第31話 白き山と心なき者の声
――夜明けとともに、ぼくたちは細く険しい山道を登り始めた。
ここはノルズ山脈。
目指すは、その頂にあるという“中央教会”。
まだ秋のはずなのに、山のてっぺんはすでに雪化粧。
しかも、空模様はどんよりと曇りがち。
(ヒャッハー、こりゃ凍える旅の始まりだな)
ブリューの不謹慎なテンションに苦笑しつつ、黙々と登る。
が、道中はなかなかスリリングだった。
ちょいちょい湧いてくるモンスターたち。
この山の険しさと合わせて、これ一人旅だったら普通に遭難コース。
……うん、ギルドのマスターが同行者をつけてくれた理由がようやく理解できた。
途中、雪がちらつき始め、視界もじわじわと白く閉ざされていく。
そして――それは中腹にさしかかった時の出来事だった。
「うわっ――!」
モンスターの奇襲を避けようとしたメルディが、足元を踏み外してそのまま谷へ落下。
「まずい!」
考えるよりも先に体が動いてた。
ぼくは即座にグランの重力制御を使い、自分ごと谷にダイブ。
加速 → 接近 → 捕まえる → 減速 → 着地!
漫画みたいな展開をリアルにやってのけて、なんとか無事に谷底へと着地した。
……うん、グラン様々である。
(主、ナイス判断でした)
魔力光で無事を上空に知らせると、すぐにリアさんからテレパシーが飛んできた。
《助けに行きますので、そこから動かないでくださいね~》
……うん、声にぜんっぜん緊張感がないのも、リアさんらしい。
「自力で戻れます。このまま先の山小屋で合流しましょう」
《わかりましたぁ~》
で、谷底でぽつんと佇むふたり。
メルディは小さな声でつぶやいた。
「どうして……」
「理由なんてないさ。仲間だから」
そう言うと、「解らない」と、ぽつり。
雪はさらに強くなる。
このまま進んでも遭難コース確定だ。
そんな時、近くの岩陰に洞穴を発見。
ちょっと窮屈だけど、ふたりならなんとか入れる広さだった。
「とりあえず、天気が落ち着くまでここで待とう」
ぼくたちは、その小さな避難所で、しばしの休憩を取ることにした。
中は意外と暖かく、風もさえぎってくれる。
そして――多分、仲間たちの前では言えないような話が、自然と始まった。
「……私は、心がないの」
ポツリと漏れたメルディの言葉。
(え?)と一瞬思ったけど、彼女は真顔だった。
「永遠に子供のまま存在するように作られた“チャイルド・ベース”。
最初に作られた初期型たちは、“心”が壊れて、みんな消えていった。
だから、私たちⅡ型は最初から“心”を持たないようにされたの」
長く生きるうちに、周りは老いて消え、自分だけが取り残される。
出会いと別れを繰り返すうちに、心が耐えられなくなっていく。
だから、“最初から心などない存在”として生きる選択肢が生まれた。
……だけど。
「あなたが、崖から私を助けて飛び込んでくれた時。
心がないはずの私の中で、何かが震えた。
ほんの少しだけど――何かが、芽生えた気がしたの」
そう言って、雪の粒が舞う洞窟の口をじっと見つめるメルディ。
「私たちは人間じゃない。
でも、どんなに研究しても、心って……完全には消せないんだね」
しんしんと降り続いていた雪が、気づけば止んでいた。
まるで空が、メルディの心に静かに寄り添っていたかのように。
ぼくたちは無事に仲間と再合流し、
さらに二日をかけて、ようやく“教会都市ノルズ・グニル”に到着した。
いよいよ、明日。
ぼくの“正体”が明かされる――そんな予感がしていた。




