第28話 銀狼亭の夜は更けて
ここが、北の国境の町「ニブルヘルム」かぁ……
列車の窓から見下ろすその町は、岩山を切り開いて築かれた要塞都市で、ぐるりと町全体を取り囲むのは、まるで巨人の盾みたいな分厚い城壁。
見た瞬間、ちょっと圧倒された。
「ここまで厳重って、やっぱり国境だからですかね?」
(いえ、主あるじ。あの壁は“外からの敵”を防ぐためというより、“中からの何か”を閉じ込めるためかと…)
え、こわいこと言わないでグラン。
それはさておき——
例のモンスター騒ぎの影響で、僕たちの列車は4時間遅れ。
乗る予定だった登山ルート行きの馬車は、当然ながらもう出発済み。
「今日はここで一泊だな」
ライアンのその提案に、全員一致でうなずいた。
駅前の掲示板には【本日、魔導登山馬車の最終便は運行終了】の張り紙。……まぁ、仕方ない。
でもギルドのマスター、実はちゃんと手配してくれていたらしく、僕たちは紹介状を持ってとある宿へ。
その名も――
『風雪の銀狼亭』
なんていうか、妙にカッコいい名前だ。
「姫舞華亭」の兄弟ギルドが運営してるって話だけど……入口をくぐった瞬間、みんな同時に固まった。
——そこには、まさしく“あのギルドマスター”がいたのだ。
「おぉ、お前らか。ギルのとこの若ぇのってのは」
「……ギ、ギルさん?」
「……いや、ちょっと待って。声が違うような?」
「ヒャッハー、あれはギルの影武者だ! やべえ、こいつら何人いるんだよ!?」
(ちがいます、ブリュー。たぶん双子です)
「あっはっは、びっくりしたか? オレはギルの双子の弟、ルドってんだ」
……納得。そっくりだけど、ちょっと声が低くてガタイがいい。確かに双子っぽい。
「長旅おつかれさん。今夜はゆっくり休んでけや」
「ありがとうございます!」
二階に荷物を置いて、夕食の時間。1階の酒場で、遅めの晩ごはん。
おぉ……さすが北の国境。鹿肉のローストに、スープは根菜たっぷり。どれもこれもおいしい!
そして始まる、宴(という名の飲み会)。
「飲むわねぇ、メルディさん……」
と、ぼそりと呟いたリューディアさんの視線の先には、ジョッキ片手にガンガン空けていく、ツインテの小柄な少女(外見)。
「わたしを子ども扱いするな、悠に500は越えてる」
「えっ……?」
(チャイルドベース……なるほど、納得です)
「……そう」
それだけ言って、メルディさんはまた無言でジョッキを煽った。
……なるほど、深く突っ込んではいけない系の事情ってやつだ。
よし、これは後でこっそりグランに聞いてみよう。←(やめとけ主あるじ、命が惜しけりゃな)
そんなこんなで、ニブルヘルムの夜は静かに更けていく。
明日はついに、ノルズ山脈への登山開始。
あの山の向こうに、ボクの“正体”があるんだ。
わくわくと、ちょっぴり不安を胸に抱えながら——
今夜はぐっすり眠れるといいな。




