第5話 職業:えーと、なんか、たぶん、全部?
どうやら昨夜はまたしても布団までたどり着けなかったらしく、
今こうして床で雑巾のようになりながら、昨日の出来事を思い出そうとしている。
昨日は、「職業の神様の教会」なる場所に行ってきた。
理由は単純。自分の職業が何なのか、いまだによく分からないからだ。
最初は「冒険者」で通せるかと思ったが、ギルドの受付嬢に
「え、どのクラスですか?」
と聞かれ、反射的に「はい」と答えてから先が進まなかった。
世の中には職業がたくさんある。剣士、魔法使い、盗賊、農民、闇医者、
ツルハシ一筋土木職(※三代目)などなど。
しかし僕のような「なんかよくわからない系」は、ギルドでは対応できないらしく、
「教会で“神託”を受けてください」と紹介状まで出された。
「まさか神頼みになるとは…」
そう呟きながら、ぼくは教会の大理石の階段を登った。
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「本日はどうされました?」
「あの……ぼくの職業、調べてもらいたいんですが。」
「承知いたしました。では神に祈りを。正しい職が導かれるでしょう」
―というわけで、祭壇の前に正座。なんか背筋が伸びる。
司祭さんが、神様に向かってブツブツ何かを唱え始める。
神様のWi-Fiが弱いのか、しばらく無音。そしていきなり――
「えーと……二刀剣士?……あ、いや、精霊術士ですね……
あれ? 錬金術師? ちょっと待ってください……僧侶も……」
明らかに動揺している。まるでバグった占いアプリのように、次々と職業が出てくる。
「……これは……おかしいですね……」
「なにがです?」
「普通は一つか二つに収まるんですが……あなたの場合、
なんかこう……“いっぱい出てきてよく分からない”感じです」
「それってつまり?」
「職業が、多すぎて混線してます。神様も困ってます。」
そして結論:
「お手数ですが、“ノルズ中央教会”まで行ってください。
あそこならたぶん……たぶん、なんとかなるかと……」
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ノルズ中央教会。
地図で調べたら、普通に3日はかかる。しかも山越え。
「無理ッ」
ということで、職業問題はいったん保留。
午後はまた、山奥の工事現場で「二刀流による土木技術」修行を再開した。
どの職業かはまだ不明だけど、
ぼくの手に馴染むのは――やっぱりツルハシのようだ。
いや、違うか。これはもう愛かもしれない。