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7 出会ったヒトの子は

ハウザー視点です。

短いです。


 目の前にいるのは、ごく普通の少年に見える。


 黒い紙に黒い瞳、黒い服。防具すら身につけていない、十五、六のヒトの子供。


 出会ったのは、つい昨日のこと。


 リャーナの湯屋で、常識など無視したその振る舞いがまず目を引いた。思わず金の使い方など延々とレクチャーしてしまったほどだ。


 何となく、雰囲気のあるすこし変わったこの少年は、世間知らずだけれど話すとなかなかに知識が豊富だったし、かなり度の強い酒をあれだけ飲んで酔い潰れたにもかかわらず、全く二日酔いにもなっていないし。ギルドで冒険者登録をしたいと連れて行けば、ヴィヴィを驚愕させるほどの腕前を示すし。


 面白い、と思った。


 それに氷雪の神のことまで聞いてきたのだ。創世神に反逆し、あげく天を追放され、今またこの世界に仇なそうとしている秘されしかの神のことを。


 


 非力なはずの彼は、武器すら使わずに自分の二倍以上あるオーガ四体を数瞬のうちに倒してしまった。悪魔族の自分だって蹴りでオーガの頭を粉砕するとか、素手であの鋼のような筋肉に覆われている腹に大穴をあけるとか不可能である。それも返り血をすべて避け、一滴も浴びないなどとは。非常識極まりない。


 おそらくは、手配書が回されていた城に忍び込んだ賊というのも彼なのだろう。


 秋良は、なぜかすっきりとしない顔で首をかしげつつハウザーを振り返って、少し困ったような顔をした。ハウザーが複雑な顔をしていたからに違いない。確かに驚いたが、自分に仇なすわけでもないのだからむやみに恐れたりはしない。そこまで小心者ではないつもりだ。


 「‥‥・行くぞ」


 それでもなんといえばいいか少し迷って、結局それだけを口にすると、街の方角へ秋良を促す。街までは二時間近くかかるから、今から帰ればもう日が暮れてしまうだろう。一応野宿の用意はしてきたが、できれば屋根の下で温かいベッドで寝たい。ということで、もう依頼はこなしたわけだし、ハウザーはさっさと帰ることにした。


 「え・・・・っと」


 何も聞かれないことに、少し戸惑ったように、彼はその場に立っている。ついていくべきかここで別れるべきか迷っているようにも見える。


 「何してる。もう依頼は終わっただろう、さっさと帰ってひと風呂浴びるぞ」


 オーガの死臭はきついからなーとあえて明るく言えば、ようや控え目な笑顔を見せて歩き出した。


 「何も聞かないな?」


 気になっていたのか、歩きだしてすぐに彼が聞いてきたので、ハウザーは肩をすくめた。もともとそれほど詮索好きでもなし、(自分が詮索されると困ることが多いので)相手が話さないことを無理に聞き出すようなまねはしない。特に一度懐に入れたものはたとえどんな事情があろうとも関係ないし、態度を変えることはない、というのが彼のポリシーである。


 しかし、一つだけ聞かねばならないこともある。


 「お前、何で城に忍び込んだんだ?」


 「‥…やっぱりあれが俺のことだってわかるか」


 「そりゃあな。同じ特徴のヒトの子はたくさんいても魔法を使うとなるとそうはいない。それも城に忍び込み、かつ見つかっているのにあっさり逃げられるほどのものならばなおさらだ」


 何でばれるかなあ、と首をかしげた秋良に、ハウザーは苦笑した。力のある魔法士がどれだけ貴重か、彼は本当にわかっていないのかもしれない。でなければ、こうも簡単に人前で強力な魔法を使いはしないだろう。


 「でも王立魔法学院があるだろう?」


 結構な数の魔法士を養成しているのではないか、とギルドで見た掲示板の依頼を思い出したのか秋良が聞いてくる。王立魔法学院は確かにそこそこの数の魔法士が要請されているし、毎年強力な魔法士が世に出ている。けれど、王立魔法学院の生徒も卒業生もすべて学院長が把握しているし、真っ先にそこは調べられただろう。そこで見つからなかったからこそ手配書が回っているわけで。市井にはそこまで強力な魔法士はいない。せいぜいが占いをする程度なのだ。


 説明し、納得した様子の秋良に改めて城に忍び込んだ理由を問う。


 「……うーん、なりゆき?」


 なぜ首をかしげる。しかも疑問形。


 「それが気がついたら会議室みたいなところにいて。俺にも理由はわからないんだよねぇ。状況把握もできないままあれよあれよという間に牢屋にぶち込まれてさ。しかも何も説明もせずに攻め立てるんだよ?俺にどうしろと。というわけでわけわかんないからとりあえず出てきたってわけ」


 わけがわからないのはむしろ聞いているハウザーのほうだ。が、とりあえず悪意があったわけではないようなので、それだけきければ十分である。


 「ほう。わかったようなわからないような。だがそれならなるべく目立たんようにするんだな」


 捕まったら馬鹿らしい。


 「わかってる。俺だって目立つ気はないよ。とりあえず目標は王都の片隅でひっそり平穏に生活することだからな。今回は一応自分の実力の確認っていうか・・…自分の力をある程度は正確に把握しておかないといざというとき困るしね」


 今回である程度確認はできたから後は湯屋の二階でたまに冒険者の仕事をしつつひっそりおとなしくしておくよ、と笑う。


 そううまくいくものだろうか、秋良の力と性格。どう考えても騒動が起こりそうだと思いつつ、ハウザーはにやりと笑う。


 やはりこいつといると面白いことがありそうだという予感がするのだった。



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