第1話 今日が始まり
目が覚めたとき、見上げた天井には見覚えがなかった。
木の梁、古びた白い漆喰。鼻をくすぐるのは、酒と薬草と獣脂が混ざったような匂い。どこか賑やかな声が聞こえてくる。
……酒場? いや、騒がしいけど、何か違う。
体を起こすと、見渡すかぎり見知らぬ顔ばかり。皆、どこかしら傷だらけで、武器や鎧を身につけている。どう見てもただの酔っ払いじゃない。これは——
「おっ、やっと目ぇ覚ましたか」
どすんと座っていた赤い鎧の大男が、笑いながら声をかけてきた。片側だけ白髪混じりの短髪。精悍で、頼れるというより、ちょっと怖い。けど悪人には見えない。
男はライアンと名乗った。戦士だという。
その隣には、流れるような金色の長髪をもつ女性。僕よりも少し年上くらいだろうか。肌が透き通るほど白くて、耳が少し長い。初めて見るけど、たぶんエルフってやつだ。
彼女はティシリア。精霊魔術師。名前も姿も幻想の絵本から出てきたようだった。
ライアンたちの話によると——
朝、漁に出た漁師が沖に浮かぶ僕を見つけ、半ば死にかけていた僕を船に引き上げてくれたそうだ。港に戻ったあと、応急手当と魔術の治療を施してくれたのがこの二人だという。
……まったく、なんという恩人たちだ。
あとでちゃんとお礼しなきゃ。いや、そもそもどうやって?
「で、ここは……どこなんでしょう?」
問いかけると、ライアンはどこか得意げに言った。
「ここはエルファーリナー大陸の南端、霊峰ノルズのふもとにある港町、タートルヘッド。その中でも腕利きの集まるギルド——“姫舞花亭”だ」
舌を噛みそうな名前だけど、洒落た響きのギルドだ。どうやら冒険者の拠点らしい。
奥から、カウンターの中にいた初老の男性が顔を出す。目尻の皺と分厚い腕が印象的だった。彼がこのギルドのマスター、“ギルティー・ベイ”。皆からは「ギル」と呼ばれている。
「で、あんたは何者なんだ?」
そう問われて、はっとした。
自分のこと……何も思い出せない。名前も、出身も、何をしていたのかも。
「……あれ? 俺……誰なんだ?」
「記憶喪失か」とギルマスターがため息混じりに言うと、「とにかく試してみるか」と手招きされた。
案内されたカウンターの一角に置かれていたのは、大きな水晶とその下に吊るされた羽ペンと紙。どうやら、冒険者登録用の魔道具らしい。
言われるまま、右手を水晶に乗せると——
淡く光が満ち、ペンが自動的に動き出した。
名前:オゼリアプルート
性別:男 年齢:不明 種族:不明 職業:不明 LV:不明
出身地:今は失われし、過去と未来を繋ぐ狭間の魔都
……何だ、これ?
周囲がざわつく。みんな、口々に「ありえない」「なんだその出身地は」と呟いている。
「オゼリア……北の地の神の名。プルートは冥界の神か」とギルマスターが目を細めた。「お前さん、名前からして只者じゃないようだな」
どうやら僕は、どこのギルドにも登録されていない“新規”らしい。
「どうだ。冒険者になってみないか?」
ギルの提案に、正直迷った。自分の正体も分からない、素性もあやしい。人に迷惑をかけるかもしれない。
けれど、ライアンが肩を叩いて笑った。
「厄介事なんて、冒険者にはつきものさ。もしお前が、この世界の未来に関わる存在だったとしても——関われるなら、それは誇りだろう?」
……ありがたい言葉だった。
ここから始めてみようと思った。何者かも分からない自分を探す旅。きっと、どこかに答えがあると信じて。
その日、僕は冒険者になった。
そうそう。
町の雑貨屋で、洒落た皮の表紙のノートを見つけた。手持ちは少なかったけど、どうしても欲しくて思い切って買ってしまった。
これからの日々を記録するために。
自分がどこから来て、何者なのか。何を選び、どこへ向かうのか。
全部このノートに書き記していこう。
タイトルはこうしよう。
『オゼリアプルートの冒険日記』
はじまります。
しばらくほったらかしになっていましたが、
更新を再開しようとおもいます。
まず元々ある連載を色々修正していってから
最新話の投稿をしていきますので
長い長いなが~い目でお見守りください。
元々の投稿作品を色々編集中です
突然話の一部が変わったり付け足されたりしていきますが
何卒ご了承を
ちなみにこのギルドの名前
サンペリーナって、おやゆび姫のことっス