第9話 影に棲むぷもーんときゅにゃ〜
また、生まれてしまった。
モンスターが。
いや、もう“またか”としか言いようがない。
昨日の「ふわふわ浮いてぷもーん」な生物は、結局その後も特に悪さをせず、
むしろフライパンの上で小さく回転して遊んでいた。ちょっとかわいい。
なので、とりあえず買い置きの乾パンで食事を済ませ、昨日はそのまま就寝。
……それが、まずかった。
朝。目覚めて、伸びをして、ふと床を見ると――
「きゅにゃ〜」
増えてた。
なんか新しいのが、蛇みたいな形でうねってた。しかも水っぽい。
……どうも、洗い物をつけおきしていたオケの水から、発生したらしい。
いや待って、水からって。もうパンケーキどころか何も関係ないじゃん。
でもまあ、こいつも無害そう。ぷにぷにしてるし、近づくと「きゅにゃ〜」って言ってくる。かわいいっちゃかわいい。
……かわいいけど、増えると困る。
というわけで、お隣にご報告。
リアさんは「申し訳ありません……」と、やたらとしおらしく頭を下げてきた。
でも、いや、それも違うんじゃないかなって気がする。
「いえ、最初に“砂糖”を信用した僕の判断ミスですし……」
という、どっちもどっちな会話を交わしたあと、
「実は心当たりがあるんです」とリアさんはギルドへ走っていった。
――そして1時間後。
連れてこられたのは、派手なドレスに獣耳つき魔法帽というファッションセンスの持ち主。
「獣魔術師、マナ・シャンレナよ。よろしくね♡」
なぜかウィンクしてきたけど、すごく刺さる視線だった。笑ってるのに目が笑ってない系。
どうやらこの人、商売敵である「薔薇姫亭」という、やたら長い名前のギルドに所属してるらしい。
そして専門は「獣魔術」。
影の中に獣を飼い、使役する魔法。いわゆる影ペット魔法らしい。
今回、ぼくの家に生まれた「ぷもーん」と「きゅにゃ〜」を、
ぼくの使役獣にしてしまおう大作戦、発動。
リアさんの発案らしい。発想がだいぶ突き抜けてきた気がする。
で、さっそく儀式の手順。
マナさんによると、獣魔術は以下の流れだという。
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①対象の獣を簡易結界で囲う
②正面からじっとにらみ合う(※逃げてもダメ)
③相手が「こいつなら従ってもいいか」と思ったら、自ら名前を教えてくれる
④その名前を呼んで、呪縛の呪文をかける
⑤契約成立。使役獣になる
⑥影の中に収納可能。持ち運びもラクチン
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……便利そう。
ただし。
「相手が“こいつ雑魚じゃん”と思ったら、**最悪殺されちゃうかもだから気をつけてね〜♡」
と、満面の笑みで言われた。やっぱこの人もリアさん寄りだ。
まあとにかく、やってみることに。
じっと見つめる。ぷもーんがこっちを見返す。
「ぷもーん」
「……名前は?」
「ぷも……ん……ぽよ〜」
それ、名前か? と疑問に思う前に、もう口が勝手に呪文を唱えていた。
結果、ふわふわも水ヘビも、なぜか呆気なく契約成功。
影の中にすっぽり収まって、呼ぶと出てくる。すごい。ちょっと楽しい。
マナさんいわく「アンタ、獣魔術の才能あるよ」とのこと。
……また方向性がよく分からなくなってきた。
ただ問題が一つ。
こいつら、何ができるのかまったく不明。
攻撃系なのか、回復系なのか、ただの癒やし枠なのか。
とりあえず、しばらく観察してみるしかない。
というわけで、使役獣観察日記、始めてみようと思う。
最初の記録は:
「ぷもーん、浮かんで回ってる。かわいい」
「きゅにゃ〜、皿の水を吸ってる。意外と便利?」
……どうなることやら。