第29話 それぞれの素性、そして僕は
「気をつけていけよ~」
そんなルドさんの声に見送られながら、早朝の馬車便に乗り込んだ僕たちは、ノルズの山脈を目指して出発しました。
ひんやりとした空気が、まだ寝ぼけた顔をぴしゃりと叩く。空は晴れ。いい天気だ。
馬車の中には、僕たち5人だけ。
街の喧騒もなく、がたごと揺れる車内には静けさが流れていた……のも束の間。
「なぁ……今さらなんだけどさ」
と、ライアンがボソッと呟いた。
「このメンツって、俺以外……人間じゃねぇよな?」
えっ、そうなの!?
「……そのようですね」
リアさんがあっさり肯定。
「そう」
メルディー、変わらず淡白。
「……のようだ」
リューディアさん、いつもの無表情。
あれ? じゃあ今この馬車で、正真正銘の“人間”って、ライアンだけ?
……って、じゃあ僕は!?
「えーと、リアさんは何なんですか?」
「私? 私は“メーチェリー”ですよ。見えないですか?」
さらりとそう答えるリアさん。
メーチェリー——北の極寒地帯に暮らす氷の妖精の亜人族。
つまり雪女、ってやつだ。……冷え性とは無縁そう。
「で、メルディーはチャイルド・ベース……だよね?」
「そう」
語尾が伸びない、断言スタイル。さすがメルディーさん。
ちなみに昨夜、その「チャイルド・ベース」について、ブリューがそっと解説してくれた。
(あれはな……古代魔法王国の時代、戦うためだけに作られた人造人間よ。
成長の“ピーク”とされた幼年期の能力を永遠に持続させることで、
最大効率の戦士を作ろうって狂気の産物だ。つまり、永遠に子どもってわけだ)
……それ、なんかすごく切ないやつだ。
「で、リューディアさんは?」
「私か? 私は“ミロン”のクオーターだ」
“ミロン”……どこかで聞いたことがある。確か――
(多眼を持ち、複数の視界と意識を操って、離れた物や空間を自在に操る。
古の世界に名を馳せた幻獣の一族ですね)
と、グランがフォロー。
「ま、純血のミロンはもう滅びたけどな。クオーターやハーフは、まだ生きてる。私のようにな」
さらっと言うけど……つまり、皆それぞれ、人じゃない“何か”の血を持っている。
それにしても、こうやって聞くと全員が「自分とは何者か」をちゃんと知ってるんだな。
じゃあ僕は――?
「……」
結局、僕だけが正体不明のまま。
(焦ることはありません、主あるじ。
すべては“神の意志”の定めし時に明らかになります)
……グラン、それが一番こわいって。
静かに進む馬車の中。
けれど僕の心の中だけが、少しずつざわざわと波立っていた。
——僕は、一体、何者なんだろう。
リアさんの種族イリュージアが魔法王国の名前とかぶっていることに気がつき変更しました。
『イリュージア→メーチェリー』
ロシア語の吹雪から取りました。雪女ですもんね。




