。上の部分(焼きそば〈圭祐の頭〉みたいなところ)がツルツルになっている。

「ゆき、これはどう説明するんだよ。焼きそばの入ってない弁当になっちまったぞ。」

「いえ、これはですね・・・お弁当がふたを被ったんです。まー君こそ、圭祐君はこんなに髪がぺたっとしてませんよ。」

ふたで言い逃れたか。・・・・こうなったら、俺も圭祐の秘技を使うとするか。

「いや、その・・・圭祐も実は頭にパンツを被ってしまったんだ。」

「えっ。そうだったんですか。・・・・ところで・・誰のパンツなんですかね、それは・・」

ゆきが慌てふためいている。信じられてしまったらしい。

「確か・・・女子のだったような。」

「まさか・・それって、3日ぐらい前に私の部屋から無くなったうさぎちゃんのですか!!」

・・・・しらねぇよ。

「ああそうだ。確か、3日前、圭祐が部屋でそれ被って『私、うさちゃん。今からおばあちゃんのお家にお花をお届けに行くの。あなたも一緒に行く?』とか言って、俺が無視してたら一人でうさぎ跳びして部屋から出て行った記憶があるぞ。」

「へ、へぇ・・・・・。」

ゆきが黙ってしまった。

まあ、圭祐は馬鹿だがそんなことしてたら、もう障害の域だ。病院の雑誌で見た、『女子に話したくない自分の癖ランキング』で、見事5位に輝いていた『久しぶりにパンツ被ってうさちゃんの真似』。最初は、ここら辺で「冗談だよ。」と言おうと考えていたのだがゆきがここまで信じきっていると、俺も間違いを訂正できなくなる。

