第7話 嵐と食材と、うっすら感じる不穏
朝。
雨音がうるさくて目が覚めた。風がやたら強い。窓ガラスが小刻みに震えている。
ああ、これはダメだ。完全にアウトな天気だ。もう一回寝よう。
……と思ったけど、窓の外が気になってしまって眠れなかった。
こういう日に限って、食料の在庫が少ないのは、もはや神の悪意だと思う。
いつもなら人でごった返している通りも、今日はしーんとしてる。
雨粒がまるで石つぶてみたいに打ちつけてくるし、誰も傘なんて役に立たないと悟っているのか、出歩いている人もいない。
で、そんな中、やたらと耳に届くのが「お城からの拡声魔法による緊急放送」。
これがまた、定期的に流れてくるもんだから、ちょっとしたBGM感すらある。
「大きな嵐が近づいています。これからさらに天気は悪化します。危険ですから不用意な外出はさけて下さい」
……うん、知ってる。知ってるけどさ、冷蔵庫(的な箱)には昨日の煮干しと半端な小麦粉しかないんだよ。
こんな日に限ってカップスープの備蓄も切れてるし、誰か過去の自分に説教してきてほしい。
しかたがない、自炊です。
ほぼ儀式です。なんなら魔術です。材料もないし、レシピもないし、火の魔法は相変わらずコントロールが難しい。
でもまあ、焼けた鍋の底をこすりながら、どうにか“それっぽいもの”を作ることには成功。
味は……可もなく不可もなく、食えなくはない。命をつなぐには十分。涙の味が隠し味。
それにしても、この天気、ちょっと不気味だ。
嵐は自然現象だとわかってるけど、どうもそれだけじゃない気配もある。
……いや、考えすぎかな。昨日の神託で神様の“声”を感じたせいで、少し神経質になってるのかもしれない。
それでも、何かが来る気がする。
この町全体が、息をひそめて待ってるような――そんな空気がある。
ま、考えてもしょうがない。
明日の朝には嵐も落ち着くらしいし、それまで寝て過ごすのが賢者の選択ってもんだ。
とりあえず、あと一食ぶんの食材は確保してる。
明日は晴れるといいなあ。できれば、心の中も。