第4話 職業不明ってつらい
今日今日は一日、なんだかバタバタしていた。
理由は簡単。財布の中身が残り【100GP】しかないことに気づいたからだ。
いけない。これはマズい。
そろそろ本気で仕事をしないと、お腹が減って倒れてしまう。
……何の仕事かって? これでも僕は冒険者のはしくれ。
そう、クエストを受けてお金を稼ぐしかない!
だけど、ひとつ重大な問題があることに気づいた。
——僕、職業もレベルも不明なんです。
ギルドでの登録はあるけれど、水晶には一切の反応なし。
いったい自分には、どんなクエストが向いているのかすら分からない。
……これって、もしかして冒険者以前の問題では?
「さてさて、どうしたらよいものやら……」
掲示板にぎっしり貼られた依頼書を眺めていた、そのとき。
「あらぁ、オゼリアくんもクエスト選びですかぁ?」
聞き覚えのある、どこか力の抜けた声。
振り向けば、隣人にして錬金術師のリアさん。
あいかわらずふわっとした雰囲気で、周囲の空気までゆるくなる。
少し立ち話。
なんとリアさん、見た目の割に冒険者ランクCなんだとか。
僕なんて、Eランク駆け出し冒険者ですよ。すみませんねホント。
「ランクCって、何か特殊なスキルでも持ってるんですか?」
と聞いてみたけど、「えへへ、ひみつですぅ」とのこと。
……なんだか、思った以上に侮れない。
結局、依頼書をいくら眺めたところで、自分に何ができるのかも分からず。
「草むしりとか、犬の散歩くらいならできると思うんだけどなぁ……」
でも、冒険者になったからには、やっぱり“冒険”がしたい。
けど、生活費も稼がなきゃいけないし。
……よし、これでいこう。
『土木工事の日雇い作業員 報酬:150GP
達成難易度:E』
——スコップを右手に、つるはしを左手に。
こうなったらヤケだ、どりゃあああああっ!
……結果。
どうやら土木作業は、僕の隠れた才能だったらしく、
親方に「明日も来てくれよな!」と声をかけられてしまった。
うれしいような、かなしいような。
日当(クエスト報酬)をいただいたあと、街をぶらぶらしていたら、
気づけばもう夕方。お腹も空いたので、ギルドで晩ごはんをとることに。
中に入ると、またいた。錬金術師リアさん。
「こんばんは。リアさんも夕食ですか?」
「いえ、甘いクエスト依頼がなかったものですから〜」
甘いクエスト?
「だから、のんびり待ってようかと思いまして〜。
一応ここ、私の登録ギルドですしぃ」
……気の長い話だ。
聞けば、このギルドは小規模だけど、**字名**を持つ実力者たちも数名登録しているらしい。
なんだかすごいところに登録してしまった感があるけど……大丈夫なのかな僕。
しかも、お金がない新人冒険者には、装備資金の援助までしてくれるとのこと。
……マスター、いい人すぎます。感謝、感謝です。
そのとき、カウンターの奥からマスター登場。
「いつまでも職業不明じゃ、まともな依頼も受けられん。
職業の神様の教会へ行って、調べてもらってこい」
なるほど、それだ!
“職業の神様の教会”って、基本は転職の啓示を受けに行く場所らしい。
「自分の職業を確認する」って発想はなかったけど……考えてみれば、当然か。
「そうですね。明日にでも行ってきます」
するとリアさんが、笑いながら一言。
「冒険者水晶でも判別できなかったなんて、
よっぽど珍しくてレアレアな職業なのかもしれませんね〜」
たしかに。
「レアな魚を狙う漁師さんだったりして。深海魚ハンターとか。ウフフ」
……洒落にもなってないですって、リアさん。
***
明日は教会に行って、自分の職業を確かめてみよう。
……ちょっとだけドキドキしてる。
なにせこの僕、「何者か、わからない」まま旅を始めたわけだから。
まさか本当に、深海魚ハンターだったりして……?
……いや、それはそれでカッコいいのかも?