第51話 神獣の覚醒
……なんだこれ?
視界がはっきり戻ったと思ったら、
目の前には、ピンク色の――羊。
しかも、その頭の巻き角が黄金色に輝き、
リシェーラの紅い魔剣を見事に受け止めていた。
突然の乱入者にリシェーラが後ずさる。
対する羊は、満足げに目を細めると、
「大丈夫ですか?」とでも言いたげな瞳で、こちらを見つめてくる。
そして聞き覚えのある――声?
『ぷもーん』
……ぷもーん?
「お前……まさか、フーヨンか?」
『ぷもーん♪』
間違いない。うちの使役獣、ふわふわの癒し系だったフーヨンが……
進化してピンク色の羊になっていた。
いや、ツッコミどころ多すぎて頭が追いつかない。
フーヨンは軽快にピョンピョンと跳ね、
ステップを刻んでいる……つもりなのか、右へ左へ忙しなく動いている。
時折、金色の巻き角で頭突きを繰り出すが、リシェーラも回避が上手い。
一方でリシェーラの攻撃はというと――
まるで通らない。
金の巻き角で完全に受け止められたかと思えば、
それを外したところでピンクのモフモフな毛並みが、刃を一切受け付けていない。
そこへ駆け寄ってきたのは、メルディ。
「オゼリアプルート、無事!?」
未だ動けずにいる僕を抱き起こしながら、顔を覗き込んでくる。
「おそらく、マインドスルー。
魔力の枯渇に加え、生命力も削られている」
「原因は……あれ?」と指差した先には、もちろんフーヨン。
「……あれ、家で宙に浮かんでた『わたあめ』?」
「そう、たぶん……だけど」
「でも、使役獣をあんな急成長したらダメ。
魔力を根こそぎ持っていかれる、足りないと命まで」
つまり、僕の体が突然ぶっ壊れたのは、フーヨンのせいってことか。
「いやいや、僕はなにもしてないよ!? 勝手にアイツが!」
すると、そばで様子を見ていたクリスさんが口を開く。
「使役獣が主人の意志を無視して行動するなんて、
つまり……格が逆転したってことだよ。おめでとう、下僕くん」
「やめて……現実が重い……」
クリスさんは鞄からごそごそと木の実を取り出すと、僕に手渡してくれた。
「ほれ、これ食べな。魔力、瞬間で戻るよ」
見た目は緑と紫がマーブル模様になったクルミみたいな実。
「マギマグっていう植物の種で、深層ダンジョンにしかない希少種。
並の魔術師なら一粒で全回復できるよ」
僕は即座にボリボリとかじる。
うん、まずい。でも魔力がモリモリ戻ってくるのがわかる。生き返る……。
それにしても、進化したフーヨンの能力はどうなってるんだろう?
元々の能力は「物体の再生」。
今では、黄金の角で斬撃を受け止め、魔剣をはじき、羊毛は刃を弾く。
それって、もう……戦えるモフモフじゃん。
今までギギやミョニルはそれなりに攻撃手段を持ってたけど、
フーヨン(旧名)は唯一の非戦闘系だった。
「自分も戦いたい!」って思いが、あの巻き角になったのかもしれない。
……だとしても、勝手に進化はやりすぎだろ。
後でたっぷり説教決定。
フーヨンは、何度か頭突きのフェイントを入れた後、
くるんと尻尾を振り、その先端――虹色に輝く球体をリシェーラに向けて放った。
シュルルッと飛んで、回避されるかと思いきや、ぐるりと円を描いて――
「背後から!?」
虹色の球体がリシェーラの身体を包み込む。
ぶわっと発光。
骨だけだったスケルトンに、筋肉が、皮膚が――再生されていく。
「あれは修復ってレベルじゃないよ」と驚愕の表情を見せるクリスさん。
「……違うよ、あれは……!
魂が残っていれば、失われた肉体ごと完全に蘇らせるという伝説の魔法。
最上位白魔術――《リペレイター》、神の奇跡だよ」
光が消えたとき、そこに立っていたのは――
紅の鎧を纏った、美しい赤髪の女騎士だった。
神の奇跡…僕はノルズの神殿で聞いた神獣という言葉を思いだした。




