第48話 砲身の迷宮
自分の中で、何かが膨らんでいくのを感じていた。
リアさんから譲り受けた死者の魔力石をグランに取り付けて以降……
アミラさんからもらった魔力増幅の魔道具『アンフィリアの腕輪』を装備して以降……
その力の高まりが明確にわかるようになっていた。
……いや、それだけじゃない。
きっと僕の中の『月の鏡』が写し取った様々な技能が、渦巻くように僕の内側で混ざり合い、時々制御が効かなくなるような感覚に襲われる。
影の中も騒がしい。使役獣たちがそわそわと動き回っていて、特にフーヨンの様子がやけにおかしい。
何かが近づいているのか?
……そんな感覚で目が覚めてしまった。
懐中時計を見ると、針は蟹(4時)を過ぎて獅子(5時)に差しかかろうとしている。
「……ずいぶんと早く目が覚めてしまったなぁ」
あたりを見回すと、ジャニスが宙にぷかぷかと浮かび、女の子と遊んでいた。
しかも、かなりの美少女。加えて、昨日から増えているアンデッド・インプたちの姿も見える。
「おはようございます、お目覚めですか?」
「おはよう。……で、その子は?」
「この子はですね、ホーントのアンミラーちゃんです。かわいいですよね?」
ホーント?つまり子どもの幽霊、ゴーストか。
「……かわいいとは思いますけど」
そこへ起きてきたメルディがやってきて、一言。
「その子、見覚えがある。チャイルドベースのなれの果て。
アンミラーは魔術反射防衛部隊の姓。最前線にいた盾使いの戦士」
「こんなにかわいいのに戦士ですかぁ」とジャニスは笑うが、メルディの目はどこか遠くを見ていた。
「この迷宮にいるアンデッドの多くは、戦場を共にした仲間たち。
人造生命や魔法兵器の兵士たちも含まれている。
けれど、もう千年以上が過ぎた。アンデッドとして残っているのはごくわずか」
この遺跡は、メルディにとって仲間たちの墓標なのだろう。
ジャニスが突然真顔で言い出した。
「この子たち、連れて帰っていいですかね?」
……はい?
……連れて帰っていいですか?って、家をアンデッド幼稚園にでもするつもりですか? ジャニスさん。
「おはよー、みんな早いね」 そこにクリスさんが登場。
「今日も一日、元気に頑張ろーっ!」
元気なのはいいけど、朝からテンションが高すぎる。
こっちは二度寝希望MAXなんですが。
「朝食をとったら、すぐに生徒たちを追いかけようよ」
「メルディ、例の基地ってここから2階層下なんだろ?」
「うん。多分、3時間ほどで着けるはず」
「でもその基地、本当に機能してるの?この迷宮、魔方陣も守護獣も軒並み停止してるけど」
「基地内部には永久魔力機関炉がある。それが止まっていなければ、機能は生きてる」
「機関炉……そんなのがまだ動いてるのか」
「詳しい説明はあと。行けばわかる」
僕らは朝食を終えると、さっそく出発した。
後ろからは、アンミラーちゃんと手をつなぎながら、鼻歌まじりでついてくるジャニス。
……うん、鬱陶しい。
やがて65階層に到着。
メルディが案内した先は、何の変哲もない壁の前だった。
「ここが基地の入り口」
そう言うと、彼女は壁に向かって手をかざし、呪文を一言。
「我は、帰還した」
直後、魔方陣が浮かび上がり、柔らかい光を放ち始めた。
『認識番号:2355641、個別名称:メルディ・フランシスカを確認しました。ゲート開場します。お帰りなさい』
「中は清浄な空間。ジャニスはここで待機して、アンちゃんと遊んでて」
「はーい♪」
ああ、どうぞ、そうしててください。
メルディに続いて壁の魔方陣をくぐると、現れたのは白く無機質な通路。
明かりがあるのに、光源が見えない。 通路全体が光っているようだ。
床も壁も天井も、何でできてるのか想像もつかない。 これが古代魔法王国の技術……
左右に並ぶ部屋の扉は、固く閉ざされている。『ID』という物がなければ開かないらしい。
メルディによれば、IDとは体内に埋め込まれた個人識別情報だそうだ。
「パキン!」 後ろで音がした。
「あーっ、ナイフの刃が欠けちゃった!」
案の定、クリスさんが壁を削ろうとしてナイフをダメにしたらしい。 ミスリル製なのに……。
「この基地の素材は『ハイパーチタニウム』と『ハイパーカーボン』の合金。
オリハルコンやアダマンタイトにも迫る硬さ。現代の技術じゃ傷一つつけられない」
錬金術もかじるクリスさんは、うんうんと納得していた。
やがてたどり着いたのは、巨大な扉。
メルディが右手をかざすと、ライトが緑から赤に変わり、扉が開いた。
中は半球形の広い部屋。
壁際には見慣れない機械とモニターが並び、中央のステージには円筒状の制御装置らしきものが鎮座していた。
「コントロール、迷宮全体のホログラムを」
すると床から光の柱が立ち上がり、 立体的な迷宮の映像が浮かび上がる。
「これが迷宮全体。巨大な円柱状の構造体で、実は……砲身」
砲身?
「この迷宮は、最大攻撃魔法『バベル』を展開するための“砲塔”」
かつて神と戦争をするため、人類が造った神罰級魔法。
バベルの塔はその魔法を放つ砲台だった。
けれど塔は自壊し、世界は荒廃。文明は一度滅んだ。
「でもこれは対人兵器じゃない。神の先兵、天使や竜族へのけん制用」
そう語るメルディは、手元でホログラムを操作していた。
「ちなみに情報は製造段階で一括ダウンロードされてるから、戦闘員でも基本知識は一通り入ってる。
戦闘員と非戦闘員の違いは、培養槽から出された時の肉体適性」
つまり、剣士になっても魔法や錬金術の知識があるということか。
「コントロール、侵入者の把握状況を」
『侵入者3名を把握。現在69階層にいます』
「ホログラム拡大、表示」
ホログラムが拡大し、複数の点が表示される。
『ブルーポイント=侵入者、グリーン=自軍、レッド=敵勢力です』
「囲まれてるよね、これ……」とクリスさん。
「状況はかなりまずい。コントロール、69階層への出撃ゲートを展開」
『了解しました』
部屋の奥に転送ゲートが浮かび上がる。
「みんな、あそこへ!」
「そうだ、ジャニスは外だった!」
「到達に再召喚すればいい」
「了解」
「コントロール、私のIDを遠隔通信とリンク。合図で強制転移を希望」
『リンク完了、座標固定』
メルディが一言。
「トランスファー」
白い光に包まれ、僕たちはゲートの中へと消えていった。




