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4 ギルドですネ

 「‥…ダメか」


 ログアウトできなくなって初めての夜が明けたが、やはりログアウトの表示はなかった。昨日からの疑問がまた脳裏をかすめる。ここは彼の創った《オルテリア物語》というゲームの中ではなく、もしかしたら、よく似た別の世界で、『現実』なのではないかと。ゲームの中にしてはNPCが自由に動きすぎるし、受け答えも『ゲーム中』では考えられないほどに『生きて』いる。そもそもゲームでは何千年も未来の設定まで作りこんではいないし。ゲームではありえない『二日酔い』にもなるし。魔法【異常回復】でさっさと回復したが。


 ともあれ、このままでいても仕方がない。ここがゲーム中でも現実でもしばらくはここにいなければならないことは確実なのだから。


 考えてもわからないことを考えて時間をつぶすほど、彼は暇人ではなかった。


 怒涛の勢いで過ぎ去った初日に確認しそこなったことを確認していく。


 まずは、アイテムだ。いくつか取り出したりしまったりしてみたが、ゲーム中と同じように出し入れができる。ゲーム中は気にもしなかったが、ここがゲームの世界ではなく、『現実』だとするなら、このアイテムは一体どこから出し入れしているのだろう…・多少気にはなるが、面倒なことになりそうなので、考えるのはやめることにした。使えるのだから問題はないとしておこう。昨日のこともあり、お金も問題なく使えるようだが、使い方には気をつけないといけないようだというのは、学んだ。今日からはもう少し慎重にしよう。


 魔法や技能についても確認したいところだが、まさかこんな街中で魔法や技能をぶちかますわけにはいかない。迷惑極まりないだろう。魔法は昨日【転移】が使えたので、問題はなさそうだし、先ほども【異常回復】が使えた。しかし、やはりもう二つ、三つ(特に攻撃魔法系と回復系)は確認しておきたい。いざというとき、使えません、では命にかかわりそうだ。


 「おい、どうした?」


 起きぬけに、ウインドウを開いてごそごそしていると、横で寝ていたハウザーが目を覚ましたらしく、声をかけてきたのに、何でもない、と返してウインドウを閉じる。どうやらこのウインドウは、秋良にしか見えないようなのだ。つまり、人前でウインドウを開いて見ていると、中空を眺めてぶつぶつ言っている怪しいヒトにしか見えない。アイテムを取り出すときも気をつけないと、何もないところから突然出したように見えるので、やはり怪しまれてしまう。また牢屋に入れられるのは勘弁願いたいので、行動は慎重に、慎重に…・


 「今日は街を案内してくれるんだろ?」


 何かを聞かれる前に、先手をうって問いかける。


 「ああ。だがその前に冒険者ギルドにちょいと顔を出したいんだが」


 「・…冒険者ギルド」


 いいことを思いついた、とにんまりする。冒険者ギルドにはもちろんさまざまな依頼が寄せられるだろう。ゲーム中でもいろいろなクエストが冒険者ギルドに行けば受けられるようになっていたし。結構な頻度で、どこのギルドでもプレイヤー同士のアイテム交換、パーティー募集、情報交換なども行われていた。


 冒険者ギルドに行けば、もしかしたらほかのプレイヤーの情報が得られるかもしれない(ここがゲームの中だと仮定してだが)し、そうでなくとも依頼を受けて魔物討伐とかに行けば、魔法の効力が試せるだろう。もちろん、一人で外に出て魔物を相手に魔法を使ってもいいのだが、あまり目立つまねは避けたい。昨日のこともあるし。


 「冒険者って簡単になれるものなのか?」


 「‥…なれるが、冒険者になるにはそれなりに技能がいるぞ。魔法が使えるとか剣が使えるとか体術が優れているとか。外は魔物だらけで危険だからな。ある程度は自分の身を守れないと冒険者として認めてもらえないんだ」


 「あ、それなら大丈夫。こう見えても俺、強いから」


 簡単に請け負うと、なぜか疑わしげな眼で見られた。人を見かけで判断するのはよくないと思う。


 「いいだろう」


 秋良に引く気配がないとわかると、ハウザーは少し考えて首肯した。


 「冒険者になるには、闘技場で魔物を相手にして勝てばいい。冒険者にはギルドが定める『ランク』があって、全部で十一のランクがある。最低ランクがH。はじめての登録者はまずここからだ。どんなに強くてもこれは変わらない。そのあと、依頼をこなしていくと、ポイントがたまっていく。ポイントは依頼によって違う。ポイントを貯めれば昇段試験が受けられて、昇段すると受けられる依頼も増えるから活動範囲も広がってくという仕組みになっている」


