目覚め
「お前は今、何を願う?」
暗闇の中声だけが聞こえる。
誰だろうか、聞き覚えがない。
だが、
「そうだな・・・俺は・・・・」
答えた。
何の迷いもためらいもうたがいもせず。
別に深く考えたわけではなかった。
ただ、今のこの状態でもっとも思っていたこと、それが無意識に口にでただけだった。
本当に、何の意味もない。
声の主が誰であろうと関係ない。
自分の自己満足のために、答えた。
答えは、俺の人生のように、空っぽだった。
しばらくして答え終わっても、声は返ってこなかった。
別に、それでいい。
俺は納得した。
そして、強い風とともに、俺の身体が一面白い光に包まれた。
チリン
金属の高い音で意識が戻る。
鈴だろうか、分からない。
まだ頭はぼーっとしている。
今まで夢を見ていたのだろうか。
まだ眠気は覚めない。
目をかすかに開いても、光は入ってこなかった。
首を動かして周りを見ても一面を闇が覆っているだけでなにもわからなかった。
ただ、無常なまでの雨が俺の身体を打ち付けて、俺の体温を奪っていった。
雨の音以外何も聞こえない。
ここはどこだろうか。
身体の感覚が戻ってくる。
身体の肩から足にかけてとても生ぬるいというか生暖かいというかんじだった。
どうやら水に浸かっているようだ。
塩水ではなさそうだ。
水の流れもない。
ということは池だろうか。
とりあえず脱出しなくては。
足を動かす。
動くのは足首のみで、足は流木か何かに挟まって動かない。
・・・やばいな、これ。
身体を起こそうとすると、激痛に襲われた。
痛みでまともに動くこともできない。
痛い。痛い。痛い。
なにも考え付かない。
起こそうとしたせいでよくない方向に余計に刺さったようだった。
意識がかすれる。
そして、痛みで戻る。
それを繰り返して意識を保っているようだった。
左の腹のほうに手を当てると、木のようなものが刺さっていた。
・・これが原因か。
・・・くそっ、なんだよこれ、抜けねえじゃねーか。
力を入れて抜こうとするが、思うように力が出ない。
だいぶ力が抜けているようだ。
手も震えている。
腹を触ると手にべとべとしたものが付く。
血だろうか。
暗くてよく分からないがべとべとした粘着液は、腹全般に付着しているようだった。
全身が苦痛でなにも考えられない。
どうして自分がこんな目にあっているのか。
一体自分が何をしたというのだ。
どうして、こんなことになっているのだろう。
痛みによって、感情だけが頭の中を支配していた。
・・・・
どうあがいても、一人じゃ無理だ。
とりあえず、助けを呼ばないと。
だが、俺にも体力の限界が近づいていた。
とても眠くて声がだせなない。
眠ってはいけないと自分を叱咤したが、俺は眠気を抑え切れなかった。
痛みよりも、眠気が勝ってしまったのだ。
とても気持ち良い。
気持ち酔い。
ああ、意識が飛ぶ。
その瞬間まぶしい光が目に差した。
なんだろうか。
眠りかけていた意識が戻る。
懐中電灯だろうか。光が揺れながら近づいてくる。
よかった、人だ。助かった。
「・・・くん。」
雨の音で言葉が打ち消される。
助けがきたことに安心したのか、そのまま俺の意識は暗闇の中へ落ちていった。