第38話 帰路
神殿から宿へ戻る道すがら、ボクたちはいろんな話をした。
……まあ、大半はボクのことだったけど。
でも、あえて“感応者”とか“ルナリス”とか、“大いなる試練”の話はしなかった。
「ちょっと珍しい種族だったから、今まで誰にもわからなかったんだ」
――その程度の軽い説明で済ませておけば、余計な心配をかけなくて済むだろう。
……メルディーにはちょっと勘づかれた気がするけど。
宿に着くと、ライアンがロビーで待っていた。
彼にも同じ説明をしたんだけど――
「なぁんだ、人間か」
って、思いっきりつまらなそうな顔された。
(お前が言うな)
そう言いかけて飲み込んだ。
リューディアさんの姿は見えなかったけど、
どうやら“帰還用の転移魔法”の準備をしてるらしい。
部屋に戻ると、ブリューとグランが待っていた。
二人にも事の顛末を話すと、どこか納得したようにうなずく。
(なるほど……“感応者”とは。確かに主には妙なところがありました)
(とっくに気づいてたぜ、オレ様の見る目をなめるなよ)
「そういえばさ、ブリュー。ブリードのことなんだけど……
どうやら“フロストドラゴンの子”らしいよ。司祭がそう言ってた」
(……はァァァッ!? あのイヌっころが“ドラゴン”だとぉ!?)
(なるほど、司祭殿の言葉であれば信憑性は高いですね。
まだ幼体で角も翼も生えていない……確かに見分けは難しいかと)
(……あの店主、とんでもないの売り飛ばしやがったな)
なんて言ってると、部屋の外から何やら言い争う声が。
見てみると、リアさんがリューディアさんに何か言われていた。
どうやら――
「その荷物、全部持って帰るつもりなら……一人で列車で帰ってきなさい」
という厳しいお言葉を賜ったらしい。
見ると、魔法石にクリスタルローブの残骸、その他モロモロ……
荷物が微妙に“膨れ”ていた。
結局、リアさんはしぶしぶ魔法石を半分売ることに。
ボクも付き添いがてら、もう少しだけ街をぶらつくことにした。
「ねぇ、魔法石と魔力石って、何が違うの?」
ふとした疑問をぶつけると、リアさんが即答してくれた。
「魔法石は使い捨て。一度魔力を放つとただの石。
でも魔力石は違う。永遠に魔力を秘めていて、
魔法のアイテムなんかに使われるの」
「へぇー」
(今まで適当に使ってたな……反省)
そんな話をしながら、ふと通りかかったのは、こないだ鎧を買った店。
『光の魔力石入荷しました』の貼り紙が、堂々と店先に掲げられていた。
「……は?」
「おっ、こないだの兄ちゃん。まだいたのかい?」
ちょうど店の主人が店先に出てきたところだった。
話を聞くと、どうやら“光の魔力石”の多くは、
あの“オーブの湖底”から採取されるらしい。
この街――教会都市“ノルズ・グニル”が入手には最適とのこと。
とはいえ、運とタイミングが全てらしく、値段もとんでもない。
……買えるわけがない。
「代わりっちゃあなんだけど、これ……もらってくれないか?」
と、店主が差し出してきたのは、鮮やかな深緑色の魔力石。
「これは……風属性?」
とリアさんが言うも、グランが首を振る。
(風属性ならば、これほど濃い緑にはなりません。
癒しでも守護でもない。私も、これは初めて見る石です)
「そうなんだよ。誰に見せても正体がわからなくてね。
売り物にするわけにもいかんし……だったら持っててくれよ」
ありがたく頂戴することにした。
(……こうしてまた、正体不明の“何か”が手元に増えていく)
リアさんは魔法石を高値で売れてご満悦だったようで、
なんだかご機嫌だった。
宿に戻ると、リューディアさんの転移魔法も準備万端。
「では、帰りましょうか――私たちの町へ」
そう言って詠唱を始めると、空間に“ぽっかり”とゲートが開いた。
「順番にくぐってくださいね」
――短い間だったけど、この街でもいろんなことがあったな。
試練の予感、新しい仲間、そして……ちょっとだけ、大人になった気分。
ゲートをくぐった先に広がっていたのは、見慣れた景色だった。
『姫舞花亭』
――ただいま、タートルヘッド。