 「なるほどー」


 基本はゲームと変わらないようだ。


 「ちなみにハウザーのランクは?」


 「俺はAだ。あと千ポイントで昇段試験が受けられる」


 そうしたらダブルAというわけだ。プレイヤーであれば、ランクAというと五百から六百レベルだ。意外、と言っては失礼かもしれないが、割と高ランクである。秋良が見るところ、もう少し弱いかと思ったのだが。


 ともかくも、話はついたので、まずは冒険者ギルドへと出かけることとなった。





 「‥…普通だ」


 ギルドだと言われた建物は、なんというか、どこをどう見ても、大きい民家である。いや、民家にしては大きいよ、大きいけどね。でも見た目はどう見ても民家ですよね、と言いたい。 


 玄関の横に小さな看板があって、なぜか墨で《冒険者ギルド ルテリア支部》(レナート王国王都のここはルテリアという名前らしい)と書かれていた。


 「?どうした」


 ゲームではちょっと重厚で、いかつい感じの建物にしたのに、と落胆している秋良を、ハウザーが不思議そうに見ている。


 「何でもないです。さっさと入ろう」


 「ああ」


 何気にコメントは避けて、ハウザーを促す。


 中は、広々としていて、カウンターが、手前に二つと、奥に一つあった。あとはテーブルや椅子が並べられている。


 奥のは一目でわかる。酒場のようだ。手前のカウンターは、一つは依頼の受注などをするカウンターで、カウンター横の掲示板で受けたい依頼を探すらしい。もう一つのカウンターが、登録、昇段試験受付カウンターだという。


 「ヴィヴィ」


 ハウザーが、右のカウンターのエルフ女性に話しかける。


 「あら、ハウザー久しぶりね?とうとう試験を受けに来たのかしら」


 「馬鹿を言え。今回はこいつの登録試験をしてほしくてな」


 苦笑してそういうと、エルフ女性の前に秋良を押し出す。


 「あら、坊や。その細腕で本当に試験を受けるの?」


 「駄目かな」


 敬語とか面倒なので、だれに対しても普通に話すことにする。昨日ハウザーに敬語で話しかけて(相手は一応年上なので頑張ったのだ)爆笑されたためもある。


 「駄目ではないけれど、登録試験といえど、相手は本物の魔物よ。場合によっては命の危険もあるのよ。腕に自信がなければやめておいたほうが賢明だわ」


 本当に、無謀な挑戦(に見える)を心配しているのだろう、優しく諭してくる。が、秋良もここで引くわけにはいかない。


 「大丈夫、腕には自信があるから。試験を受けさせてほしい」


 「‥…過信も禁物なんだけど。いいわ。試験を許可しましょう」


 ハウザーの紹介だしね、とにっこり笑うと、カウンターの後ろにある扉を開いた。


 「どうぞ。この奥が試験会場よ。坊や一人で行ってね。付き添いはなしよ」


 ハウザーを振りかえると、ひらひらと手を振られたので、秋良は肩をすくめて、ためらうことなく扉の奥へと踏み出した。


 「あら、あっさり行ったわね。ねえ、ハウザー、あの子は何者なのかしら?」


 「何者とは?」


 「ヒトとは異質な気配を感じるわ。本当にかすかだし、どこがどうとは言えないけれど」


 ヴィヴィの言葉に、ハウザーは素直に感心した。


 「やるな、さすがはエルフってところか」


 「とぼけないで」


 「そう怒るな。俺にだって詳しいことはわからんさ。だが、あのリャーナが受け入れたんだ。何かあるのは間違いないんだろう」


 「‥‥リャーナが?そう・…」


 それきり考え込んでしまったヴィヴィから視線をそらし、ハウザーは扉の奥を見つめる。何者かは知らないし、知りたくもないが、かかわってしまったのだから仕方がない。あの人族の少年は、なぜか放っておけない雰囲気がある。恐ろしく世間知らずで常識知らずだが、悪人とは思えないのだから、それでいいのではないかと思うのだった。


 それに一緒にいると、面白そうだ。最近退屈を持て余していたハウザーはにやりと笑う。


 「ハウザー、気づいてる?」


 「なにを」


 「あなたのほうが悪人面だわ。坊やといて人攫いに間違えられないように気をつけなさい」


 余計なお世話である。

 

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