第3話 アラバ・・・それってカニ?
昨日のこと。
昼間、ふらっとギルドに顔を出すと、懐かしい顔がそこにいた。
——二刀流の剣士、ライアード・メイスン。
世界一の剣豪を目指しているという、あの赤い鎧の男。
そう、僕を助けてくれた恩人。
……あれ? ライアンじゃなかったの? と思ったけど、あれは通称らしい。
ライアード・メイスン。通称・ライアン。
……ややこしいけど、たぶんどっちでもいい。
ライアン(もうライアンでいいや)は、さっき街に戻ってきたばかりらしく、クエスト帰りとのこと。
「久しぶりにメシでもどうだ」と、やたら豪快に酒をついでくる。
断る隙もなく、僕のグラスはどんどん満たされていった。
(※ちなみに僕は酒、弱いです)
食事をしながら、他愛もない話をいろいろ聞かせてもらった。
でも、途中から気になったのは、ライアンがやたらと脇腹をさすっていたこと。
「どうかしたんですか?」と聞いてみると、
「街に入る手前でモンスターに奇襲されてさ。
一撃食らっちまった。たぶんアラバがやられたな」
「アラバ……? それ、何ですか?」
「ほら、ここにある骨。アラバ。……いや、タラバだっけ?」
「……それって、カニ?」
……なんで僕、カニの名前で骨の話されてるんだろう。
ライアン、アバラ(肋骨)のこと、最後までちゃんと言ってくれなかった。
真面目な顔で「たぶんタラバがいってるな」って言うから、笑いそうになった。
でも、笑えない話もひとつ。
ライアンを襲ったというモンスターの話。
ふわふわした胴体、六本足。
身体に見合わないくらい大きな目と口。
そして、近づいてくると「キシャーッ!」と叫んでいたらしい。
……え?
……いや、まさか……
こないだ、僕がパンケーキを焼こうとしてリアさんから“砂糖”を借りたとき、
六本足のパンケーキが部屋から飛び出していった、あれ。
もしかして、あれが……?
まさかね。パンケーキだよ?
でも、見た目も足の数も「キシャーッ」って鳴いたのも、完全に一致。
……うん、ありえるかも。
あのパンケーキ、野生化して進化してる……?
なんてこった。