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オゼリアプルートの冒険日記  作者: 鳳 翔平
43/59

第43話 死者に寄り添う場所

朝の光がカーテンの隙間から差し込んでくる。


裏庭からは、ブリードのはしゃいだ鳴き声が聞こえ、のんびりした空気が流れていた。


やがて時間が近づき、僕は支度を整えて玄関先でマスターを待っていたのだが──


「マスターに同行するよう言われまして」


そう言って現れたのは、隣のリアさんだった。


え? なんでリアさんが?


そう疑問に思っているうちに、マスターがやってきて開口一番に言い放つ。


「この家な、時々すすり泣きの声が聞こえるってんで誰も住みたがらなかったんだが……お前が何も言わんから、てっきりもう成仏してるもんだと思ってたんだがな」


いきなりそこ突かれますか。


三人で裏の物置へと向かうと、例の幽霊がこちらに気づいて立ち上がり、深く頭を下げて言った。


「マスター、お久しぶりです」


その声にマスターが目を細めて呟く。


「やっぱりお前だったのか、ジャニス」


するとリアさんが突然、涙を滲ませながら走り出した。


「ジャニスーッ!」


そのまま幽霊に飛び込んで──スカッ。


「……ドンガラガッシャン」


当然ながら、すり抜けて物置の中に転がり込んだ。うん、そりゃそうなる。


「オゼリアプルート、紹介する。昔うちのギルドにいた魔術士、ジャニス。今お前が住んでるこの家の、元の持ち主だ」


「改めまして、よろしくお願いします」


「まさか家主さんとルームシェアしてたなんて……思ってませんでした」


なんとも気まずいような、それでいて不思議と馴染むような。


「で、あのバカガキが張った結界のせいで、この中から出られずに十五年……か?」


「はい、まったく迷惑な話です」


「誰かに助けを求めなかったのか?」


「もちろんしましたよ? でも、“た〜す〜け〜て〜”って声を出すと、みんな逃げちゃって……。そのうち、誰も来なくなっちゃって……」


「でも以前見に来た時にはお前の姿なんて見えなかったぞ?」


「ツボの中で寝てました。物置の隅にちょうどいいのがあって、これがもう、絶妙な寝心地で」


──そりゃ気付かんわ。


「……で、今確信した。お前、アンデッドになったな」


「はい、おかげさまで立派なスペクターに成れました」


笑顔で言うな、ジャニスさん。


スペクターって言えば幽鬼の上位種。しかも「見た者の心に恐怖を植えつける」って設定だった気がするんだけど……あれ? ぜんぜん怖くないぞ?


「ターンアンデッドで浄化できなくはないが……元Aランク魔術士のアンデッドとなると、術者側のスキルも相当なもんが必要だろうな」


「そうなんです。いっそこの建物ごと結界壊してしまえばいいんですけど」


「そんなことしたら、お前は討伐対象になる。昔の仲間たちに、お前を殺させることになるぞ?」


その言葉にリアさんが唐突に声を上げた。


「だったら! オゼリアくんの使い魔にすればいいんです!」


──は?


「そうすれば討伐対象にはなりませんし、私も毎日ジャニスとおしゃべりできますし!」


あ、それが本音ね。


「まあ確かに、個人の所有するモンスターなら問題にはならんがな……。ただし、死霊魔術師でもないオゼリアがスペクターを使役するには、それ相応の準備が──」


「大丈夫です、構いません。むしろお願いしたいくらいです」


即答ジャニスさん。軽すぎる。


「だって、ずっと物置にいるよりはマシですし。ワンちゃんも可愛いし」


いやそれ、犬じゃないんですよ。


その時だった。「何を騒いでいる」とメルディがひょこっと登場。たぶんブリードと遊びに来たんだろう。


──ん? ジャニスさん、メルディを見て目がキラキラしてない?


「私、小さくて可愛いものに目がないんです」


ああ、やっぱり。


「マスター! 私、彼女と仲良くなるために現役復帰します!」


動機が不純です!


「でもな、ジャニス。最近あの二人、付き合ってるらしいぞ?」


マスター、変なこと吹き込まないでください!


「そ、そんな事実は一切ありませんっ!」


全力で否定したその時、メルディが僕の袖を引っ張って小さな声で──


「メルディはもう、オゼリアプルートのものだから」


……頭が痛い。


ジャニスさん、ボロボロと涙を流しながら


「オゼリアプルートさん……私をあなたの使い魔にしてください。二人の関係には一切口出ししませんので、せめてこの子とお近づきになることを許してください!」


だから違うってば!


それでも聞く耳を持たず、そこへリアさんがいつの間にか戻ってきて、僕の手に黒い石を握らせた。


「死者の魔力石です。これを使えば……」


マスターが驚いて声を上げる。


「お前、それどこで──」


リアさんは静かに、でもはっきりと語った。


「正直に言います。ジャニスを生き返らせたくて、錬金術を始めました。メタソウルを探し、死者の秘宝を錬成することで、彼女が死ぬ前の時間からやり直せると信じて……」


そう言ってその場に泣き崩れるリアさん。


僕は静かにグランを手に取り、死者の魔力石をその刃に埋め込んだ。


闇が一瞬、世界を包み込む。


そして光が戻った時──


僕はひとりの使い魔を手に入れていた。



---


名前:ジャニス

職業:使い魔・上級魔術士ハイウィザード

種族:スペクター(幽鬼)

スキル:

・黒魔術(火)B

・黒魔術(氷)AA

・黒魔術(雷)A

ユニークスキル:

・レベルドレイン

・ライフドレイン

死霊支配ネクロコントロール



---


ギルドでは一足遅い昼食が始まっていた。


ジャニスの復帰の噂を聞きつけて、ライアン、ティリシア、古い仲間たちも顔を出していた。


その中で、メルディがそっと僕の隣に来て、ぽつりと囁く。


「昼間の言葉……あながち冗談でもない」


──あれか?


『メルディはもう、オゼリアプルートのものだから』


……頭痛が止まらない。

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