・・・全く、本当に素直な奴だ。

そんな沙汰話をしながら俺は焼きそば弁当を食べていた。


「なに二人でいちゃいちゃしてんのよー。」

「全く、ひゅーひゅーデース。」

二人で和やかに弁当を食べていると背後からいきなり、そんな声が聞こえた。

「あっ、春ちゃんたちがいます。おーい、こっちです。おーい。」

「おいおい、そんなに呼ばなくても屋上に二人っきりだし場所は分かると思うんだが・・。」

案の定、春と瑞樹は一歩も迷うことなく俺とゆきの所まで歩いてきた。

圭祐もいるが少々足取りがふらついている。何とかここまでこれたような感じだった。

一体あの、ゴリラと春に何をされたんだ・・・・まあ、深く追求するのはやめとこう。

「あたしも、弁当食べよっと。真樹、ちょっと横いい?」

「ああ、今場所空けるから待ってて。」

「空けて下さいデース。私、座りマース。」

「お前は小さいからどこでも入るだろ。」

「入りませーん。10cmも間がないデース。SORY 前より大きくなったせいかもデース。」

「そうだ。大きくなったなあ。・・・父さんは、とても悲しいぞ。」

「あんたは瑞樹の父親か。しかも悲しんでるし。」

春に突っ込まれた。春は本当に乗りがいい奴だ。

「きついから、もっと横空けなさい。」

「もう無理だ、一人ひとりが小さくなるしかない。」

「・・・無理よ。小さくなれるわけないでしょ。」

「じゃあ、お前が抜けろ。」

「あんたが抜けなさいよ。」

思いっきり春が睨んできた。

「先に俺が居たんだ。お前が別のとこで食うのが普通だろ。」

「はぁ、何言ってんのよ。あんたはレディファーストって言葉をしらないの?」

「知るわけないだろ・・・・・・」

「あの・・皆さんひとついいですか。」

今まで何も話さなかったゆきがぽつんと言った。

「・・えっと・・みんなの輪の形を・・・・・大きくする・・・というのはどうでしょうか。」

ぴたっとみんなの動作が止まった。

「さすが美雪ね。こんなことも考えられない様じゃ、あんたたちもボケが始まったわね。」

いやあ、それ言うなら春、お前もだろ。

「何か失礼なこと考えてない?」

「いや、考えたくもない。」

「どういう意味よ。」


「まあまあ二人とも落ち着いてください。」

ゆきの声で俺たちは和解した。

そういえば圭祐は・・・・・コンクリートの上で寝ていた。今は、そっとしておいたほうがいいだろう。



「やっと落ち着いて食べられるわ。うん、今日もおいしい。」

春も瑞樹が売っている弁当を食べている。この弁当、意外と人気なんだな。

「そういえば瑞樹、あんたは弁当食べないの?」

「自分のも売り切れちゃったデース。SO VERY HUNGRY」

「・・あたしの食べてもいいわよ・・・・梅干以外ならね。」

「WHOO REALLY?ほんとにいいの。んー、じゃあこれもらうネ。」

卵焼きを指でつかんでいる。

春は面倒見だけはいい奴だと思う。まあ、だから学級委員長などという大層なものになっているのだが。

もう少し大人しくなれば、絶対にモテると思うんだが・・・

「なにか失礼なこと想像してない?・・」

春がジト目でこっちを見ながら、指をぽきぽきと鳴らしている。

これだからおんなの勘は怖いとつくづく思った。

「AUNNN・・・VERYVERY YAMMY!! やっぱりお腹空いているとき食べると、おいしいデース。EGG焼き。」

「どうせなら『焼き』まで英語に直しなさいよ。」

春のツッコミが炸裂する。

「私もお弁当の中身がまだあったら何かあげられたんですけど・・・」

「そう気落ちするなって。気持ちだけで十分だ。」

「そうデース。気持ちでお腹もいっぱいデース。」

「いえいえ。いつも迷惑掛けてしまっています。ですから何かお礼をさせてください。・・・・えっと・・あ、これでパンでも食べてください。」

ゆきが瑞樹の手に小銭を握らせる。

いやいや、いつも迷惑掛けているのは瑞樹の方だと明確なんだが・・・

「本当にいいの?・・・ WHOO やったー。美雪ちゃん THENK YOU。」

瑞樹は遠慮せず受け取って、購買へ走って行った。ゆきもゆきでまんざらでもない様子で、走っていく瑞樹を見ていた。

「あ、そういえば圭祐は?」

「バカはそこでダウンしてるわよ。」

春の指差す方向を見ると、生きる気力0%の圭祐がコンクリートの床にぶっ倒れていた。

「あれじゃ、しょうがないな。せっかく何かお腹に入る物でもあげようと・・・・」

「え、何々。なんかくれるのか?」

「ああ。ほら、天然水だ。」

圭祐が、コップに注がれた水を勢いよく飲み干した。

「・・ぷふぁっ。やっぱり腹がすいてるとき食べると何でもおいしく感じ・・・・るわけないでしょうが。大体、水は食べ物でもなんでもないよ。H2Oだよ。しかも、さっきゴリラと化け物委員長に殺られた時、水なら死ぬほど飲んだんだよ。」

「だれが『化け物』ですって・・・」

修羅のオーラを醸し出している春(略して修羅春)が降臨した。

「・・・ぐぅわぁああ。あ、頭・・俺はフクロウなんかじゃないっ・・・・いいたたた・・。」

関節がなる音とともに圭祐の叫び声が背後から聞こえる。

俺はゆきの所に避難した。

「まーくん、さっきの雲、見てください。」

隣にいるゆきがふと、小さい声でそう呟いた。

「あぁ。・・・・・二つに割れて変な形になってるな。」

「はい。とっても可哀想です。・・・・・圭祐君。雲がああなってしまったから、本人も傷ついているんですね。」

「・・・可哀想だな。」

「誰も悪くないんです。悪いのは雲です。雲のせいです。」

「ああ、そうだな。」

俺はゆきの言うことにうなずくことしかできなかった。

ただ、俺は、後ろで圭祐を成敗している奴をかばい、成敗されている圭祐もせめず、決して後ろを見らずに、小さな声で雲のせいだというゆきに、感心の心をいだくのみだった。

その後、瑞樹が帰ってきて、一旦試合が中止になった・・・まあ、試合といっても一般人とプロレスラーがハンデなしで、プロレスをしているような感じだったが・・・


「ねえ、前にも言ったんだけど、今週の日曜日どこか行かない?」

ついさっき、圭祐を成敗した春がいきなり耳打ちしてきた。

「はあ?何言ってんだよ。」

前?約束した覚えが無い、ということは記憶を無くす前のことらしい。

「たまには、息抜きしてもいいじゃない。・・・行きたくないなら・・別に・・いいけど・・・」

「いや、行きたくないというわけじゃないんだが・・・どうせなら皆で行こうぜ。」

「・・・・・うん、そうよね。皆で行った方が・・・楽しいわよね・・」

口ではそう言っていたが、顔は・・なぜだろう。怒っているように見えた。

・・・ま、まさか・・

「・・俺を殺す計画だったのか?」

「真樹・・・・なんなら、今、殺ってあげてもいいわよ・・」

春がポキポキと指の骨を鳴らして近づいてきた。

「・・・・落ち着け・・・・春、落ち着けって。」

・・全く、しょうがないわねー、と、春はため息交じりに肩をなでおろした。

「あ、そういえば美雪達は日曜日、空いてるの?」

「私は空いてますよ。」

「俺は別にいいけど・・」

「僕は美雪ちゃんのためならどこまでもついていくよ。」

「ME TOO・・・っていいたいとこなんだけど・・・日曜、行けない。店番で・・・・」

瑞樹は申し訳なさそうに答えた。

「それは大変ですね。他の日にしましょう。」

「NO NO おばあちゃん、風邪。無理させたくないから。皆で楽しんできて。」

いつもハイテンションな瑞樹が・・こんなことを言うとはびっくりした。

ていうか、瑞樹っておばあちゃんっ子なんだな。

「何言ってるのよ。どうせ瑞樹のことだから遊びに行きたいんでしょ。なら皆で行った方が楽しいに決まってるじゃない。あんたのおばあちゃんの風邪が治るまで遊びには行かないわよ。」

「え・・・・。」

「じゃないと、あんたのおばあちゃんのことが心配で楽しむにも楽しめないんじゃないの?」

「・・・うん。OK 風邪治すよ。頑張って。」

いや、治すのはおばあちゃんだから!!と突っ込もうとしたが、裏手を構えた瞬間、春がこっちを睨んできたので突っ込めない。

 ちなみに、その後圭祐が空気を読めないばかりに、軽快に突っ込み、春に蹴りを入れられてどこかに飛んでいったところで、昼休みは終わった。

ああ・・・・・夏が始まる。

屋上の風を受けながら、俺はそう思った。

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