第42話 いましたよ幽霊
さて、今日はずっと放置していた裏の物置でも片付けようかなと思ったわけで。
理由はというと、ノルズで手に入れた例の“魔女の首飾り”。
あれに刻まれた魔方陣を、ちょっと写してみたかったんだ。
(リアさん、ブリューの言ってた通りでした。あれは錬金術師が使う「収納の壺」と同じ原理らしいです)
で、その物置なんだけど、マスターからは「中のものは好きにしていい」ってお墨付きをもらってる。
前の住人が置いていった冒険者用の装備なんかあったら嬉しいな~と、淡い期待を胸に。
南京錠を外して、ドアを――
開けた、その瞬間。
……そこにいたのは、顔色の悪い、見覚えのない女性。
白装束、黒髪ロング。
しかも、わりと……しっかりした“霊的実在感”。
「あ、すいません、間違えました」
僕は静かにドアを閉めた。
「うん、物置は空だった。なにもなかった。忘れよう」
そっと南京錠をかけようとしたそのとき――
「すいませ~ん、閉めないでください~!」
ドアの内側から、今にも泣き出しそうな……いや、すでに半べその声が響いた。
「いえ、間に合ってますので」
「そんなこと言わないで、話だけでも~」
「話し相手も、間に合ってます」
「時代は一家に一体、幽霊の時代ですよ~」
「そんな時代、聞いたことありません」
「今ならもれなく私がついてきます~……しくしく」
……そんなやりとりを、30分。
粘り勝ちされてしまった僕は、「話だけ」という条件で渋々ドアを開けた。
改めて見ると……なるほど、確かに綺麗な人だ。
で、彼女はドアの内側にちょこんと座ると、自分の身の上話を語り始めた。
話を要約すると――
昔、大好きだった男のために、レベルを上げて魔法修行にも精を出し、ひたすら頑張っていたらしい。
ところが、彼女のレベルが男を上回った途端――ポイ。
「お前、目立ちすぎなんだよ」とか言われて捨てられたんだとか。
世間体を気にしたのか、男のプライドが粉々になったのか。まぁ、たぶん両方だろう。
そのショックで、彼女は自ら命を絶ってしまった――というわけ。
……可哀想な話だ。
いえ、彼女がですよ。決して彼女のおつむがどうとか、そういうことじゃないです、はい。
「で、それで未練が残って成仏できないと」
「いえ、全然未練なんてありません。むしろ死んだ瞬間すっごく後悔してて。
“私なんてバカなことしたんだろう”って。生まれ変わったら幸せになりたいなーって思ってたんですよ」
「じゃあなんで?」
「その男がですね……私が死んだって聞いた瞬間、“絶対に呪いに来る!”とか言い出して。
この物置に変な結界張って、私の魂を封じちゃったんですよ」
……なんて自己中な男なんだ。
話を聞いてるだけで、なんか無性に腹が立ってきた。
「つまり、その結界が消えれば成仏できるんだね?」
「はい、そうです。でもせっかくなんで……成仏前に、あの男をちょっとだけ呪い殺しに行ってもいいかなって、ふふっ」
おい、そこは笑うところじゃない。
まあ……未練がないって言いつつ、やっぱり少しはあるのね。
それにしても、このままじゃ物置が使えないので、
ひとまず事情をマスターに話してみた。
すると「明日見に行く」とのこと。どうやら心当たりがあるらしい。
何それ、もしかして元カノとか?
最後に、彼女の話し相手としてブリードを物置に置いておいたら――
案外、楽しそうだった。
うん……まあ、いっか。




